タマゴサンドと今日の予定
「はあ、朝から酷い目にあったぞ」
ようやく解放された俺は、笑いながらベッドに座った。
もう、着ている服は酷い有様だ。
ズボンは半分脱げかけて半ケツになっているし、シャツの右の袖は完全に脱げていて、一体どんな酷い暴行を受けたんだよと言いたくなる有様だ。
まあ、もちろん引っ掻き傷の一つも有りはしないんだけどね。
脱げた服の下にミスリルの鎖帷子が見えて、そういえばこれってずっと着たまんまだよなあ。なんてぼんやりと考えていた。
いや、マジでこれ、着ている感覚無いくらいに軽いし、楽なんだって。
「だって、ご主人と遊びたかったんだも〜〜ん!」
悪びれる様子も無く、まだ巨大化したままのティグがそう言って嬉しそうに目を細めて喉を鳴らす。
巨大化した時のティグの喉の音は、遠雷みたいな低くて太い音だ。同じ大きくてもニニやタロンとは全く違うから、聞いていると面白いよ。
「楽しかったわ〜〜」
「また遊ぼうね〜〜」
こちらも全く悪びれる様子もなく、小さいいつものサイズになって俺の膝の上に乗って来て甘え始めているソレイユとフォール。
「私も楽しかったです」
「私も、とても楽しかったです」
こちらもいつもの大きさになって、やや遠慮がちに頭を擦り付けて甘えてくるオーロラブラウンカラカルのマロンと雪豹のヤミー。
「私も楽しかったですよ」
ベッドに座った足元に転がって来て、自ら俺の足置き状態になっているのは大型犬サイズになっているオーロラグリズリーのセーブルだ。
ちなみにセーブルは、さっきもこの大きさで遊んでいたよ。さすがにあの巨大サイズになった丸太みたいな腕で叩かれたら、軽くでも俺なら吹っ飛んで即死レベルだって。
オーロラグレイウルフのテンペストとファインは、いつもの中型犬サイズになって尻尾扇風機状態で足元に大人しく良い子座りをしている。
カラカルのマロンや雪豹のヤミー、それからオオカミコンビは、普段あまり過度な接触をして来ない。もちろん朝のモーニングコールや水遊びの時に来たりもするが、同じネコ科でもソレイユやフォール、タロンみたいな甘え方はして来ないんだよなあ。
オオカミコンビだって犬科なんだから、以前のマックスみたいにもっと甘えてハイテンションになるのかと思っていたけど意外に落ち着いていて、いつも一歩下がって控えていますって感じだ。
「それぞれ個性があるけど、甘え方や感情表現も色々なんだな」
手を伸ばしてオオカミコンビを撫でてやり、マックスとはまた違うもこもこの毛を楽しんだよ。
「よし、飯食った後でちょっと全員を順番にグルーミングしてやるか。ブラシも色々ある事だしな」
そう呟いて立ち上がり、とにかく顔を洗いに洗面所へ向かった。
「昨夜は風呂に入ろうと思っていたのに、すっかり忘れていたなあ。じゃあ、今夜は寝る前にゆっくり風呂に入るか」
のんびり休日の予定を立てつつ、顔を洗っていつものようにサクラに綺麗にしてもらい、跳ね飛んで来るスライム達を順番に水槽へ放り込んでやる。
単なる思いつきだったんだけど、時々野球のピッチャーみたいに振りかぶって思いっきり水槽目がけてオーバースローで投げてやると、何故だか大受けしてもっともっととせがまれてしまい、結局、全員をもう一回水槽目掛けて全力投球するという重労働をする羽目になったのだった。
これは毎日は無理。武器を持つ手が腱鞘炎とか肩を壊しましたとか、洒落にならないって。
走って来たマックス達が嬉々として水遊びを始めるのを見ながらベッドへ戻り、とりあえず身支度を整える。
「お腹空いてるんだけどなあ〜〜お昼はまだなのかなあ〜〜!」
わざとらしく尻尾で俺の注意を引きつつ、シャムエル様が机の上で自己主張をしている。
「あはは、結局今日も朝抜きだったなあ。ごめんごめん。はいどうぞ」
一応自分で収納してあるシャムエル様用のタマゴサンドを取り出す。
「わあい、今日はオムレツサンド〜〜!」
嬉しそうなシャムエル様の目の前にお皿を置いてやる。今日のメニューは、分厚いオムレツサンドと、マヨタマゴの上にゆで卵を輪切りにしてレタスと一緒にガッツリ挟んだタマゴサンド二種盛りだ。
「サクラ、遊んでいるところ悪いけど、シャムエル様に飲み物出してやってくれるか」
水場に声を掛けると、すぐにサクラが跳ね飛んで来てコーヒーの入ったピッチャーを出してくれた。
「オーレが飲みたいから、ミルクもお願いします!」
オムレツサンドに早速齧りついているシャムエル様のリクエストでミルクの瓶が追加されたので、俺も今朝はオーレにする事にした。
「はいどうぞ」
いつもの杯にホットオーレを入れてやり、俺もソファーに座ってのんびりとモーニングオーレを楽しんだ。
「いや、これってモーニングの時間じゃあ無いよな。ってか、今何時だよ?」
窓から外を見ると、すっかり上がった太陽が真下に冬の薄い影を落としている。
「あはは、昨日に続いて寝坊決定。あれ、他の皆は?」
またしても朝飯抜きじゃん。悪い事したかな?
「草原エルフ三兄弟は、まだ寝ているね。ハスフェルとギイも起きてはいるけど、まだベッドでゴロゴロしているよ。他も似たようなものだね」
もう半分近くになったオムレツサンドを齧りながらの言葉に、安堵してオーレを飲む。
「じゃあ、シャムエル様のお食事が終わったら、リビングへ行くか」
笑って、もふもふのシャムエル様の尻尾をこっそり突っついてやった。
よし! 飯食ったらその後は、ダラダラ従魔達とグルーミングしながら戯れるぞ!