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楽しいひと時

「うわあ、すっげえめっちゃ並んでる。あれって体験会に参加した人達全員並んでるんじゃないか?」

 見張り用の、脚立よりも背の高い椅子に座った俺は、奥に見えるチケット売り場に行列している人達を見て思わずそう呟いた。

「でもまあ、皆、めっちゃ楽しんで大喜びしてくれていたもんなあ。追加のチケット購入列に並んでくれているって事は、スライムトランポリンをもっと遊びたいと思ってくれているわけだから、感謝しないとな」

 ちょっとだけしんみりしながらそんな事を考えていると、近くのスライムトランポリンからおっさんの低〜〜い声の何とも情けない悲鳴が響き渡り、そのスライムトランポリンに行列していた人達だけでなく、周りの人達までが笑い出して辺りは大爆笑になってしまった。

 いや、あの悲鳴は無い。マジで腹筋崩壊レベルだよ。

 だけど、おっさんの情けない悲鳴は止まらず何度も上がり続けその度に笑いが起こり、俺もしんみりした気分は完全にどこかへ吹っ飛んでしまって一緒になって大笑いしていたのだった。




「お疲れさん、交代するからちょっと休憩して食事をして来いよ」

 ハスフェルの声に周りを見回す。今のところ特に問題はないので、少しくらいなら俺がいなくても大丈夫だろう。

「おう、それじゃあ頼むよ。ええと、ちなみに食事ってどうなってるんだ?」

 ゆっくりと椅子から降りながらそう尋ねる。

「もちろん、入り口横の会議室にスタッフ用の弁当を準備してくれているよ。俺は先に頂いてきたから、ゆっくり食べて来てくれていいぞ」

「おう、さすがは商人ギルド。スタッフへの気配りも完璧だな。ありがとう、それじゃあ行ってくるよ」

 交代して椅子に上がるハスフェルにお礼を言って、俺はゆっくりと歩いて入り口横の会議室へ向かった。

 だけど途中にちょっと遠回りをして、追加のチケット売り場を見に行く。

 会場の端に設置されたチケット売り場は、壁を背に細長い机を横一列にずらっと並べて、机単位で列を作ってもらいチケットの販売を行なっていた。しかも一つの机にスタッフ三人がかり。受付と購入枚数を聞く役、実際のチケットを用意する役、そして会計をする役だ。

 真ん中の人の前にある箱の中にはチケットがぎっしりと積み上がっていて、手早く必要枚数を取れる仕組みだ。

 少し立ち止まって見ていたんだけど、それはそれは見事なまでの連携プレーでスタッフの人達の動作が全くと言っていいほどに止まらない。

 なので、受け付けてから会計を終えるまでの速さが半端ない。

 しかも壁面にはチケットの値段と共に、何枚買ったら幾らになるって感じに、合計金額の計算表まであげられている。なのでお客さんも、並んでいる間に幾らになるかが一目瞭然なわけで、お金の事前準備までもが出来る仕組みだ。

「へえ、これはすごい。まるでコンサート会場の物販ブースみたいだ」

 何だかまた懐かしい事を思い出してしまい、ちょっと慌てて出そうになった涙を誤魔化すように軽く顔を振って、気分を変えるように周りを見回した。

 その時、チケット販売の大行列の中に草原エルフ三兄弟の姿を見つけて思わず吹き出したよ。

「まあ、お祭り好きのアーケル君だもんな。前回の収穫祭の時もめっちゃ楽しんでたしなあ」

 自分のスライム達がいるんだから別にいつでもスライムトランポリンは遊べるのに、アーケル君は、この大勢集まっている賑やかなのが良いんだって力説してたもんな。

「まあ、本人が楽しんでお金を出しているんだから、俺が横から何か言うのはお門違いだよな」

 小さく笑ってそう呟いてその場を離れる。

 途中にすれ違った親子が、追加のチケットを握りしめて歓声を上げながら大きなスライムトランポリンの列に並ぶのを見て、何だか俺まで嬉しくなって来た。

「よし、じゃあ昼を食ったらちょっと会場を一回りしてこよう。やっぱり、楽しんでくれているのを見るのは嬉しいもんな」

 そう呟いてから、会議室の扉を軽くノックして中へ入って行った。



「ああ、お疲れ様です。こちらにお弁当をご用意していますのでどうぞ!」

 エプロンをつけたスタッフさんが振り返って、とっても良い笑顔でそう言ってくれる。

「ありがとうございます。いただきます」

 手渡されたお弁当箱を受け取り、隣に置いてあったドリンクの瓶も受け取ってから用意してくれてあった椅子に座る。

 休憩用に解放されている広い会議室には、交代で何人ものスタッフさん達が昼食を食べている。

 用意されていたお弁当は、サンドイッチがぎっしりと詰まっていた。ミックスサンド弁当だな。

「おお、タマゴサンドがあるじゃん。ええと……いるんだな」

 いつの間にか俺の右肩に現れていたシャムエル様が、弁当の蓋を開けるなり机の上にワープして来て、弁当箱の横で高速ステップを踏み始める。

 笑った俺は、お弁当箱の蓋の上にそのままタマゴサンドを丸ごと一つ乗せてやり、蓋を開けたジュースも一瞬で出てきた盃にこぼさないように入れてやった。

「ああ、これはお供えしておかないとな」

 いつもの敷布を取り出して弁当箱とジュースの瓶を並べる。少し考えて手持ちのタマゴサンドを一つ取り出して一緒に並べた。

「今日は、スライムトランポリンの体験会をやっています。安全に終われますように。皆が楽しんでくれますようにお守りください」

 手を合わせてこっそりお祈りしてから顔を上げる。いつもの収めの手が俺を撫でてから弁当箱とタマゴサンドをゆっくりと撫でて持ち上げるふりをしてから消えていった。

「よし、届いたな。それじゃあ俺も、いただきます!」

 改めて手を合わせてから弁当箱の中からカツサンドを引っ張り出して、大きな口を開けて豪快にかぶりついたのだった。

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