メタルマスターの称号とスライムトランポリンの開始
「ケンさん、スライムトランポリンの準備はどうだね?」
そう言いながら駆け寄って来たヴァイトンさんは、並び立つ巨大なスライムトランポリン達を見上げて何故か無言になってしまった。
「なあ、この間、お前さんのお城の庭で体験させてもらった時にも思っていたんだが、あれは一体何色のスライムなんだ?」
真顔のヴァイトンさんが指差しているのは、ずらりと並んでいるメタルスライム達だ。そりゃあまあ、いろんなものを知っているであろうギルドマスターであっても、メタルスライム達があれだけ沢山並んでいるのは恐らく初めて見る光景なんだろうな。
「いつも連れていたんですけど、気がつきませんでしたか? あれはハンプールから少し離れた場所で発見してテイムした、メタルスライム達です。まあ、確かに珍しいですがそこへ行けばほぼ間違いなく手に入りますからね。なので俺達は気にせず普通に連れ歩いていますよ。それにこれ、言ってませんでしたっけ?」
笑った俺は、自分のギルドカードを取り出して、あの例の称号の部分をヴァイトンさんに見せた。
受け取ったギルドカードを無言で見たヴァイトンさんは、もう一度無言のままでメタルスライム達を見る。それからもう一度ギルドカードを真顔で見つめてからもう一度メタルスライム達を見た。それからもう一度、それはそれは真剣な顔でギルドカードを穴が開くんじゃあないかと思うくらいにガン見した。それから目を閉じて無言で考えてから、もう一度振り返ってメタルスライム達を見た。
ヴァイトンさん、驚くのは分かるけど二度見どころか完全なる三度見。ちょっと笑いそうになるのを俺は必死で堪えていた。
「……メタルマスター?」
「そうそう、メタルマスターです」
「成る程、さすがは世界最強と言われる魔獣使いだな。唯一無二の称号と言う訳か」
大きなため息と共に納得するようにそう呟いたヴァイトンさんは、苦笑いしながら俺にギルドカードを返してくれる。
「言っておくけど、それなら全員持っているんだよな」
どうやら今の会話が聞こえていたらしいハスフェルとギイとランドルさん、それからリナさんとアーケル君までが、にっこりと笑って同じようにギルドカードを掲げて見せた。当然、彼らのギルドカードにもメタルマスターの称号が刻まれている。
無言のまま倒れそうになったヴァイトンさんを、俺はもう笑い出しそうになるのを何とか堪えながら、助け起こしてやったのだった。
「これって、公表して良いものなのか?」
しばらくしてようやく立ち直ったらしいヴァイトンさんだったけど、真顔でそう言われて、俺は笑って頷いたよ。
「ええと、ハンプールの冒険者ギルドには詳しく説明しましたが、実は俺達で、このメタルスライムの湧く場所を発見したんです。まあ、かなり危険な場所なので誰でも簡単に行けるってわけではありませんが、それなりに腕の立つ冒険者のパーティーなら大丈夫な程度の場所です。なので俺達も別に隠す必要は無いかと思って、こうして普通に連れ歩いているんですよ。まあ、普段は小さくなってそれぞれの主人の鞄の中や懐の中にいるので、あまり目立たなかったんだと思いますけどね。ああ、もうお客さん役の人達が出て来ましたよ。ほら、行かないと」
入り口用の大きな扉の向こうにあった会議室みたいな部屋から、どっと大勢の人達が出て来るのが見えて、俺はヴァイトンさんの背中を叩いた。
「で、もう準備は……」
「完璧です。スライム達は、今か今かと、そりゃあ張り切って待ち構えていますよ」
「ああ、それならもうあとは任せるので、思い切り遊ばせてやってくれ」
笑ったヴァイトンさんはそう言って俺に小さく頷いてから、入り口横に置いてあった踏み台へ走って行って上がった。
「たいへんお待たせ致しました! では、ただ今よりスライムトランポリンの体験会を開催いたします。ご案内したように、本日お渡ししているチケット分は無料にてご利用いただけます。追加のチケットをご希望の方は、入り口横にあるチケット売り場にて各自ご購入ください。本日は、割引価格にて販売させていただいております」
成る程。初回チケット分は無料で、それ以上に遊びたければ自分で買ってねって事か。さすがは商人、なんであれタダ働きはしないって事だな。
密かに感心していた俺は、監視役用に用意してもらっていた背の高い椅子によじ登って座り、歓声を上げてスライムトランポリンに突撃する人々を眺めていた。
どうやらお客さんはあの馬車一台だけではなかったようで、それなりの人数があちこちのスライムトランポリンにあっという間に並んでいった。
スライム作の階段の横には、それぞれスタッフさんが立っていてチケットを回収して時間を確認している。大型のスライムトランポリンだと一度に十人くらい一気に入ってもらって、約5分間のスライムトランポリンタイムだ。
ちなみに時間はスライム達がちゃんと自分で砂時計を確認して遊ばせているんだよな。もう、本当にうちのスライム達、優秀すぎだよ。
あちこちから賑やかな歓声や悲鳴が広い倉庫に響き渡り、その度に並んでいる人達からは笑い声も起こって、なんだか会場全体に妙な一体感がある。
特に問題行動を起こすような人もいなくて、俺はのんびりと周りを見回しては聞こえて来る悲鳴に笑ったり手を叩いたりしていたのだった。