米を炊いて新作料理を仕込む
「それじゃあ、こっちの芋をこんな風に切ってくれるか」
見本に切ったくし切りの芋を見せ、フライドポテト用の芋をサクラに任せる。
「じゃあ、アクアはこっちを頼むよ」
手招きして、残り半分の芋を一つ、見本で角切りにして見せる。
「この箱の芋を、全部こんな風に切ってこの鍋に入れてくれるか」
「了解だよー!」
二匹は声を揃えて返事をすると、それぞれ芋を取り込んで、あっと言う間にお願いした形に切ってしまった。
「待て待て。まだ油が温まってないって」
今すぐ油の中に芋を投下しそうな勢いのサクラを慌てて止める。
「アクアが切ってくれた芋は、このコンロで茹でるから鍋ごとこっちにくれるか」
軽々と芋の入った鍋をアクアが持って来てくれる。
スライム達は火の側は怖いらしく、鍋を置いたらそそくさと下がってしまった。火の番は、俺がするしかなさそうだが、お陰で一番手間のかかる芋の下ごしらえがめっちゃ楽になったよ。
「じゃあ、次はパン粉を作るから、このパンをこれくらいの厚さに半分まで切っておいてくれ」
パン粉用の食パンを一枚切って見せ、半分まで切っておくように頼む。
「ええと、これでパン粉を作ったら、トンカツとハイランドチキンと普通の鶏肉でチーズカツレツの仕込みだな。後はスープも仕込んでおくか」
茹で上がった芋は、空炒りして粉吹き芋にしておく。それからブロッコリーもどきも、頼んで一口サイズに切り分けてもらい、適当に塩で茹でておく。
豆があったのでアクアに頼んで鞘から豆だけ取り出してもらい、これも塩茹でにしておく。
付け合わせの仕込みが終わったところで、切ってもらったパンを適当に千切ってフライパンで焼いてフォークで砕いてパン粉を作る。
それから、順番にトンカツとチキンカツ、チーズカツレツ、チーズ入りミルフィーユカツを作っていく。
うん、改めてみるとすげえ量だな。トンカツ屋でバイトしていた時でも、一度にこんなに大量に仕込まなかったぞ。
それから、今回は牛肉も沢山買ったので、ビーフカツも作っておく。
合間にフライドポテトも揚げて、油が切れたものからどんどんサクラに預けていく。
「トンカツ1、2、3……、チーズカツレツ1、2、3……チキンカツ1、2、3……チーズ入りミルフィーユ1、2、3……、ビーフカツ1、2、3……」
サクラが一生懸命数えながらどんどん飲み込んでいく。
「それからこれがフライドポテトだぞ」
冷めないうちに、山盛りの大皿も次々に渡していく。
それから一旦机の上を片付けて、ハイランドチキンと普通のムネ肉で唐揚げも大量生産。
これも大量に出来たので、皿に適当に分けてサクラに預けておく。
「さてと、揚げ物はこれぐらいかな。って事で、そろそろ米を炊いても良いかな?」
一番最初に洗って置いてあった米の入った炊飯用の鍋をコンロにかける。まずは強火だったな。
結局、追加して買ったので、大きな台所の机には、揚げ物用のコンロが二つと、茹で野菜用、そして米を炊くコンロと、四つのコンロが並んでいるのだ。
揚げ物用の油は、まだ全然綺麗そうなので、このままサクラに預かってもらい、空いたコンロに大きな鍋を置く。中身は一口大に切った鶏肉のムネ肉とジャガイモもどきと乱切りの人参もどき、水で戻した豆など色々入ってる。スパイス屋で見つけた煮込み料理用のハーブの束も入れておく。
「ええとホワイトソースってどうやってたっけ?バターを溶いて小麦粉を炒めるんだよな、確か、それで牛乳を入れていたはず。よし、少しだけやってみよう。パスタみたいなのがあるんだから、きっとどこかでマカロニっぽいものもあるだろう。見つけたらグラタンも作りたいな」
バターをフライパンに入れて火にかけようとしたところで、隣で炊いていた炊飯鍋が一気にグツグツと音を立て始めたのだ。
「あ、炊飯鍋がグツグツいい出したら弱火にするんだったよな」
教えてもらった通りに火を弱くする。時間が分からないので、適当だ。
「音が変わって来たら火を止めて蒸らす。ああ、蓋を開けて中の様子を見たいけど、絶対に開けちゃあ駄目だって言ってたもんな」
ぐっと我慢して、炊飯鍋を火から下ろし、次は適当ホワイトソースを作ってみる。
「溶かしバターに小麦粉を……どれくらい入れるんだろう?」
加減が分からないので、適当にスプーンに取って入れてみる。
「ダマにならないように混ぜる、っと」
木のヘラでせっせと小麦粉の塊を潰しながら弱火で炒める。
「それで牛乳を適当に入れる。お、案外上手く出来たっぽいぞ」
少しずつ牛乳を入れたので、気付けばトロトロのホワイトソースが出来上がっていた。
「塩は、確かかなり入れないと駄目だって言ってたよな」
そう呟いて、塩を軽く取って混ぜてみる。味見をしてもう少し入れて再度混ぜる。
「よし、これぐらいで良いだろう。これでクリームシチューが出来るぞ」
さっきの鍋に今作ったホワイトソースを入れて、味を整えればクリームシチューの完成だ。
「ん、美味しいぞこれ」
少しすくって食べてみたら、思った以上に上手く出来ていて、ちょっと嬉しくなった。
「何それ! そんなスープは初めて見るよ」
突然、右肩に現れたシャムエル様が、俺の耳元でいきなり叫んだ。
「おい、びっくりするじゃないか。これはクリームシチュー、上手く出来たぞ、食ってみるか?」
笑って小皿に少しだけ入れてやる。
「あ、じ、み! あ、じ、み!」
嬉しそうにそう言いながら、振り回した尻尾で俺の頬を叩く。
ああ、癒しのもふもふパンチいただきました!
少し冷ましてから渡してやると、いきなり両手で持った小皿に顔を突っ込んだよ。
おお、豪快にいったぞ。
笑って見ていると、顔を上げたその目はキラキラに輝いていた。
「クリームシチュー美味しい!」
「気に入ったみたいで良かったよ。これは手間が掛かってるんだぞ」
指で尻尾を突っついてやり、俺は炊飯鍋の蓋をそっと開いた。
一気に湯気が上がって目の前が真っ白になる。
「おお上手くいったかな?」
濡らした木べらで混ぜてみる。
「あ、ちょっと底が焦げたな。よし、焦げた所も後でおにぎりにしよう」
少し手にとって食べてみて驚いた。
「おお、俺って天才かも。適当に炊いたけど、バッチリだぞ」
いや、これはこの鍋の手柄だよな。高かったけど炊飯専用鍋、買って良かった。
ちょっと悩んだんだが、炊き立てなら絶対おにぎりだろう。って事で、これは熱いうちに全部塩にぎりにする事にした。
「こうなると、海苔とか梅干しとかシャケとか、鰹節とかが恋しいよな。あと、漬物も無いかな?」
そんな事を呟きながら、鍋一杯分の熱々ご飯を手早く塩で握っていく。
これもお皿に並べていっぱいになったらサクラに預けていく。
鍋底に張り付いた焦げも頑張って取り、お焦げのおにぎりも作れるだけ作っておく。
鍋を洗って、もう一度米を炊いておく事にした。
って事で、さっきと同じ分量で米を洗って水に浸けておく。
少し考えて、細長く切った大根もどきと人参もどきで塩もみを作ってみた。いわば即席漬物だ。
「こういうのは、トンカツ屋と定食屋でバイトしていたおかげだよな」
賄い作りを手伝ったりもしていたから、こういったちょっとした一品を作るのも得意なんだよ。
米を洗って置いておく間に、買い置きのご飯で炒飯を作ってみる事にした。
「ええと具はシンプルに玉子と人参、玉ねぎ、それから……よし、贅沢だけど牛肉と牛脂で作ってやる」
牛肉は細かく切っておき、人参もどきと玉ねぎもどきもみじん切りにする。サクラ達が手伝いたそうにしてたが、これは試作だから待っててくれと声を掛けて、大きなフライパンを取り出す。
もらった牛脂をいれて、まずは肉を炒める。
軽くスパイスを振り、一旦皿に取ってその鍋でそのまま野菜を炒める。これも軽く火が通ったら肉の横に取っておき、もう一度油を投入。
さあ、ここからは時間との勝負だ。
油が温まってきたら、溶き卵を一気に投入。油と混ぜるようにして手早くかき混ぜお茶碗二杯分のご飯をそこへ投入。木べらでご飯の塊をバラしながら更に炒め、野菜と肉も投入する。フライパンを揺すって米をバラバラになるように炒めて、最後に塩胡椒を振り掛ける。ちょっと取って口に入れてみると、ちゃんと美味しく出来ていて大満足で頷く。
「おお、強火で一気に炒めると、上手くいったな」
お皿に取り分け、サクラに預けようとしたら、頬を叩かれた。
「あ、じ、み! あ、じ、み!」
「はいはい、ちょっと待ってくれよな」
さっきまでクリームシチューまみれになっていた口元は、すっかり綺麗になっている。
「だけどこれって、シャムエル様にはちょっと食べにくいんじゃないか?」
小皿にスプーン一杯分くらいを取ってやったが、パラパラの炒飯をどうやって食べる?
しかしシャムエル様は、俺の心配をよそに、さっきと同じように皿を両手で持って豪快に顔からいきました。
「おお、チャーハンの海に顔面ダイブかよ」
笑って見ていると、数粒のご飯粒をモグモグと飲み込んだ後、目を輝かせて俺を見た。
「これって白いご飯と全然違うね。美味しい! うん、ちょっと食べにくいけどすっごく美味しいよ」
「お弁当付いてるぞ」
おでこと頬に付いた米粒を取ってやると、その米粒を取り返して口に入れるシャムエル様に俺は思わず吹き出した。
良かった。どうやら新作メニューも気に入ってもらえたみたいで安心したよ。