お休みの日ののんびりタイム
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きるって……あれ?」
いつものように従魔達に起こされた俺は、半ば無意識に返事をしながら不意に感じた違和感に目を開いた。ってか、何故かいつもと違って普通に目が開いたし。
「あはは、めっちゃ寝過ごしたっぽいなあ。もう昼過ぎてるじゃん」
窓から見える明るい日差しに、思わずそう言って起き上がった。
「やっと起きたねもう。いくらお休みだからって寝過ぎです!」
「申し訳ありませ〜〜〜ん!」
ちょっとご機嫌ナナメのシャムエル様にそう言われて、素直に謝る俺。
「誰かさんが惰眠を貪っている間中、朝からずっと神殿でお仕事していた私はお腹がぺこぺこなの! お昼ご飯にホットオーレとタマゴサンド三種盛り合わせを所望します!」
「了解であります!」
敬礼しながらそう言った俺は、座った膝の上に仁王立ちしているシャムエル様の目の前に、自分で収納していたタマゴサンド三種盛り合わせのお皿をサッと取り出して見せた。
「ふおお〜〜〜〜! これぞ私の元気の源〜〜〜!」
「じゃあ、顔を洗ったらミルクを沸かしてリクエストのホットオーレを作るから、ちょっと待っててくれよな」
「ふわあい、待ってましゅ!」
しかし、俺がそう言う前にタマゴサンド三種盛り合わせに頭から突っ込んでいったシャムエル様は、鷲掴んだ分厚いオムレツサンドに齧りつき頬をパンパンに膨らせつつそう返事をする。
「全然待ってないし」
苦笑いしつつ、俺の膝の上でオムレツサンドを爆食中のシャムエル様をそっと右手で抱き上げ、左手でタマゴサンド三種盛り合わせのお皿を持って机の上へ並べて置いてやる。
「はい、ここでどうぞ。まあ、オーレが間に合うようにゆっくり食っててくれよな」
オムレツサンドに夢中のシャムエル様だけど、俺の右手にふかふか尻尾がパンパンって感じに叩きつけられたから、まあ声は聞こえているんだろう。
そのまま洗面所へ行ってとにかく顔を洗う。
「ご主人、綺麗にするね〜〜!」
跳ね飛んできたサクラが、そう言って一瞬で俺を包んでくれる。
元に戻った時には、寝汗もちょっと伸びた髭も全部サラッサラのツルツル。ううん、完璧。
「ありがとうな。サクラは相変わらずいい仕事するねえ」
抱き上げておにぎりしてやり、いつものように水槽に放り込んでやる。
冬の間は俺は水遊びには参加しないと言ってあるので、跳ね飛んでくるスライム達を順番に水槽に放り込んでから、駆け寄ってきたマックスをはじめとした狼コンビやお空部隊も撫でてやってから、早々に退散する。
ちゃんと俺がいなくなってから水槽からスライムシャワーが始まるのを見て、笑った俺はそのまま部屋に備え付けられているミニキッチンへ向かった。
まあ、ここの厨房やリビングの隣に併設されているキッチンに比べたら、ここはミニキッチンレベルだよ。まあ、それでもギルドの宿泊所に備え付けのキッチンなんかよりは遥かに広いし設備も豪華なんだけどね。
「ああ、サクラに来てもらわないと、コーヒーもミルクも無いじゃんか」
キッチンに置いてある片手鍋を手にしたところで重要な事実に気が付き、苦笑いしながら片手鍋を一旦置いて水場へ戻る。
「サクラ、遊んでるところを申し訳ないんだけど、牛乳の瓶とコーヒーのピッチャーを出してくれるか」
「これだね、はいどうぞ」
濡れないように水場の外から声をかけると、すぐにサクラが跳ね飛んで来て、牛乳の入った大きな瓶とコーヒーのピッチャーを取り出してくれた。受け取り一旦収納しておく。
「ありがとうな。もうちょっと遊んでおいで」
もう一度抱き上げてから水槽めがけて放り投げてやると、嬉しそうに歓声を上げながら飛んでいき、豪快に水飛沫を上げて水槽の中へ落っこちた。
「ううん、我ながら見事なコントロールだねえ」
また始まった噴水を見て笑いながらそう呟き、急いでキッチンへ戻ってホットオーレを用意した。
マイカップは自分で収納しているので、そこへたっぷりとホットオーレを注ぐ。多めに作ったので、おかわりの入った片手鍋も一旦収納してから部屋に戻る。
「はい、お待たせ。って、もう半分近く食ってるし」
机の上でタマゴサンドを爆食中のシャムエル様が、一瞬でいつものおちょこを取り出して置く。
「待ってました! ここにお願いします!」
受け取ったおちょこに、こぼさないようにマイカップからホットオーレを入れてやる。
「はいどうぞ。熱いから気をつけてな」
「ありがとうね。やっぱり飲み物も欲しいよね」
一旦タマゴサンドを置いたシャムエル様は、そう言って嬉しそうにホットオーレを飲み始めた。
「あっつい! でも美味しい!」
椅子に座った俺は、そんなシャムエル様を眺めながらのんびりとホットオーレを楽しんだよ。
「あれ? そういえば他の皆は?」
一応料理担当を自負している俺が寝坊したら、他の皆の朝食や昼食はどうしたのだろう。
不意に心配になってそう呟いたら、おちょこを置いたシャムエル様が笑いながら振り返った。
「ハスフェルとギイとランドルは、まだ熟睡中だね。草原エルフ達は起きているけど、まだ皆ベッドでのんびり寛いでるよ。そろそろお腹が空いたって三兄弟達が言い出しているところ。でもまだ、起きてくる様子はないねえ」
「ああ、そうなんだ。だけどシャムエル様が食べ終わったら、俺はそろそろリビングへ行こうかなあ。腹減ってきたよ」
「ああ、じゃあ私はこれを食べ終わったら神殿へ戻るから、あとは好きにしてね。夕食の頃になったらまた戻ってくるよ」
最後のタマゴサンドにかじりついたシャムエル様の言葉に頷き、片手鍋に残っていたホットオーレの残りをマイカップに追加で注ぎ、シャムエル様の尻尾をもふりながらのんびりコーヒータイムを楽しんだのだった。