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新年おめでとう!

 一通りの祭壇の準備が整い順番にお祈りも終えると、その後はもうする事も無くて俺達も部屋に置かれた椅子に座ってのんびりとワインで乾杯した。

 そのままなんとなくダラダラと飲んで寛いでいると、突然街の方から一斉に鐘が鳴り響き始めた。

 換気用に開いている風取り窓から聞こえる荘厳な鐘の音が、部屋の中にまで大きな音で響き渡っている。

「おお、年が明けたな。新年おめでとう」

「新年おめでとう!」

 ハスフェルの言葉に、リナさん一家とランドルさんが飲みかけていたグラスを高々と掲げる。

 なるほど、新年おめでとうが挨拶な訳か。

「新年おめでとう!」

 俺も残り少なくなった赤ワインの入ったグラスを掲げる。

「ええ、ケンさんはこの家の主人なんですから、本年も良き事が皆様方にありますように。でしょう?」

『ええ、マジ?』

『ああ、この場合は神様の代理で家の主人が客人の挨拶を受けるわけだよ』

 こっそりハスフェルとギイに念話で質問すると、苦笑いしつつ頷かれた。駄目じゃん。そういう事は先に教えてくれないと!

「あはは、なんだか照れ臭いなあ。じゃあ、本年も良き事が皆様方にありますように」

「乾杯!」

 照れたように笑った俺の言葉に、また皆が揃って笑顔で乾杯する。

「かんぱ〜〜い!」

 いつの間にか、お供えしていたグラスを持ったシャムエル様が、ご機嫌でグビグビとワインを飲み干している。

 おいおい、神様なのに、年越しの瞬間に神殿の祭壇にいなくて良いのか!

 と内心で思い切り突っ込んでおく。

 絶対後で、小人で怒りの神様の分身だっけ、怒ると怖いシュレムに叱られる展開だぞ。

「ああ、それは大丈夫だよ。ここにも祭壇があるからね」

 ワインを飲み終えたシャムエル様が、まるで俺の突っ込みが聞こえたかのように笑顔で振り返ってドヤ顔になる。

「あれ? そうなんだ」

「まあ、本当はどこにいても祭壇の様子を見る事は出来るんだけどね。せっかくだから参ってくれる人達の様子を見ていたいでしょう。だから、ここの祭壇は街の神殿とも繋がっているんだよ」

 成る程。うん、さっぱり分からん。

 って事で、これも全部まとめてふん縛って明後日の方向へぶん投げておく。

「お祈り終わったし年も明けたね。じゃあ、いっただっきま〜す!」

 雄々しく宣言したシャムエル様は、予想通りにタマゴサンド三種盛りに頭から突っ込んでいった。

「相変わらずフリーダムだなあ。でも、まあ神様のする事だもんな」

 苦笑いした俺は、取り出した吟醸酒の瓶の蓋を開けて氷を入れたマイグラスにゆっくりと注いだ。

「新年おめでとう!」

「新年おめでとう!」

「乾杯!」

 改めてグラスを掲げながらそう言うと、あちこちからもグラスが掲げられて乾杯の声が上がった。



「ええと、明日はじゃあ新年最初の日になるんだよな。何かする事とかあるのか?」

 せっかくこんなに立派な祭壇を飾ったんだし、何かする事あったりするのか?

 基本無宗教な俺だけど、リナさん達はどうやらかなり敬虔な信者みたいだし、ランドルさんもまあそれなりに。なので、もしかして何か年明けの行事なんかがあったりするのかと思ったんだよ。

「いや、特に無いぞ。それに今日と明日は、ほとんどの店が休みだから、街へ行っても食べられる店や屋台もほぼ無いぞ」

「あれ、そうなんだ」

「ちなみに商売人の殆どは今日が仕事納め。しかも毎月の月末は売り掛けの代金回収なんかで商人達は大忙しさ。それでさっきの鐘の音が売り掛け金回収の締め切りの音な訳だ」

「あはは、そりゃあ大変だ。雪の中を駆けずり回っていたわけか」

「そうそう。まあ売り掛けで商売するのは、それ込みだから利息がついていたりしてまとまった金額になるから払う方も大変だろうなあ」

「へえ、色々あるんだなあ」

 感心したようにそう呟いた俺は、祭壇の真ん中にそびえ立つ金色の竜を見上げた。



「今年も良い年になりますように。怪我をしたり痛い事がありませんように」



 笑って小さくそう呟き、改めて手を合わせる。このあと地下洞窟へ行くとか言っていたから、これは大事だよな。

「ええ、そんな無茶を私にお願いしないでよね。ケンって時々平気な顔して私に無茶振りするよねえ」

 だけど、すっかり食べ終えて空っぽになったお皿を戻しながら、呆れたようにシャムエル様が俺を振り返ってそんな事を言ってる。

『うう、そんな無茶な事かなあ。元いた俺の世界では、こういうのって神様にお祈りする定番だったんだけどなあ』

『それはこっちの世界では無意味です! いちいち個人に起こる事象にまで私は関与していません!』

 何故かドヤ顔でそう宣言されてしまい、ちょっと涙目になる俺だったよ。



 うう、俺の旅の安全を司ってくれる神様って、どこかにいないんですか〜〜〜?

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