ご馳走様と今夜の予定
「それじゃあ、本当にご馳走様でした!」
「ありがとうございました! すっごく楽しかったです!」
もふもふふれあいタイムも終了して、あまり遅くなっても帰りが大変だろうとの事で、ここで焼肉パーティーはお開きとなった。
職人さん達とギルドマスター達が、厩舎に連れて行っていた馬達を引いて来て、手分けして手早く馬車に繋いでいく。ううん、手伝おうかと思ったけどあれは俺には無理だな。何がどうなっているのかさっぱり分からないよ。
しかも、来た時はゆっくり見る暇が無かったんだけど、乗って来た馬車が凄い。
大きな四頭の馬を二頭ずつ前後に繋いでいて、その先頭の二頭の馬の前に雪除けなのだろう三角の、機関車の先頭にあるみたいなとんがった金属製の雪割りが取り付けられている。
成る程、あれがあれば新雪や雪かきをしていない場所でも、雪をかき分けながら馬が進めるんだろう。しかもその三角の両端は、馬の横から斜め後ろへ張り出しているのでかき分けた雪もそのまま馬車の横に流れていく仕組みだ。
「へえ、うまく考えられているんですね。これなら少々雪が積もっても余裕で走れますね」
近くで覗き込むみたいにして仕組みを見ながら、感心してそう呟く。
「そりゃあここは世界に冠たる職人の街だからな。何か不自由があれば、皆先を争うようにして考えてそれを克服する為の試作品を作ってくれるから、逆に俺達はどれを採用するか、選ぶのが大変なくらいなんだよ」
「あはは、そりゃあ大変そうだ。なんとも贅沢な悩みですねえ」
エーベルバッハさんの言葉に笑ってそう応えて、職人さん達が馬車に乗り込むのを眺めていた。
見ていると皆、ちゃんと女性には当然のようにさっと手を貸している。そういうのは全然気が利かない俺は、密かに感心していたのだった。
「それじゃあ戻らせてもらうよ。本当にありがとうな。最高の時間を過ごさせてもらった」
モコモコになるくらいに着膨れて御者台に座った満面の笑みのエーベルバッハさんの言葉に、馬車の中から大歓声とお礼の言葉、それから拍手が起こった。
「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。どうぞこれからもお仕事頑張ってください! また何か欲しくなったら、その時はよろしくお願いします!」
「任せてくれ。お前さんの注文なら、たとえ棒切れ一本でも心を込めて作らせてもらうぞ」
笑ったフュンフさんの大声に、俺はちょっと涙が出そうなくらいに感動していたよ。
「それじゃあ気をつけて!」
シャンシャンと鈴の音を響かせながら大きな馬車が雪をかき分けながら進んで行く。どうやら夕食を食べている間にちょっと雪が降ったみたいで庭は一面真っ白な新雪に覆われている。それに来た時の道は半分近く埋もれて見えなくなっている。
「うう寒い! 早く部屋に入ろう!」
結局、従魔達まで全員揃って見送りに出て来ていたので、全開になった大きな扉の中へ我先にと飛び込んで行く。
スライム達が、あっという間に濡れた体や服、それから従魔達も綺麗にしてくれる。
「はあ、それじゃあもう今日は休むよ。なんだか眠くなってきた。ええと、明日はどうするんだ?」
「おや、もう休むのか?」
「年越しの祝い酒は無しか?」
振り返った俺の言葉に、ハスフェルとギイが驚いたようにそう聞いてくる。
「ええ、年越しの祝い酒って……? ああそっか、明日って一月一日じゃん!」
一瞬何を言っているのかわからず首を傾げたが、このお祭りが始まって何日経ったか考えて納得した。
そもそもこのお祭りって、十二月二十三日のシャムエル様の誕生日から始まって、十二月の末までの八日間と、一月に入ってからの八日間。合計十六日にわたって延々と続くお祭りなんだよな。
まあ、店は普通に営業しているから全員お休みってわけじゃあないみたいだけど、仕事がお休みの人は多いのだろう。
ちなみに今日は十二月の三十日で、この世界では一ヶ月が三十日、それが十二ヶ月で一年って暦になってる。
聞けば閏年みたいなのは無いらしい。シャムエル様の事だから、きっとそんなのめんどくさい! とか言って閏年の計算とかはやめたんだろう。
なので今夜が言ってみれば年越しの夜なわけで、以前だったらカウントダウン! とかだったんだろうけど、さすがにこの世界ではそこまで詳しい時間の区切りはないみたいだ。
まあ、もしかしたら暦の専門家の人とか、街の時計を管理している人なら年越しの瞬間はわかるのかもしれないけど、街の人にはそこまで詳しくは分からないだろう。多分。
「じゃあ、夜は宴会?」
「俺達は祝い酒だな。教会で年を越す人も多い。職人達もそういう区切りは大切にする人が多いから、もしかしたら彼らは馬車ごとあのまま教会へ全員直行かもしれないな」
「成る程、なんとなく急いで帰って行ったような気がしたのはそのせいか」
納得して頷く俺を見て、ハスフェル達が苦笑いしている。
まあ俺はこの世界で年を越すのは初めてなんだから、その辺りは知らなくて当然だよ。と開き直ってみる。
「ちなみに、ここには創造神様の祭壇を祀った専用の部屋があるから、俺達は揃ってその部屋でのんびり飲みながら年越しだぞ」
ハスフェルの言葉に驚いて振り返る。
「ええ、そんな部屋あったのかよ。それならわざわざ毎日街まで行く必要無かったんじゃね?」
「まあ、どこへ参るかは本人の気持ち次第なんだから、構わないんじゃないか?」
絶対最初から部屋の存在に気付いていたのだろうハスフェルの言葉に、なんだかちょっとムカついた俺はそっと彼の後ろへ近づき、思いっきり後ろから膝カックンしてやったよ。
悲鳴を上げて崩れ落ちるハスフェルを見て、すぐ側にいたギイとランドルさんが揃って吹き出し、リナさん一家も揃って吹き出す。
「このやろう! やりやがったな!」
即座に復活したハスフェルが笑いながら俺に飛び掛かって来て、俺は逃げる間も無く押さえ込まれて脇をくすぐられて情けない悲鳴を上げたのだった。