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どれにするかな?

「よし、これで三種類一個ずつは八等分に切ったぞ。あとは足りない分だけ切ればいいな」

 チョコレートのついたナイフをきれいに拭きながら我ながら綺麗に切れたと満足して眺めていると、アーケル君達が三人揃ってそれはそれは真剣な顔で頷き合ってからこっちを振り返った。

「ええと、俺はこれをお願いします!」

 アーケル君が真っ白なデコレーションケーキの前に並び、オリゴー君がその隣の生チョコに、そしてカルン君がチョコレートコーティングしたケーキの前に並ぶ。

 成る程考えたな。三人でそれぞれ違うケーキを確保して、お互いちょっとずつ交換して全種類食べる計画だな。

 別に食べられるなら、三種類食ってくれても全然かまわないんだけどなあ。

 とはいえ、直径30センチクラスのデコレーションケーキを八等分って時点で色々サイズがおかしいので、さすがの甘党アーケル君でもこれを一個以上は無理と判断したみたいだ。

「じゃあ、私はこれにする!」

 リナさんは、それはそれは真剣に考えた結果、チョコレートコーティングしてある大人のケーキの前に並び、アルデアさんは生クリームの定番ケーキの前へ。ランドルさんもこれまた真剣に悩んだ結果、チョコ生ケーキの列に並んだ。

 ちなみにハスフェルは生クリームに、ギイはチョコレートコーティングケーキに並んだ。そしてギルドマスター達三人も顔を見合わせて頷き合ってから三種類に分かれて並ぶのを見て、ちょっと吹き出しそうになったのを必死で堪えていた。

 絶対、ギルドマスター達もこっそり交換して全種類食べる作戦だな。

 俺はどうしようかなあ。この八等分の半分もあれば充分なんだけど、それだとシャムエル様が怒るだろうしなあ……。

 そこまで考えて思わず目の前のカットケーキを見る。

「ああそうか。これって……」

 思わずそう呟き、手に持ったままだったナイフを見る。

「なあ、これをまだ半分とかにすれば、二個か三個くらい食べられる人もいる?」

 八等分をさらに半分だから十六等分。かなり薄くなるけど、別に切る事自体は大丈夫そうだ。

「そうしていただけますか!」

 貴重な女性のお客様達から歓声が上がり、直後に全員から拍手が起こった。

 何だよ、デカいケーキの方が良いかと思って大きく切ったけど、色々食べたかったのか。それならそうと言ってくれないと。

 って事で、改めてお湯を沸かし直して八等分ケーキをさらに半分に切り分けていく。さすがにこれはまとめて切るのは無理っぽかったので一切れずつ切ったよ。

 その結果、欲望に忠実な甘党三兄弟とランドルさん、それからギルドマスター達は三種類とも欲しいとのことで三種盛り合わせに。

 リナさんはチョコレートコーティングと生クリームを選び、アルデアさんは生クリームのを一切れだけ。

 ハスフェルとギイも、結局三種類盛り合わせの列に並んでたよ。

 職人さん達は、女性陣は三人とも三種盛り合わせの列に並び、それ以外は大体一切れか二切れ好きなのを選んでいたよ。

 一応、冷やしてあった果物も、スライム達に頼んで適当に皮を剥いたり切ったりして大皿に盛り付けておいてもらったから、これは欲しい人が自分で取ってもらうようにしたよ。

 俺の指示であっという間にリンゴの皮を剥いて切り分けるスライムを見て、職人さん達とギルドマスター達は揃って目を丸くしていたよ。



「で、シャムエル様はどれに……当然三種類盛り合わせだな。しかも二個ずつだろう?」

 大きなお皿を片手にものすごい勢いでステップを踏んでいるシャムエル様を振り返り、皆まで言わせずにそう言うと、ものすごい勢いで頷かれた。

 まあ、これは当然だよな。

 って事で、足りない分を数えながら半分に切った二個目のデコレーションケーキも手早く切り分けていった。

 用意したお皿にケーキを並べる度にいちいち拍手が起こり、終わる頃には何だかものすごい一体感が生まれていたよ。

 なにこれ面白い。



「はい、ではデザートのケーキも無事に配り終えましたので、どうぞ遠慮なくお召し上がりください! コーヒーと紅茶も用意してありますので、飲み物が欲しい方はお好きにどうぞ」

 普段はあまり使わないんだけど、この人数だし手持ちのカップでは足りない。なので元々このお屋敷にあった豪華な模様入りのカップソーサーやカトラリーを適当に並べてあったんだけど、職人さん達もギルドマスターもそれを見て何とも言えない顔になる。

 ちなみにケーキを盛り合わせるのに使った大小のお皿も、ここに元々あったカップソーサーとお揃いの豪華な模様入りのお皿だよ。

「ここでこれを出すのか。まあ、滅多にない機会だからありがたく使わせていただくとしよう」

「そうだな。現当主が出してくれたんだから、別に構わないよな」

 ヴァイトンさんとエーベルバッハさんが顔を見合わせて苦笑いしながらそう言ってカップソーサーを手にホットコーヒーを自分でカップに注いでいる。

 ん? 何か問題でも?

 無言で自分の前にあるカップソーサーを見つめる。そこで俺は不意にある可能性に辿り着いた。

「ええと、俺はこういうのには疎いので全然知らないんですけど、もしかしてこれって……値打ちものだったりしますか?」

 すると、ギルドマスター達だけでなく、ほぼ全員が一斉に振り返った。

「お前さん。もしかして、これが何なのか知らずに出してくれたのか?」

 真顔のエーベルバッハさんの言葉に若干ビビりつつ頷くと、ハスフェル達が揃って吹き出した。

「別に持ち主が使って良いって言ってるんだから気にするな。食器なんだから、使わないと意味ないと俺も思うぞ」

 その言葉に乾いた笑いをこぼしたギルドマスター達は、揃って俺を振り返り妙に優しい笑顔になった。

「確かにその通りだな。では、遠慮なく使わせていただきましょう。貴重な初期のベトゥラアルバ工房の揃いの食器で、バイゼン一番だと評判のケーキ屋のデコレーションケーキをいただけるなんて、これまた人生最高の経験をさせていただきます」

 にっこり笑ったエーベルバッハさんの言葉に、俺は遠い目になる。

 予想的中。

 この妙に豪華な柄の食器達……実はとんでもない値がつくようなすごい骨董品なんだろう。

「あはは、そうですよね。食器なんですから使わないと意味ないですよね!」

 俺も乾いた笑いをこぼしつつ拳を握って断言する。

 よし、食べよう! 一応、食器の扱いには気をつけながらね。

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