賑やかな焼肉タイム!
「ううん、何度食べても岩豚の、このジューシーさには感動するよなあ」
のんびりと一人焼肉を楽しみつつ、途中にはあの赤ワインソースをかけた塊肉からもガッツリと削ぎ取らせてもらい、これまた山盛りになったそれをシャムエル様と取り合いっこをしながら美味しくいただいている。
途中からは我慢出来なくなったのか収めの手まで乱入してきて、俺の焼いているお肉だけでなく、向こうの巨大コンロの焼き台の方へもふわふわと飛んでいって、時折職人さん達やギルドマスターの頭も撫でつつ焼けたお肉がお皿に取られる度に、楽しそうに横からお肉を撫でたりお皿を持ち上げたりしていた。
ううん、手しか無いのにはしゃいでるのが分かるって面白いよなあ。
「どうやらシルヴァ達も楽しんでくれているみたいだな」
四本目の地ビールの蓋を開けながら、思わずそう呟く。
「ふえ? ふぁいかひっは?」
自分の頭より大きな岩豚の肉の塊を齧っていたシャムエル様が、何やら振り返って謎語を話している。頬袋が限界近くまでパンパンに膨らんでいるけど、まだまだある肉をそこに貯める意味はあるのか?
「待て待て、今のは何語だよ? 思いっきり意味不明だったぞ」
笑いながらそう言い、頬袋を突っつきたい衝動を堪えていつもの三倍サイズに膨れた尻尾をこっそりと突っついてやる。
『何か言った? って聞いたの!』
さすがにあの状態で喋るのは無理だったらしく、念話でシャムエル様の声が聞こえる。
『いや、気が付けば収めの手が出てきて、さっきからあっちで大はしゃぎしているなあって思ってさ』
俺も肉の塊を口に入れたところだったので、念話で答えておく。
『ああ、確かにさっきから一緒になって楽しそうに大騒ぎしているね。別に構わないって。お祭りなんだしさ。みんなで集まって賑やかに楽しんでいる時に、こっそり神様達が乱入するのはたまにある事だから良いんだよ』
嬉しそうなシャムエル様の言葉に、思わず飲みかけていたビールを噴き出しそうになって慌てて堪える。
「ヘ、へえ……そうなんだ」
ちょっとこぼれた口元を指先で拭いつつ、そう言って改めてビールを飲んだ。
「そうだよ。何しろお祭りだからね」
振り返ったシャムエル様は、嬉しそうにそう言ってもう次のお肉を齧り始めている。
「なんだよ。それならバイゼンのお城のお披露目をするから遠慮せずにこっちへ来てくれればいいのに」
思わずそう呟くと、ちょっと残念そうにシャムエル様は首を振った。
「ううん、さすがにそれはちょっと無理があるかなあ」
「あれ? そうなんだ? お祭り期間中ならいいかと思ったけど、駄目?」
「ちょっと無理! こっちには早駆け祭りみたいな大義名分が無いからねえ」
顔の前でちっこい手でばつ印を作りながらそう言われて、そんなものかと肩をすくめた。
あの時は簡単に来てくれたと思っていたけど、意外に神様達がこっちへ来る為の制約は多いみたいだ。
「ケンさん! そろそろ次が焼けますよ〜〜!」
ほぼ塊肉の前から動かないアーケル君達が、半分以下になった赤ワインソースの瓶を振りながら俺を呼んでくれる。
「ああ、欲しい欲しい!」
笑って立ち上がり、もう一枚お皿を手に取って塊肉のところまで駆け出して行った。
「私の分もお願いね〜〜〜! ああ、それから次のビールもお願いしま〜〜す!」
空っぽになったシャムエル様用のグラスを振り回しながら、さりげなくビールのお代わりも請求してる。
「構わないけどそんなに食って大丈夫か? 絶対に既に自分の体よりも大量のお肉を食べていると思うんだけどなあ。ってか、本当に食った分はどこへ消えてるんだろう。ちょっと割と本気で気になるんだけど、知るのもなんか怖い気がするぞ」
振り返って机の上でまたステップを踏み始めたシャムエル様を見ながら呆れたようにそう呟くと、空のグラスを置いたシャムエル様はにっこりと笑った。
「ふふふ、それは企業秘密だから内緒です!」
何故かドヤ顔でそんな事を言われて、堪える間も無く吹き出した俺だったよ。
「ケンさん、いやあ本当に素晴らしく美味しいですよ。今日はお招きいただきありがとうございます!」
「本当に最高ですなあ。厚かましくも、ご馳走になっとります!」
アーケル君が焼けた部分を切ってくれると言うのでお願いして待っていると、ワイングラスを手にしたフュンフさんとホルストさんがやや赤い顔をしながら駆け寄ってきた。
「あはは、こちらこそ、素晴らしい武器や防具を作っていただいて本当にありがとうございます! これは俺の従魔達が狩って来てくれた獲物だから、実質解体費用しか払っていないんですよね。だから遠慮は無用ですよ。どんどん食べてくださいね」
笑ってそう言うと、二人揃って目がまん丸になった。
「ええ、そうなんですか?」
「ええ、あの従魔達が? へえ、そりゃあすげえ」
そう言いつつ、二人揃って部屋を見回している。
ちなみに今は従魔達はスライム達以外は全員俺の部屋にいるし、リナさん一家やランドルさんの従魔達は、いつものリビングに暖房をつけているのでそっちで寛いでもらっている。
まあ、俺達は慣れているから平気だけど、食事の時に従魔が側にいると嫌がる人もいるかもしれないと思っての処置だよ。
「そう言えば、今日はあの大きな従魔達がいませんね。馬を連れて行った厩舎にもいなかったらしいし、どこにいるんですか?」
不思議そうなフュンフさんの質問に、アーケル君が山盛りに削ってくれたお肉のお皿を受け取りながら振り返る。
「ああ、ありがとうな。ええと俺の従魔達は俺の部屋に、それからリナさん達とランドルさんの従魔達はリビングにいますよ。俺達は平気だけど、動物に慣れない方がいたら怖がるかと思ってね。それで今夜は別室待機なんです」
笑いながらそう答えると、苦笑いしたホルストさんが申し訳なさそうに俺に近寄ってきた。
「あの、それなら食事が終わってからでいいので、うちのリーベルにちょっとだけで構わないから従魔に触らせてやってもらえないか」
「ああ、良いですよ。もしかして動物好きの方ですか?」
なんとなく嬉しくなってそう言うと、笑ったホルストさんが頷きながら俺を見てまた笑う。
「いや、なんでも舞台を見てケンさんと従魔のハウンドの大ファンになったらしくてさ。それで、今日ここへ来たら、もしかして噂のハウンドに触らせてもらえるんじゃないかって、もう馬車の中でずっとそればっかり言っていたんだよ。それなのに、ここへ来て実際にケンさんと挨拶したら、もう急に大人しくなって緊張のあまり喋らなくなっちまってさ」
そう言いながら、ある人物をこっそり指差して見せる。
リナさんの隣に座って何やら楽しそうに話をしているその人物は、三人しかいない貴重な女性のお客様のうちの一人で、確かに最初に挨拶したっきり話をした覚えはない。
「ええ、言ってくれればいつでも連れてくるのに。そっか、じゃあ食事が終わってからでよければ、従魔達とのお触りタイムを設けましょうかね」
笑ってそう言った途端に、なぜかフュンフさんとホルストさんだけでなく、ギルドマスターを含むお客さん全員から拍手が沸き起こった。
「なんだよ、皆従魔に触りたかったのか」
思わず笑いながら俺がそう言うと、またしても拍手大喝采になりそのまま大爆笑になったのだった。