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趣味の話

「ええと、明日はきっとまた大宴会になるだろうから、俺はもう今夜はこっちにしておこう」

 苦笑いした俺がそう言いながら緑茶の入った缶を取り出すと、同じように苦笑いした全員が笑いながら手を上げている。そうそう、休肝日も必要だからな。

「了解、じゃあ全員緑茶だな」

 そう言って簡易コンロとヤカンを取り出す。

「ああ、ここに水を入れてくればいいんだな」

 立ち上がったギイが、俺の手からヤカンを取って隣のキッチンにある水場へ水を汲みに行ってくれた。

「おう、ありがとうな」

 たっぷりと水が入ったヤカンを受け取り、コンロに火をつける。

「全員飲むなら、こっちのポットだな」

 手持ちの中では一番大きな陶器製のポットを取り出して蓋を開ける。本当ならこれは紅茶用のポットなんだけど、俺が持っている急須は四人用の小さいのしか無いから、それ以上の大人数の時はいつもこれで淹れているんだよ。



 緑茶の葉をスプーンでたっぷりとすくって人数分を数えながらポットの中へ入れていく。茶葉をケチると美味しい緑茶にならないから、ここは遠慮なくたっぷり入れるよ。

 この緑茶は、あまり高温じゃあない方が美味しいので、少し沸いてきたところで火を止めてポットにたっぷりとお湯を注ぐ。

「ううん、いい香りだ」

 緑茶の香りが一気に立つ。

 思わず深呼吸したら、俺の右肩にいたシャムエル様まで一緒になって深呼吸していたよ。

「うん、確かにいい香りだね」

 シャムエル様の言葉とアーケル君の言葉が重なる。こんなところまでシンクロしてるよ。

「これは、旅を始めた一番最初のレスタムの街で、ギルドからの依頼を受けた時に立ち寄ったリーワースって名前の村で見つけてまとめ買いした時の緑茶だよ。郊外の小さな村だったんだけど、緑茶と紅茶の良いのが色々あってさ。おかげでいつでも美味しいお茶を飲めるよ」

「ああ、リーワースの村の茶葉なんですね。それならこれだけ香りが良くて美味しいのも納得です」

 何故かリナさんが、村の名前を聞くなり急に納得したみたいにそう言いながら何度も頷いている。

「ええと、もしかして有名な村なんですか?」

「おや、ご存じありませんでしたか? リーワース村の茶葉は、王都の貴族達の間でとても人気がありますよ。これほど香りの良いランクのお茶ならばかなりの値段がしますので、我々一般庶民の口にはそう簡単には入りませんけれどね」

 思わず机の上に置いた小さな缶を見る。

 これはハンプールの街で買った茶葉を入れるための缶で、リーワース村で買った大きな一斗缶サイズからこっちへ小分けして使っているんだよな。

「ええと、それほど高かった記憶は無いけどなあ?」

「そうなんですね。もしかしたら卸価格だったんでしょうかね?」

 笑ったリナさんが、自分の収納袋から何かを出して見せてくれる。

「贅沢だとは思うんですが、たまに飲みたくなるんですよね。それで、いつもお店で少しだけ買って包んでもらったものを飲んでいるんです」

 それはどうやら紅茶のティーバッグのようだ。和紙っぽい薄紙に包まれた茶葉が少しだけ透けて見えている。

「そっか、紅茶とか緑茶って……もしかして贅沢品?」

 思わずハスフェル達を振り返りながらそう尋ねる。

「いや、お茶自体は別に街の人達だって普通に飲むぞ。安いのなら普通に売っているから俺達だって茶葉を買って飲む事もあるが、ケンが淹れてくれる緑茶や紅茶は、間違いなく貴族達が飲んでいるレベルのランクだろうな」

「マジ?」

 思わずそう尋ねると、苦笑いしたハスフェルだけでなくギイやリナさん一家、それからランドルさんにまで真顔で頷かれた。

「ええ、知らずに飲んでいたんだ。俺はケンさんはお茶にはこだわりのある趣味人なんだなあと思っていたのに」

 呆れたようなアーケル君の言葉に、とりあえず笑って誤魔化しておく。

 だって、つい元の世界にいた時の感覚で料理をしたりお茶を淹れたりするから、まさかそんな高級品だったとは。

 でも俺は飲むよ。今更、色しかついていないような安いお茶は飲みたくないからさ。

「って事で、俺が飲みたいから今後も遠慮なく淹れるので、どうぞ遠慮なく飲んでください!」

 蒸らし終えた緑茶を、出してくれたそれぞれのマイカップにそう言いながら順番に注いでやる。

「じゃあ緑茶で一服したら、今日もらったナイフを出すから一緒に見てくれるか。ナイフコレクター達の意見を聞きたい!」

「是非お願いします!」

 草原エルフ三兄弟の声が綺麗に重なり、リナさん達やランドルさんも興味津々で身を乗り出している。



 そんなわけで美味しい緑茶で一服した後は、俺が取り出したナイフを見せてここが良い、いやこっちが綺麗だと皆で好き勝手に言って楽しんだよ。

 そこからアーケル君達の持っているナイフを見せてもらい、ハスフェルやギイ、ランドルさんもコレクションとまではいかなくてもそれなりの数を持っていたらしく、それぞれ自慢の一品を出し合っては歓声を上げていたのだった。

 うん、こういう共通の趣味の話が楽しく出来る友人がいるって幸せだよな。

 キラーマンティスの素材で作ったナイフを見ながら、なんだか嬉しくなってそっと鞘の上からナイフを撫でる俺だったよ。

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