収納袋と冒険者達の食事事情について
「ふああ、このお味噌汁具がたくさん入ってて美味しいねえ」
豚汁の具を引っ張り出して齧りながら、嬉しそうなシャムエル様がしみじみとそんな事を言っている。
「あはは、気に入ってもらえたなら良かったよ。俺、この具がたくさん入った味噌汁が好きなんだよな」
「そうなんだね。ワカメとお豆腐のお味噌汁なんかよりは、こっちの方がおかずになるって感じがするね」
「ボリュームタップリだからな」
笑いながらそう言って俺も豚汁を味わったよ。はあ、自分で作って言うのも何だけど、具沢山の豚汁美味え……。
「ご馳走様でした。このいろんなメニューがあるってのも楽しくて良いですねえ」
こちらも豚汁をおかわりまでしていたアーケル君が、かけらも残さず綺麗に平らげたお皿を前に手を合わせてそう言ってくれる。
「ご馳走様でした。それにしても、当然のようにこれだけのメニューを作って常備してくれているケンさんって、料理なんて全く出来ない俺達からしたら、本当に凄すぎる存在ですよ。今後ケンさんと別行動になった時の食事の事を考えたら、ちょっと泣きそうですけどね」
こちらも綺麗に空っぽになったお皿を前にしたオリゴー君が、何やらしみじみとそんな事を言っている。
「ご馳走様でした。今夜も美味しかったです! そうだよなあ。携帯食や干し肉と堅パンだけの食事なんて俺はもう絶対に食いたくないよ。なあ、屋台の料理とかパンなら俺達だって買えるんだから、気に入ったのを時間遅延の収納袋を買って入れておけば、郊外でも食べられるよな」
「確かに! 是非やろう。時間遅延の収納袋もここなら売ってるよな」
カルン君までが、苦笑いしつつそう言ってものすごい勢いで頷いている。
「逆に、今までその発想が無かった事の方が俺には不思議だよ。時間遅延の収納袋なんて、そのためのものじゃあないのか?」
すると、草原エルフ三兄弟だけでなく、リナさん達やランドルさん、それからハスフェル達までが何か言いたげに顔を見合わせている。
「何、どうかした?」
「元々時間遅延の収納袋は、料理人や行商人なんかが料理の材料や生肉なんかを保管するのに使っていたんだよ。俺達冒険者にとって収納袋といえば、集めたジェムや素材を一時的に入れておくための物だったから、わざわざ普通の収納袋よりも値段が高い、時間遅延の能力がついた収納袋を買うなんて考えもしなかったのさ」
「特に長旅の際や街から遠く離れ場所へ長期にわたって狩りに行く際なんかには、収納袋は出来るだけ空にして一つにまとめてありったけ持って行くってのが常識だったからなあ」
苦笑いしたハスフェルとギイの説明に納得する。
そりゃあ自分達の収入源であるジェムや素材を出来る限り取りこぼさずに持って帰ろうと思ったら、確かに収納袋は必須アイテムだろう。蝶の翅みたいに、手に持って帰る事自体が難しい素材だってあるもんな。
ある程度は馬に積んで帰る事だって出来るだろうが、冒険者全員が馬を持っているわけじゃあないみたいだから、自力で運べる手段が限られる徒歩の冒険者なら収納袋の空き容量を確保するのは死活問題だよな。
「でも、美味しい食事は体力回復ややる気の問題を明らかに解決してくれるって事が、これ以上ないくらいによく分りましたからね。今後はもっと郊外で料理をしたり時間遅延の収納袋を持つ冒険者も増えると思いますよ。俺はもう、こいつを絶対に手放しませんからね」
笑ったランドルさんは、さっき串焼き肉を出してくれた時間遅延の収納袋をアーケル君達に見せている。
「へえ、収納能力が二百倍で時間遅延の二百分の一は凄いな」
「確かにそれくらいあれば、料理したものを入れておいても余裕だよな」
「良いなあ。じゃあ今度街へ行ったら時間遅延の収納袋の高性能のやつを探そう」
「俺も絶対買う! それで屋台や店の料理を入れておく!」
草原エルフ三兄弟の宣言に、全員揃って吹き出して大笑いになる。
「それなら俺も買う!」
「それなら私も買います!」
アルデアさんとリナさんまでもが慌てたように手を上げて宣言する。
「あはは、クエスト時間遅延の収納袋を探せ! ですね。良いですねえ。是非やりましょう」
笑った俺の言葉に、その場は拍手に包まれた。
「任せて! ダンジョンへ来てくれれば高性能の収納袋のお宝をどんどん出すからね! 時間遅延ももちろん付けるよ」
何やら張り切ったシャムエル様の宣言に、ちょっとだけ遠い目になる俺だったよ。
そうだった。バイゼンで俺の装備一式が揃ったら、腕試しを兼ねて恐竜が大量にいるんだって言う地下洞窟へ行こうって話をしていたよなあ……今のシャムエル様の宣言……聞こえなかった事にしてもいい?