表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/2066

またしても大量購入

 昨日までのデカい従魔三頭に加えて、どこから見てもザ・恐竜な姿のチョコが加わり、道に出ている人達は皆揃ってドン引き状態だった。


 はい、只今俺達の周りだけ……ぽっかりと空間が空いております。


「せっかく、ほら見て良い子だぞ作戦実行中だったのに、見かけの怖いチョコが新規加入したおかげで、一旦リセットされちゃったみたいだよ」

 横にいたマックスの首を撫でてやりながらそう呟き、俺のすぐ後ろをついてきているニニの額も、手を伸ばして撫でてやる。二匹とも、嬉しそうに目を細めて大人しくしている。

 それを見たハスフェルがシリウスの鼻面を撫でてやり、クーヘンは、笑って手を伸ばしてチョコの顎の下をそっと掻いてやった。

 それを見た周りから、どよめきが起こり小さな声でささやき合う声が聞こえてきた。


「うわあ、あれって大丈夫なのかよ」

「だけど、彼らは魔獣使いなんだろう? 人混みの中でも、大人しくしてるよ」

「だけど怖くない?」

「いやまあ……怖くないって言ったら嘘になるけどさあ」


 まあそうですよね。やっぱりこのデカさは怖いですよね。

 俺が密かに凹んでいると、また別の声が聞こえた。


「ねえ、あのふわふわな尻尾! 私、あれに触ってみたいわ!」

「やめとけって、もし噛まれたら冗談ですまないぞ」

「だけどあいつは触ってるぞ」

「そんなの当たり前だろうが。あれは自分の従魔なんだからさ!」

「ええ、そんなの狡いわ。私も触ってみたい」


 どうやら男性二人と女性一人の仲間らしき冒険者達の会話を聞いて、俺は密かに吹き出した。

 どこの世界でも、女性と子供の方が怖さよりも好奇心が勝っているようだ。

 他にも、キラキラした目でチョコやニニを見つめる子供達を、必死で捕まえて止めている親の姿があちこちに見られたよ。

 心配していた程には全員から怖がられているわけでは無さそうで、俺は密かに安堵の溜息を吐いたよ。

 まあこれなら、頑張って毎日朝市に顔を出していたら、レスタムの街にいた時みたいに少しは慣れてくれそうだ。



 到着した広場で、俺はまた朝粥をお椀に入れてもらい、ハスフェルとクーヘンはそれぞれホットドッグを買った。

 広場の端にある場所で、大人しく座る従魔にそれぞれもたれて、まずは腹ごしらえをする。

 うん、今日の朝粥は鶏肉が入っていてこれも美味い。よし、これも後で鍋いっぱい買う事に決めた。

 食べ終わったらハスフェル達と別れて、俺は、お粥の屋台で、またしても大鍋いっぱいに粥を入れてもらった。

 それからコーヒーをマイカップに入れてもらって、のんびり飲みながら朝市の通りへ向かった。

 朝市の通りに入った途端に、またしても起こったどよめきは、聞かないふりをしましたよ。



「おお、新鮮野菜が山盛りだな」

 目に付いたものをどんどん買い込み、マックスの影に隠れてまとめて鞄に放り込む。

 野菜と芋を大量購入した店の横は果物屋だった。

「あ、なんだっけ。ええと……あ、そうそう蜜桃だったな」

 ベリーの言葉を思い出して、俺は順番に山盛りの果物を見て回った。

 一番真ん中の目立つ所に、どう見ても俺の知る桃の倍くらいの大きさの桃が並んでいる。

 今が旬だって言っていたから、やっぱりこれか?

 俺が立ち止まって見ていると、気が付いたおばさんが出て来てくれた。

「いらっしゃいませ。今年一番の出来の蜜桃ですよ。味は保証するよ。ほら、迷ってるなら試食してみなよ」

 ナイフを片手に持った白髪頭の爺さんが出て来て、手にしていた、試食用の蜜桃を一切れ切ってくれた。豪快に切ってくれたのは良いんだけど、皮ごとだ。

「ああ、蜜桃は皮の周りが一番美味しいんだよ、だからそのまま口に入れて皮だけ後でだしな」

 もらった蜜桃を手に、困っていた俺を見て、おばさんは笑って、自分も一切れ皮ごと口に放り込んだ。そして口をもぐもぐさせて皮をペロッと吐き出したのだ。

「あはは、そういう事ですか。それじゃあ遠慮無く」

 皮ごと放り込んでブドウの皮を剥くみたいに、舌と前歯で蜜桃の皮を剥がした。

 驚くぐらいに甘くて柔らかい。

 おばさんが屑入れを差し出してくれたので、遠慮無くそこに皮を捨てる。

「なにこれ、めっちゃ甘い」

「そりゃあ蜜桃だからね。甘くなけりゃあ名前に偽りありって叱られちまうよ」

 ケラケラと笑うおばさんは、とても良い笑顔だった。

「ええと、まとめ買いって、お願いしても構いませんか?」

 今店に並んでいる巨大な桃は、全部で10個。更に、その後ろに積まれた木箱の中にも蜜桃が積んであるのが見えている。どれだけ売ってくれるかな?

「何だい、数がいるのかい?」

「ええと、できれば数が欲しいので、譲っていただけるならありったけ貰いたいんです」

「蜜桃は、一つ銀貨一枚だよ。お前さん、値段が分かって言ってるかい?」

 おお、そんな高級品を惜しげもなく試食させてくれたのかよ。

 密かに感動していると、試食をくれた爺さんが俺を見て後ろのマックス達を見た。

「蜜桃は日持ちしないぞ。しかもほぼ食べ頃のものを持って来ているから、放っておくとすぐに傷んで食えなくなるぞ。それでも良いのか?」

「全然大丈夫です」

 おばさんと顔を見合わせた爺さんは、にっこり笑って後ろの箱を指差した。

「それでも良いって言うんなら、ありったけ持っていきな」

「ありがとうございます。商談成立ですね」

 爺さんと拳をぶつけ合い、俺が収納の能力者である事を知らせる。

 それから店の裏へ周り、俺が取り出した空いていた果物用の空箱に、爺さんが蜜桃を全部綺麗に詰めなおしてくれた。

 蜜桃は全部で30個あった。

 お礼を言って、また他の店を見て回る。

 結局、蜜桃を売っていたのはもう一軒だけで、一応全部買い占めさせてもらいました。一応許可は貰ったよ。全部もらって良いかって!

 その後から頼んだ店が、どうやらこの辺りでは一番大手の果樹園が出している店だったらしく、店主だと言うやたらデカい爺さんに、もっと欲しければ配達してやると言われた。

「ええと、冒険者ギルドの宿泊所に泊まってます。魔獣使いのケンって言ってもらったら分かりますので、そちらの都合の良い数で、出来るだけ沢山届けてください」

 配達分の手付金で金貨一枚を払い、お願いして店を後にした。

「ベリーも、大量にジェムを確保してくれたもんな。出来る限り、旬の果物は確保してやろう」

 それから他の店でも、色々と買い込み、俺は朝市の通りを離れて、そろそろ開いているであろう食品店が並ぶ通りを目指した。



 レスタムの街で思っていたんだが、この東アポンも街で確信した。

 どうやら基本的な街の作りってのがあって、城門から続く大通り。これが一番のメインストリートな訳で、ここには食堂や宿屋が主に並んでいる。他には薬屋や花屋、洋服屋、鞄などの身につける品を置く店が多い。

 その大通りが突き当たるのが、中央広場。ほぼ円形で四方八方に何本もの通りが伸びていて、放射状に街中に広がる道路が敷かれている。

 中央広場には屋台が出ていて、メインストリートから近い一番大きな通りに朝市が出ている。

 そして、広場から出る道は、肉屋や魚屋、牧場直営店などの生鮮食料品の店が並ぶ通り、干物や豆類などの保存食を主に扱う通り、そして、武器や防具を売る店がならぶ通り、家具屋や道具屋が並ぶ通りなど、見事な程に、職種や売っているものによって綺麗に分けられているのだ。


「まあ、分かりやすくて良いよな」

 シャムエル様にそんな事を言いながら、角を曲がって別の通りへ出る。

 目に付いた養鶏場の直営店で、各種鶏肉と産みたて玉子を大量購入。それから、その隣にあった共同経営なのだという牧場の直営店で、またしても牛肉と豚肉を大量購入。それから、簡易冷蔵庫に置かれていた牛乳も大量購入。チーズとバターもお願いして出してもらった分を全部まとめて大量購入。

「あ、そう言えば俺、空の牛乳瓶が大量にあるぞ」

 ふと思い出して聞いてみると、持っている瓶を出せばそれに入れてくれると言われたので、邪魔にならないように裏に回って、お店の人に頼んで空いた手持ちの牛乳瓶にも入れてもらう事にした。

「収納の能力者の方は、初めてお会いしました。凄いですね、そんなに入るなんて羨ましいです」

 空瓶をガンガン取り出していた俺は、目を輝かせる店員さんの言葉に笑って口元に指を立てた。

「厄介ごとはごめんなんで、内緒でお願いします」

 苦笑いの店員さんと頷き合い、取り出した空の牛乳瓶に、入るだけ牛乳を入れてもらい、追加で買った分と一緒にどんどん鞄に入れていく。

 まとめてお金を払い、満面の笑みの店員さん達に見送られた俺は、欲しいものはあらかた買えたので、一旦宿泊所へ戻る事にした。

「さてと、宿に戻ったら大量の仕込みをしなくちゃな」

 思わずなにからしようか考えていたら、カバンの中にいたサクラがゴソゴソと動いた。

「ん?どうした?」

 思わず鞄を覗き込むと、なにやら伸び上がるサクラがいる。

「お手伝いするよ、ご主人がやってたみたいに粉をまぶしたり切ったりは出来るよ」

 その言葉に思わず目を瞬き、俺は吹き出した。

「それは頼もしいな。じゃあ戻ったらやってみてくれよ、少しでも手伝ってくれたら嬉しいぞ」

 あまり本気にせずに、俺は笑って、鞄に手を突っ込んでサクラを撫でてやった。


 うん、まさかあんな優秀だったなんてね……恐るべし、スライムちゃん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ