ご馳走様とスライムトランポリンの話
「いやあ、最高に美味かったよ。ご馳走さん」
「また恩が出来ちまったなあ。さて、今度は何を贈ろうかなあ?」
山盛りに取った料理をぺろっと平らげたヴァイトンさんとエーベルバッハさんは、満面の笑みでそんな事を言いながら俺が淹れた緑茶を飲んでいる。
一応、まだ日は高いのでアルコールは出していないよ。
「いやいや、こんなの大した事ないですって」
笑ってそう言った俺だったけど、二人は、次のお礼には何が良いかとまた相談を始めている。
「いやあ、本当に美味しかったよ。ううん、それにしてもどうして前回は俺も一緒じゃなかったのか、こればっかりは何度聞いても悔しいぞ」
冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんが、こちらも空っぽになったお皿を前に緑茶を飲みつつ、二人の顔を横目で見ながら悔しがっている。
「あはは……まあ、あれは成り行きと言うか、なあ?」
「だよなあ。そんなつもりは無かったんだけどなあ」
「いやいや、雪像作りに関しては本当にめっちゃ助かりましたから感謝していますって。お二人にご指導いただけなかったら、正直言って雪祭りへの参加自体も棄権していたかもしれませんからねえ」
ハスフェル達と顔を見合わせて苦笑いしつつ揃って頷く。
「お役に立てて良かったよ。それにしても、どっちの作品もなかなかの人気だからなあ。人気投票の結果発表が楽しみだよ」
「人気なのは嬉しいんですけど、まさかランキング入りするなんて思ってもいなかったから、もうびっくりですよ。ベテラン勢の中に、初心者がしゃしゃり出て申し訳ありませんねえ」
そもそも、参加した時には人気投票があるなんて知らなかったんだからさ。
雪像作りだって、単なるノリで参加しただけのど素人なのに、雪像を見慣れているはずの街の人達に人気だなんて言われたら、何だか急に恥ずかしくなって来たよ。
「別に、雪まつりの雪像作り自体には観光客だって参加したって構わないんだから、この街に家を買ったお前さんなら、仲間達と一緒に参加するのは当然だろう? 今年だけなんて言わずに、来年も再来年も、どうぞ遠慮なく参加してくれよな」
「あはは、そう言っていただけると気が楽になります。確かに楽しかったので、機会があればまた参加しますよ」
笑った俺の言葉に、ギルドマスター達は笑顔で拍手してくれたよ。
春と夏と秋にはハンプールで早駆け祭りに参加して、そして冬はここバイゼンでのんびり雪祭りに参加する。
魔獣使いの仲間達も沢山増えた事だし、もしかしたら他にも力のある魔獣使いが現れているかもしれない。ううん春の早駆け祭りも楽しみだよ。
それから早駆け祭りの合間には、自由に各地を回って美味しいものを食べたり珍しいものを見たりして、時にはジェムモンスター達と戦ってジェムや素材を集めたりしてさ。そんな風に行き先を決めない旅で自由気ままに生きていくのも楽しそうだ。
「まあ、まだまだ行った事のない場所が沢山あるんだからなあ。さて、春になったら次はどこへ行こうかねえ」
小さく笑ってそう呟いた俺は、まだ見ぬ新しい土地に思いを馳せつつマイカップに満杯まで入っていた温かい緑茶をゆっくりと飲み干した。
「ところで、食っている時に一つ思いついたんだが、山側の倉庫街にある大型の空き倉庫なら、あの大きさのスライムトランポリンでも余裕で出来るんじゃあないか?」
二煎目の緑茶を準備していると、商人ギルドのギルドマスターのヴァイトンさんが、隣に座っているエーベルバッハさんの腕を叩きながらそんな事を言い出した。
「ああ、確かにあそこなら、高さも広さも申し分ないなあ。屋根があるから悪天候でも問題無い。倉庫の空きは有るのか?」
「おう、ただし空きがあるのはちょっと倉庫街の中でも奥側だからなあ。実際にあそこでスライムトランポリンをするとなったら、この雪の中を歩いて向かうのは無理だ。人の移動には各ギルドから出す大型の乗合馬車を街と倉庫街の間で往復させるのが良いだろうな」
ヴァイトンさんが考え込みつつもそう提案する。
「ああ、それなら馬車に乗る際にトランポリンのチケットを購入して貰えばいい。そうすれば現地でいちいち代金を回収しなくてすむだろうからな」
「おお、それは良い。じゃあ空き倉庫の段取りを頼むよ。いつからする?」
いきなり真顔になった冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんの言葉に、ヴァイトンさんはニンマリと笑う。
「二日待ってくれ。それで一度試しにやってみよう。お前さん達もギルドが持っている大型馬車の準備と、それから人員の手配を頼む」
「了解だ。じゃあケンさん。スライムトランポリンの方はこっちの段取りが着いたら知らせを寄越すから、すまないがスライム達の手配をお願いするよ」
「了解です。いつでも言ってください。スライム達も張り切っているので、ガッツリ広い場所をお願いしますね」
床に転がっていたスライム達が、いきなり張り切って飛び跳ね始めている。
「おう、まかせろ。空き倉庫をありったけ使ってやるよ。いやあ、街の人達の笑顔が目に浮かぶようだよ」
「素晴らしい提案を感謝するよ。それじゃあまた明日」
「そうだな。準備もあるしこのお茶をいただいたら戻るとしようか」
三人が顔を見合わせて苦笑いしている。
「お忙しいのに、仕事を増やして申し訳ありませんね」
話をしながら準備していた二煎目の緑茶をそれぞれのカップに順番にゆっくりと注ぎ、俺は少し薄くなった二杯目の緑茶をのんびりと楽しんだのだった。
さて、ここバイゼンの人達のスライムトランポリンへの反応や如何に?