寒いんですってば!
「うう、寒い! スライムトランポリンは確かに楽しいけど、動いていないと滅茶苦茶寒いぞ!」
途中から跳ね飛んで来てくれた大型犬サイズのラパンに抱きついて一緒にスライムトランポリンを楽しんでいた俺だったけど、さすがに目が回って来たのでもうスライムトランポリンを終了して降りて来たところだ。
だけど、少し汗をかいたところにまたしても超冷たい風が吹き抜けて行く。
確か、放射冷却っていうんだっけ? 冬の晴れている日の方が、曇りや雪の日よりも気温が下がるって言うあれ。今の状態はまさにそんな感じだ。
先ほどまで少し暖かかったのが嘘みたいに、まだ昼間だっていうのに一気に気温が下がってきたよ。
「ああ、駄目だ! 寒すぎる!」
両腕を抱き締めるみたいにして震え上がった俺は、同じくそろそろスライムトランポリンから降りてきたギルドマスター達を見た。
「ねえ、昼飯くらい奢りますから、とにかく中へ入りましょう! 寒いです〜〜!」
「あはは、早駆け祭りの英雄殿も寒さには敵わないか」
「俺、暖かい地方の生まれなもんで、寒いの苦手なんですよねえ」
「だけど家を買うくらいには、ここを気に入ってくれたんだろう?」
からかうようなヴァイトンさんの言葉に、俺は小さく吹き出しつつ白亜のお城を振り返った。
「そうですねえ。家を買うくらいには気に入ってますよ。なにしろ、旅を始めた当初からの目的地でしたからね」
驚くギルドマスター達に、俺はもう一度ごまかすみたいに笑ってからお城を指差した。
「まあ、詳しい話は中でしましょう。俺は寒いんですってば!」
もう一度両腕を抱き締めるみたいにしながらそう叫ぶと、あちこちから吹き出す声が聞こえて従魔達が集まってくる。スライムトランポリンは一瞬でバラけてソフトボールサイズになり、そのままそれぞれのご主人のところへ跳ね飛んで戻って行った。
アクア達は、俺の鞄の中へ順番に全員が飛び込んでいったよ。
「よし、撤収完了! とにかく暖かい部屋へ戻りましょう!」
鞍無しのマックスの背中に飛び乗った俺は、お城の玄関まで一気に走って戻って行ったよ。だって、マジで寒いんだからさ!
「ううん、何度来てもやっぱりデカいなあ」
「絢爛豪華って言葉は、ここの為にあるみたいなものだよなあ」
お城を入ったところにある雪落とし用の広い玄関で、暖房器具のスイッチをオンにして、とにかく凍えた体を温める。
猫族軍団にファンヒーターの前側部分をあっという間に占領されてしまい、苦笑いした俺達は顔を見合わせて服についた雪を払い落とすと、そのまま早足でリビングへ向かった。
留守番組の子達が寒くないように、基本的に廊下にいくつか置いてある暖房器具と、リビングと俺の部屋の暖房器具はつけっぱなしだ。なので帰ってきたばかりでも廊下もそれほど寒くはないよ。
「廊下に暖房器具を置いてつけっぱなしとは、何とも贅沢な話だなあ」
「だがまあ、ここを即金で買った彼ならそれも当然だろうさ」
「だよなあ」
ギルドマスター達が廊下に点在している暖房器具を見て苦笑いしている。
「いや、だってこの家めちゃくちゃ寒いんですよ。石造りの家がこんなに寒いって、俺、初めて知りましたもん!」
まるで本物かと思うほどに精密に彫られた植物の彫刻をそっと叩いて、少し大きな声でそう訴える。触っただけでも手が凍りそうなくらいに冷えてるよ。
「あはは、まあ確かに木造の小さな家よりも、石造りの大きな家の方が冷え込み具合は酷いなあ」
「寒がりな従魔達もいますからね。快適に過ごせるのならジェムくらい使いますよ」
笑った俺の言葉に、ギルドマスター達はにっこりと笑って頷く。
「そうだな。今年の冬は、大量に納品してくれたジェムのおかげで、街の皆も暖かく過ごせているよ」
「ああ、そうでしたね。ええと、足りなければいつでも言ってくださいね。ジェムなら大量にありますから、一割引もまだまだ実施中ですよ」
笑った俺の言葉に真顔になるギルドマスター達。
「それならよければ近いうちにもう一度、まとめてギルド連合でのジェムの買い取りをさせてもらいたい。祭りで近隣の街からも人が集まっているから、暖房器具のためのジェムの消費も普段以上なんだよ。せっかく寒い中を来てくれた観光客に寒い思いはさせられんからな」
ヴァイトンさんの言葉に、俺はにっこり笑って自分で収納しているジェムを一つ取り出して見せる。
これはまだまだ大量にあるブラウングラスホッパーのジェムだよ。
「了解です。じゃあ……焼肉パーティが終わってからでいいですかね?」
「もちろんだ。ケンさんの都合の良い時でかまわないから、いつでも冒険者ギルドへ顔を出してくれ」
冒険者ギルドのギルドマスターのガンスさんの言葉に、俺も笑って頷く。
一応、俺は冒険者として登録してギルドカードを作っているから、所属は冒険者ギルドになる。だから買い取りは基本的に冒険者ギルドを通してもらう仕組みみたいだ。
「それなら、メタルブルーユリシスの翅もまた要りますか?」
「そうだな。出来ればもう少し貰いたい。まあその辺りは予算と相談だな」
苦笑いするガンスさんの言葉に、ヴァイトンさんとエーベルバッハさんも揃って苦笑いで頷いていたよ。
まあ、あれだけ大量に渡した後だからな。だけど、あれはここでは必須の素材らしいから、俺としても出来るだけ渡してあげたい。
「まあ、その辺りの差配は彼らに任せておけばいいさ」
俺の考えている事なんてお見通しらしいハスフェルの言葉に、俺も苦笑いしつつ頷いて取り出していた大きなブラウングラスホッパーのジェムを鞄に放り込むようにして収納したのだった。