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雪国の暮らしと楽しみ

「それじゃあ、まずはお城へ戻ろう」

 ギルドの建物を出てよく晴れた真っ青な空を見上げた俺の言葉に、皆も笑顔で大きく頷く。

 気温も朝と違って少しは上がっているみたいだから、これなら少しくらい外でも遊べそうだ。

 街の中はマックスの手綱を引いて横を歩き、別荘地の広い道へ入ったところで全員がそれぞれの騎獣に飛び乗る。ギルドマスター達も俺達に付き合って馬を引いて歩いてくれていたんだけど、ここからは馬に乗って一緒に行くよ。



「アッカー城壁から向こうは、まだまだ新雪が降り積もっていますからね。俺達の従魔が雪かきしながら行きますから、遅れないように後ろをついて来てください」

 並足ぐらいの速さでマックスを歩かせながら、見えて来た巨大なアッカー城壁を指差しながら横を進むヴァイトンさんに声を掛ける。

「ああ、確かにあの庭を雪かき無しの状態で馬で進むのは、行けないわけじゃあないがちょいと骨が折れそうだなあ。お言葉に甘えて俺達は後ろを進ませてもらうよ」

 笑ってそう言って頷くヴァイトンさんの言葉に、思わず考える。

「ええと、明日の職人さん達が乗って来る馬車って……もしかして、アッカー城壁からお城までの間って雪かきしておかないと進めなくないですか?」

 従魔に乗っている俺達だから新雪が降り積もったあの庭だって平気でラッセルしながら進めるけど、どう考えても幅のある馬車ではある程度の雪かきをしておかないと無理そうだ。

「ああ、それなら大丈夫だ。その為の大型の馬車だよ。あれには馬の前側部分に雪を掻き分ける金属製の三角に尖ったプレートが取り付けられるようになっているんだ。新雪が積もったままの郊外でも進める、冬用の特別仕様の馬車だからご心配なく」

 笑ったヴァイトンさんが、顔の前で手を振りながらそう言って教えてくれる。

「へえ、凄い。そんな馬車があるんですね」

 感心したように頷きながらも頭の中では、テレビでしか見た事が無いけど、雪国で大活躍している大きな除雪車を想像した俺だったよ。



 アッカー城壁をくぐった途端に一気に視界が白一色になる。

「いやあ、さすがに郊外だけあってよく積もってるなあ。うん、これはなかなか見ないほどの量の雪だな」

 苦笑いしたヴァイトンさんの呟きに、エーベルバッハさんとガンスさんも笑っている。

「そっか、雪国に住んでいても街の中で暮らしていたら、ここまで雪が一面に降り積もっている景色を見るなんて滅多に無いんですね」

「そうだな。商人や仕事で郊外に出る奴ならいざ知らず、俺達街の住民は、冬場は余程の事が無い限り街の外へは出ないからなあ」

「スケートをする為に、ざわざ郊外の湖まで行く奴もいないわけでは無いけどな」

 笑ったエーベルバッハさんの言葉に納得する。そうだよな。スケートは凍った池や湖なら充分出来そうだし、山がすぐ近くにあってこれだけ雪が積もっているんだから、絶対スキーとかやる人がいそうだ。

「スキーやスケートって、人気無いんですか?」

 俺はやらなかったけど、冬になるとスキーやスノボにハマっている同僚が何人もいたよ。この世界ではそういう冬の遊びはないんだろうか?

「スキー? それは何だ?」

 不思議そうなその言葉に、思わず答えに困ってしまう。

『なあ、ちょっと質問だけど、もしかしてこの世界にスキーって無い?』

 慌てて念話でハスフェル達に助けを求める。

『スキー? 何だそれは』

『俺も初めて聞くなあ』

 見ると、シャムエル様も不思議そうに俺を見ている。

 ううん、どうやらシャムエル様の異世界知識にスキーは入っていなかったらしい。この辺りの情報収集ってどうなってるんだろう。スキーってメジャーな冬の遊びだと思うんだけどなあ。

「ええと、ちょっとした言い間違いですから気にしないでください。それよりスケートって、氷の上を滑るんですよね?」

 強引に話をスケートに戻す。

「ああ、使い古してツルツルになった靴を履いて、凍った湖や池なんかで滑って遊ぶのさ。真っ直ぐ立つだけでも難しいが、なかなかに面白いぞ。だがあれはどちらかと言うと冬の子供の遊びだな。俺達みたいに体重が重いやつが何人もいて、万一にも氷を割ったりしたら大惨事だからな」

「だな。大人は一緒に行っても、焚き火の番をして横で見ている事が多いなあ」

 エーベルバッハさんの言葉にヴァイトンさんも笑って頷いている。

「ああ、それは確かに危なそうだ。だけどそれなら、あまり使っていない街外れの円形広場に水を撒いて凍らせてやればいいのに」

 俺の何気ない呟きにギルドマスター三人がもの凄い勢いで振り返る。

「今何といった? 円形広場に水を撒く?」

「ええと、だって、この気温なら水を撒いたらすぐに凍りますよね。何度か重ねて水を撒いて分厚い氷を作ってやれば、あとは最後に氷の表面をお湯を撒いて平らに慣らしてやれば、即席スケート場の出来上がりでしょう?」

 以前、雪国出身の作家さんのエッセイでそんな話を読んだ覚えがある。冬になったら敷地内に水を撒いて凍らせて即席のスケート場を作るんだって。それを思い出してそう言っただけなんだけど、どうやらその発想はここでは無かったらしい。

「そのアイデア買った!」

 さすがは商人ギルドのギルドマスター、儲け話には即食い付きますねえ。

「あはは、気にしませんから是非やってみてください。それより、俺達が先に行きますから下がってくださいね」

 何となく立ち止まったままで話をしていたら寒くなってきたので、そう言ってマックスを少し進ませる。

 隣にシリウスに乗ったハスフェルが並び、その斜め後ろをギイの乗るデネブとランドルさんの乗るビスケットが並ぶ。リナさん達がその後ろに広がってギルドマスター達が乗る馬を取り囲むみたいにして並ぶ。

「よし、じゃあ行くぞ!」

 俺の掛け声に元気よくマックスとシリウスが吠えて一気に駆け出す。全員が即座にその後に続いて走り出し、俺達は揃って歓声を上げてお城までの道をラッセルしながら一気に走っていったのだった。

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