皆で一緒に!
「いやあ、どれほどの出来になるかと楽しみにしていたが、ここまでとはなあ」
「全くだ、さすがは剣匠フュンフだよ。素晴らしい仕事だ」
ここまで一緒に来ていたものの、完全に観客状態で後ろに下がって見ていたヴァイトンさんとガンスさんが、感心した様にしみじみとそう言いながら頷き合っている。
「だから言っただろう? 俺は昨夜、フュンフからこの剣を見せられて、もう感動のあまり全身鳥肌だったんだからな。感動に手が震えるってのを久々に体験したよ」
ドワーフギルドのギルドマスターであるエーベルバッハさんの言葉に、他の職人さん達までもが揃って頷いている。
いやいや、皆さんの仕事も同じくらいに完璧ですよって。
「なあ、フュンフさん。それなら俺も一本、ヘラクレスオオカブトの剣を打って欲しいんだがどうだね。さすがに大物二本続けては無理かな?」
自分の収納から、おそらくは一番良いのであろうヘラクレスオオカブトの角を取り出すハスフェルを見て、フュンフさんが遠慮無く吹き出す。
「いえいえ、もちろん喜んで引き受けさせていただきますよ。いやあこれまた素晴らしい角だ。ケンさんから預かったあの角ともほぼ互角なくらいですね」
満面の笑みで差し出されたそれを受け取ってうっとりと撫でるフュンフさん。まあ、良い素材を前にすると職人さん的にはああなるんだろうな。
「あ! それなら俺が預けたオリハルコン、必要ならあれも使ってくれていいぞ」
まだ返してもらっていないけど、確か残った分は返してくれるって聞いたもんな。
ハスフェルもヘラクレスオオカブトの剣を注文すると聞きそう提案すると、驚いたようにハスフェルとフュンフさんが揃って振り返った。
「良いのか? あれはお前のものだぞ。しかも滅多に手に入らないとても貴重な鉱石だ」
「もちろん構わないよ。作って欲しかった武器も防具も思っていた以上のものを全部作ってもらえたし、そもそも返してもらったところで宝の持ち腐れだよ。ああ、でもミスリルはハスフェルも持っているんだから、そっちは自分のを使ってくれよな」
笑ってそう答えると、ハスフェルはこれ以上ないくらいに嬉しそうに笑って大きく頷いた。
「感謝する。では遠慮なく使わせていただこう。エーベルバッハ、ケンが提供した残りのオリハルコンはどうなっているんだ?」
「おう、三分の一くらい使ったな。残りはミスリルと一緒に俺が預かっているよ」
エーベルバッハさんがそう言うのを聞いて俺も頷く。
「じゃあ、今言った通りに、ハスフェルの注文分に使うオリハルコンはそこから渡してください。ええと、ちなみにそれとミスリル以外にお渡ししている素材って、どうなりましたか?」
メインの素材はおそらくそのまま全部使っただろうけど、革やトライロバイトの角はかなりの数を預けていたはずだ。
「ああ、そっちも余った分はまとめてお返しするよ」
「そうなんですね。ええと……」
革なんて、使いかけを返されても正直言ってどうしようもないんだけどなあ。そう考えたんだけど、貰ってくれって言っても受け取ってもらえないだろう事も予想出来たので、そこは黙っておく。
『なあ、ちょっと相談なんだけどさ』
少し考えて、チャットルーム全開状態でハスフェルに話しかけた。
『おう、どうかしたか?』
素知らぬ顔をしながら、平然と応えてくれる。
『ギルドマスター達を岩豚の焼肉パーティーに招待するって話だけどさ。ここの職人さん達も招待したいんだけど、構わないかな?』
『ああ、お前さんが構わないなら良いと思うぞ。間違いなく喜ぶだろうから、ぜひ一緒に誘ってやれ』
『了解、じゃあ話をしてみるよ』
一緒に聞いていたギイも、笑ってこっそりサムズアップしてくれた。
「あの、ちょっと良いですか?」
荷物をまとめて整理していた職人さん達と、顔を寄せて話をしていたギルドマスター達を振り返って少し大きめの声で話しかける。
「ああ、まだ何かあったか?」
「なんか質問があるなら、遠慮なく聞いてくれていいぞ」
エーベルバッハさんとヴァイトンさんが、俺の声に驚いたみたいに顔を上げてそう言ってくれる。
「ええと、実は俺の家であるあの郊外のお城で、また焼肉パーティーをしようと思っているんですよね。もちろんメインは岩豚です!」
そう言った瞬間、エーベルバッハさんとヴァイトンさんの目が大きく見開かれる。
「そして今回は、お二方だけでなく、ガンスさんと、素晴らしい別注品の数々を作ってくださった職人の皆さんも一緒に招待したいと思いますが、皆さんの予定はいかがでしょうか?」
「いつでも行きます!」
ほぼ同時に、全員が満面の笑みで答えるのを聞き、俺は堪えきれずに大きく吹き出したよ。
「あはは、じゃあ……早い方が良さそうですね。ええと、明日の夕食でいかがですか? ああ、皆さんの工房の職人さん達も、予定が合えばよかったら一緒に来てください。一緒に俺の注文品を作ってくれたんですからね」
「ええ、良いのか?」
「もちろん。あのお城なら広いから、大人数で来てくれても全然問題なしです」
笑顔の俺の言葉に、職人さん達から拍手が起こり、口々にお礼を言われた。
「ええと、それからもしも工房の職人さんで来られない方がいたら、人数を教えてくださったら岩豚のお肉をお裾分けしますからね」
確か以前、クーヘンのお店を改装してくれたリード兄弟のところには、店の外には殆ど出ないって言っていた足の悪いモルガンさんがいたもんな。それを思い出して、もしかしてそんな人がここにもいるかもしれないと思ってそう言ったんだけど、やはりと言うか、ギュンターさんとホルストさんが安堵のため息を吐いてる。
「それなら、ギルドから大型の馬車を出してやるから皆で一緒に行こう。それならリーベルとリュリュさんも一緒にいけるだろうからな」
おそらくその辺りの事情を知っているであろうエーベルバッハさんの言葉に、二人は嬉しそうに笑って何度もお礼を言っていたよ。
「ああ、帰りを考えると馬車で一緒に来てくださるのは良いですね。飲んでも安全に街まで帰ってもらえる」
俺の言葉に、その場は笑いとともに大きな拍手に包まれたのだった。