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とても疲れた朝のひと時

 ぺしぺしぺし……。

「うん、起きる…」

 ふみふみふみふみ……。

「ああ、この肉球……」

 カリカリカリカリ……。


 ん? 最後のは何だ?


 不意に鮮明になった頭の中で、今の最後の感触を思い出す。

 カリカリ? いったい誰だ?

 恐る恐る目を開くと、目の前にいたのは、ドヤ顔のプティラだった。

 俺が目を開いたのに気付いたプティラは、前足の、細いがめっちゃ鋭い爪を開いてみせた。

 うわあ、もしかして最後のあれって、プティラの前足かよ。

 それはちょっと怖いかも。

 思わずカリカリされた頬を触って、引っかき傷が無い事を確認したよ。

「おはよう、起こしてくれてありがとうな。だけど、お願いだからその爪でザックリやるのは勘弁な」

 笑った俺が突っついてやると、ミニラプトルのプティラは嬉しそうに目を細めて頭をこすりつけて来た。

「大丈夫ですよ。人の肌がどれだけ柔らかく弱いか、皆からちゃんと聞きましたからね。どうでした? 私の爪の力の入れ具合は?」

「うん、ありがとうな。あれぐらいなら痛く無いぞ」

「良かった、じゃあ今度もあれくらいで起こしてあげますね」

 おう、目覚まし係に、タロンの爪より危険なのが来たぞ。うん、頑張って起きよう。



 そんな事を話しながらとにかく起き出して、まずは顔を洗っていつもの防具を身に付けていく。

 サクラが綺麗にしてくれるからなのか。それともシャムエル様がくれた生地だからなのか、この鎧の下に身に付けている布の服、全然汚れる様子も傷む様子も無いんだよな。まあ、いちいち洗濯しなくて良いから有難いんだけどね。

 まずは足元に良い子で座ってるタロンに朝飯用の鶏肉を出してやる。一つ欠伸をしたところで、ノックの音がして、すっかり身支度を整えたハスフェルとクーヘンが入って来た。

「おはようさん。今日は結局どうするんだ?」

 大きく伸びをしながら尋ねると、ハスフェルは、立ったままマックス達を順に撫でながら振り返った。

「お前は今日は食事の仕込みをするんだろう? 俺は、いつものように広場の屋台で朝飯を食ったら、クーヘンと一緒にチョコに乗せられそうな鞍を探すことにするよ」

「それなら、朝飯は一緒に行こうか。それで、食ったら解散だな」

「それで良いと思うぞ。ディアマントから聞いたんだが、例のユースティル商会、この街からは完全に撤退したらしい。それから、レスタムとチェスターの街でも何か問題を起こしたらしくて、支払いが滞って大問題になっているらしい。もう、経営自体が存続の危機だって言われているらしいぞ」


 ザマアミロ! ユースティル商会!

 奴隷を売り買いしたり、俺のニニを横取りしようとした奴に同情なんかしないからな!


「同情の余地は無いね」

 俺の言葉に、ハスフェルも小さく笑って頷いた。

「まあ、自業自得って言葉の意味を知る良い機会なんじゃないか?」

「だよな、本当にその通りだと思うぞ」

 その時、俺たちの話を少し離れたところで聞いていたケンタウロスのベリーが、嬉しそうにこう言ったので俺たちは飛び上がった。

「ああ、ようやくこれで安心しました。何しろ、私を捉えて檻に入れた奴らですからね」

「うわあ、マジかよ。ベリーが捕まったのって、あいつらだったのかよ」

「ええ、そうです。まあ、私を狩ったのはあの商会お抱えのハンター達ですけどね」

 顔を見合わせた俺達は、いろんな気持ちのこもったため息を揃って吐いたのだった。


「ベリー、果物出そうか? ってか、ごめんよ。幾ら毎日じゃなくても良いって言ったって、最近、全然出してなかったよな」

 タロンの空になった皿を片付けていて、ふと思い出して慌てた。

 俺、ベリーの食事、全然用意してあげてないぞ。

 しかし、予想に反してべリーは笑って首を振った。

「大丈夫ですよ。貴方が寝ている時に、いつもサクラ達が出してくれていますからお腹はいっぱいです」

 おお、まさかのサクラ達が、直接面倒見てくれていたのか。

「果物の在庫は沢山あるんだし、別に構わないでしょう? 私が、お腹が空いた時にサクラに直接頼めば良いって、ベリーに言ったんだよ」

 俺の耳元でシャムエル様がそう言って首を傾げる。

「ああ、全然構わないよ。それじゃあ、果物の在庫が無くなりそうになったら早めに言ってくれるか? また、大量仕入れするからさ」

 安心して笑った俺に、ベリーも嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。それならケン。一つお願いしてもよろしいですか?」

「ん? 何だよ、改まって」

「この辺りには、今の時期、蜜桃と呼ばれるとても甘い果物が売っているはずなんです。もしも見つけたら買っていただけませんか」

「へえ、蜜桃。聞いただけで美味そうだな。了解、じゃあ朝市を見るついでに探してみるよ」

「嬉しいです、よろしくお願いします。ああそれからケン、もう一つ」

 もう話は終わりだと思っていた俺は、立ち上がりかけて止まった。

「ん? まだ何かある?」

「昨日の洞窟に入ってから、あなた達が従魔を捕まえている間に別行動をさせてもらいました。それで、少しですが、恐竜のジェムモンスターを倒してジェムを確保しておきました。貴方にはお世話になっていますし、これから先、追加で果物を買ってもらうにも資金が要りますからね、アクアに渡しておきましたから、お好きに売って旅の資金にしてくださって結構ですよ」

「ええと……何をもらったか、聞いていい?」

 思わずアクアを振り返ってそう尋ねた。

「えっとね、ブラックラプトルのジェムが296個と、ブラックイグアノドンのジェムが608個、ブラックトライロバイトのジェムが2,986個、それからブラックステゴザウルスのジェムが589個だよ! あ、あとね、ブラックティラノサウルスのジェムが6個あるよ」

「ええと、そのブラックラプトルってこいつ?」

 椅子の背にファルコと並んで留まっているプティラを指差す。

「その子はミニラプトルだよ。ブラックラプトルは最高クラスの洞窟専門の冒険者達なら狩れるかな。ブラックティラノサウルスは、まあ普通の人間には絶対に狩れない、絶対王者と呼ばれるジェムモンスターだよ。ブラックイグアノドン、ブラックステゴサウルス辺りはまあ……上位冒険者なら頑張れば可能かな? あ、ブラックトライロバイトなら普通の冒険者でも可能だと思うよ」

 シャムエル様の解説に、俺は気が遠くなった。

 ベリーよ、そんな超レアなジェムを俺に売れと言うのか。


 吹き出す声が聞こえて振り返ると、ハスフェルが口を押さえて笑っていた。

「さすがは賢者の精霊と謳われるケンタウロスだな。恐れいったよ」

「もしかして、めっちゃ貴重なジェムだったりする?」

「まあ、俺が全力で戦って、ようやく倒せるのがブラックティラノサウルスだな。というか、さすがの俺でも、そのジェムは持ってないぞ」

「お、お願いだから半分引き取ってください!」

「半分は貰いすぎだ。俺は趣味でジェムのコレクションをしているから、それなら、持っていないティラノサウルスだけ一つ譲ってくれるか」

「そんな事言わず、もっと引き取ってくれよ。ええと、ちょっと待て。今さっきものすごい数のあったトライロバイトって何の事だ?」

 思い当たるものが無くて首を傾げる。

「ああ、平べったいピルバグみたいな奴だよ。角がある奴もいるし、種類は多いぞ」

 恐竜時代のダンゴムシみたいな奴? あ、三葉虫か!

 納得した俺は、ハスフェルを見た。

「今のジェムの中だったら、一番倒せそうなのはそれか?」

 真剣な俺の質問に、不思議そうなハスフェルは即座に頷いた。

「まあ、トライロバイトなら、普通の冒険者が持ってる程度の武器でも充分に倒せるぞ」

「だったら! それはクーヘンにも引き取ってもらおう!」

「私を巻き込まないでください! そんなの無理です。どこでどうやって狩ったんだって、絶対聞かれますから!」

 顔の前でばつ印を作って叫ぶクーヘン。

 ええ、良い考えだと思ったんだけどな。


 しばらくの沈黙の後、苦笑いしたハスフェルがこう言ってくれた。

「それなら、今日のところは予定通りに別行動にして、明日か明後日にでも、お前の料理の仕込みが終わったらもう一度あの洞窟へ行こう。さすがにティラノサウルスは無理だが、トライロバイトならお前達でも倒せるだろうからな」

 その提案に俺達は頷いた。確かに、自力で一通りは確保しておくべきだろう、絶対王者以外で!

 って事で、今後の予定が決まったところで、俺たちはようやく出掛けたのだった。


 はあ、朝からなんだかものすごく疲れたのは……俺の気のせいじゃないよな!

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