最高の剣と知りたくなかった衝撃の事実!?
「これは素晴らしい」
「ああ、今まで俺の剣が最高だと思っていたが……これは、確かに最高の仕事だ」
半ば呆然と抜き身の剣に見惚れていると、ハスフェルとギイの呟くような声が聞こえて俺はこれ以上ないくらいの笑顔になる。
「な! な! な! お前らもそう思うよな!」
顔だけ振り返ってそう言った俺は、すぐにまた持っている剣を見つめる。
「武器である剣に対して言うべきではないかもしれないけど、すごく綺麗だ。なんて言うか……見つめていると吸い込まれそうな美しさがあります」
俺の半ば無意識の呟きに、フュンフさんが嬉しそうに頷いてくれる。
「いや、そう言ってくれれば作り手としてはまずは満足ですよ。ですがこれはまだ、言ってみれば赤ん坊と同じで全くの無垢な状態なんです。文字通り貴方の片腕として貴方の命を守り共に戦っていく相棒です。これから先、貴方の元でこの剣がどう育っていくのか、再会出来る日を楽しみに待つ事にしますよ」
優しいフュンフさんの言葉に、俺は頷いてそっと剣を鞘に戻した。それから無意識に止めていた息を大きく吸って、一つ深呼吸をする。
「素晴らしい剣をありがとうございます。狩りに行くのが楽しみになりました」
今の素直な気持ちをそのまま伝えた直後、一斉に大きな拍手が沸き起こった。
「ケンさん、もう一回! もう一回見せてください! すっごい!」
そう言いながら目を輝かせて俺の前へすっ飛んできたのはアーケル君で、直後に先を争うようにしてオリゴー君とカルン君が、その隣へこれまたすっ飛んで来て並ぶ。その左右にリナさんとアルデアさんが大急ぎで駆け寄ってきて目を輝かせて並び、駆け寄ってきたけど完全に出遅れたランドルさんは、少し考えて彼らの後ろの真ん中に並んだ。
まあ、ランドルさんとリナさん一家だと大人と子供くらいに背の高さが違うから、ランドルさんもそこからなら余裕で見える位置だ。笑ったハスフェルとギイがその横に並ぶ。
「ええと、それじゃあ見てください」
目を輝かせて並ぶ彼らの前に、手にしていたヘラクレスオオカブトの剣を差し出しそっと抜いて見せる。
ちなみに抜いて手に持った感じも、重すぎず軽すぎず、もうこれ以上ないくらいの完璧な重さとバランスだよ。
順番に手にとってもらい、そこから当然のように彼らが持っている武器との見せ合いになった。
「うわあ、ヘラクレスオオカブトの剣が並んでる!」
「ってか、アーケル! お前だけずるい!」
俺の剣の横にギイが持っていたヘラクレスオオカブトの剣と、アーケル君が持っているバッカスさんの工房で作られた。まだ新しいヘラクレスオオカブトの剣が並ぶ。
アーケル君の剣を見てオリゴー君とカルン君は大騒ぎをしている。ええ、もしかして今まで黙っていたのか?
思わずアーケル君を見ると、ドヤ顔で頷かれて思わず吹き出したよ。成る程、彼なりに二人にお披露目するタイミングを図っていたみたいだ。
「おお、これまた素晴らしい……あの、この銘。これはもしや! あの剣匠ハルディアの作ですか!」
その時、ギイの剣を見ていたフュンフさんが、不意に気が付いたようで驚きの声を上げてギイを振り返る。
「ああ、そうだよ。これを作ってもらったのはもう百年以上前になるなあ。さっきのケンの様子を見ていて、これを受け取った時の事を思い出していたよ」
嬉しそうなギイの言葉に、あちこちから驚きの声が上がる。
聞けば、剣匠ハルディアって人は百年以上前にバイゼンに工房を持っていたドワーフの間でも伝説の武器職人らしく、ここに工房を開いた時にはかなりの高齢だったらしく、もう亡くなられているんだって。
だけど、今でも彼の銘が入った武器は、とんでもない高値が付くらしい。
成る程、日本刀でも有名な刀匠の作だととんでもない値が付いたりしていたもんな。あれと同じって事か。
「ええ、ギイさんって……あの、失礼ですが人間じゃあ無かったんですね」
そんな事を考えていると、驚くアーケル君の無邪気な質問に、ハスフェルとギイが苦笑いしつつ頷いている。
そして何故か二人して俺の左右に来て肩を組んで来た。これだと俺はもう完全にホールドされてて身動き出来ないって。何するんだよ、おい。
「まあ、あまり口外はして欲しくないがね。俺達は、樹海出身の、人間と同じ姿をしている長命種族だよ。だから正確には人間とは別種族扱いなんだよな」
「へえ、それは初めて聞きました。エルフやドワーフ以外にも長命種族っているんですね」
驚くアーケル君の言葉に、二人が苦笑いしつつ頷く。
俺も一緒になって笑っていたけど、内心でものすごい勢いで突っ込まずにはいられなかったよ。
『ちょっと待ってくれよ。それって、それってお前らがそうだってのは聞いたけどさ。もしかして俺もそうなのか?』
思いっきり大声で念話で突っ込んだんだけど、二人はチラッと俺を見ただけで完全にスルー。
よし、これは後ほど絶対に追求してやる!
でも、いつの間にか現れて俺の右肩で嬉しそうに笑っているシャムエル様を見たら、なんだかどうでも良くなってきた。
だって、そんな百年先の事なんて誰にも分からないもんな。
少なくとも、この世界の創造神様であるシャムエル様であっても、個人の個々の事象については基本的にタッチしない方針みたいだもんな。まあ、俺は思い切り依怙贔屓されまくっている自覚はあるけどさ。
って事で、これまた全部まとめて思いっきり明後日の方角へ投げ飛ばしておく。まあ、後で拾いに行くかもしれないけど。
無意味に鞘に収まったヘラクレスオオカブトの剣を撫でつつそんな事を考えていたら、満面の笑みのエーベルバッハさんに肩を叩かれた。
「な、最高だったろう? だけどまだ次があるぞ。他にも武器はあるし、防具の試着もしてもらわなければな」
「ああ、はい。お願いします!」
ひとまずヘラクレスオオカブトの剣と剣帯は収納しておき、包んでいた布ももらって良いみたいなのでまとめて一緒に収納しておく。
そしてまた別のワゴンから取り出された大きな包みを見て、俺は目を輝かせたのだった。