超豪華パンケーキと別注品の事
「ええと、この五段パンケーキに生クリームにダブルチョコ、ミックスフルーツもダブルトッピングってのをください」
念話でも分かるくらいに大はしゃぎのシャムエル様が指定する通りに注文したものの、手早く用意されたそれを見てちょっと遠い目になったよ。
「これを俺が食うなんて、絶対無理だって」
セルフなのでトレーに乗せられた超豪華五段パンケーキとナイフとフォークをもらい、ギルドマスター達の座っている隣の席に座る。
ハスフェルとギイはギルドマスター達と同じ三段を、ランドルさんとリナさん一家は全員が俺と同じ五段を頼んだみたいだ。よかった、五段パンケーキの仲間がいて……。
しかもよく見るとトッピングは色々で、アーケル君は俺のよりもさらに多い山盛りの生クリーム、多分あれは生クリームダブルだな。それからダブルチョコつまりチョコソースと刻んだチョコのダブルトッピングのみでフルーツは無し。いっそ清々しいくらいに甘党宣言しているな。
リナさんは生クリームにいちごジャムとブルーベリージャムのダブルトッピングにイチゴとバナナのトッピングという、なんとも華やかな彩りのパンケーキになってる。
アルデアさんとオリゴー君とカルン君も生クリームとチョコソース、バナナやイチゴなどの果物もりもり。
逆にハスフェルとギイは、シンプルにバターと蜂蜜のみ。俺的にはそっちの方が良かったんだけどなあ……。
そしてランドルさんは、ほぼ俺と同じトッピングの豪華山盛りだったよ。あ、カットしたバナナといちごもあるからあっちの方が内容的には上じゃん。シャムエル様、負けてますよ〜〜。
そう思った瞬間、机の上に現れたシャムエル様の悲鳴が聞こえた。
「うああ、私とした事がイチゴとバナナのトッピングを見逃してたなんて! ねえお願い! お願いだからイチゴとバナナもダブルで追加してください!」
無茶振りな注文に無言になった俺は、トレーを置いて立ち上がりパンケーキの屋台の前へ行く。
「あのすみません、もう一皿追加でお願いします。パンケーキは三枚で、バターと蜂蜜、それからバナナとイチゴをダブルトッピングしてください」
俺が山盛りの五段パンケーキを注文していたのを覚えていたみたいで、一瞬何か言いかけたが、にっこり笑っただけですぐに用意してくれたよ。うう、いい人過ぎる……。
「はい、お待たせしました。どうぞたっぷり召し上がってください!」
満面の笑みでそう言われて、誤魔化すみたいに愛想笑いした俺だったよ。
「はい、ご注文のバナナとイチゴのダブルトッピングな」
もう一揃えもらったナイフとフォークを置き、シャムエル様ご注文のイチゴとバナナはそのまま全部さっきのお皿に取り分けてやる。
「うわあ、ありがとうね! ではいっただっきま〜〜す!」
めちゃめちゃ嬉しそうにそう宣言したシャムエル様は、予想通りに生クリームとチョコレートソースの山へ頭から突っ込んでいった。
それを笑って眺めながら、まずは俺もバターと蜂蜜のシンプルパンケーキをいただいたよ。
「おお、すっげえふわふわ。なにこの柔らかさ」
ナイフで切ると、まるで生クリームを切ったかのような柔らかさに驚く。一切れ口に入れて更にびっくりした。そりゃあもうびっくりするくらいにふわふわで柔らかい。
「ええ、こんな柔らかくどうしたら焼けるんだろう。すっげえ美味い」
「だろう! ここのパンケーキは、とろける柔らかさ、ってのを売りにしているんだけど、俺も今までパンケーキってのは割と硬めだと思っていたから、ここのを初めて食べた時の衝撃は今でも忘れられないよ」
何やら得意げなヴァイトンさんの解説に、俺達は揃って小さく拍手をしたのだった。
しばしそれぞれのパンケーキを楽しんだ後、隣の屋台でマイカップにコーヒーを入れてもらう。
この二軒が並んで店を出しているってのはいい組み合わせだと思うな。パンケーキを食べた人は、口直しにコーヒーが欲しくなるだろうし、コーヒーが欲しくて来た人の中にも、絶対パンケーキも食べたくなって買ってしまう人がいると思うぞ。
のんびりと寛いでいて、不意にここに座った目的を思い出したよ。
ギルドマスター達もパンケーキを食べ終えて今はコーヒータイムだ。
「あの、ちょっとお聞きしたいんですけど、注文している俺の武器や防具の出来はいかがですか? 何かご存知だったら教えてください」
まずは、一番の目的であるそっちを聞いてみる。
すると、エーベルバッハさんがこれ以上ないくらいの満面の笑みで振り返った。
「おお、そうなんだよ。今まさにその話をしていたところでな。お前さん、なんて良いタイミングで来るんだよ。絶対聞こえていただろう」
エーベルバッハさんの言葉に、ヴァイトンさんとガンスさんも笑って頷いている。
「あはは、ナイスタイミングだったんですね。じゃあもしかして、そろそろ仕上がりですか!」
身を乗り出す俺に、エーベルバッハさんがドヤ顔になる。
「ふふふ、俺もここでいろんな注文品を見て来たが、あのヘラクレスオオカブトの剣は、ちょっと嫉妬するくらいの見事な出来栄えになったぞ。いやあ、あれを手に出来るとは羨ましい限りだな」
うんうんと頷きながらそんな事を言われてしまい、俺のテンションも爆上がりしたよ。そうか、武器は試着の必要は無いもんな。鞘の模様とかもお任せで頼んでるし。
「それから防具もほぼどれも出来上がってきているから、一度まとめて試着をしてもらわないとなって話をしていたんだよ。それでお前さん、今日の予定は?」
「今日は、それを聞きにきたので今すぐでも大丈夫です!」
目を輝かせる俺の答えに、エーベルバッハさんだけでなく、ヴァイトンさんとガンスさんも揃って笑顔になる。
「そうこなくっちゃな。じゃあ、この後まずは剣の出来上がりを見にフュンフのところへ行くか」
「是非お願いします!」
満面の笑みの俺の言葉に、その場は拍手に包まれたのだった。
うわあ、ついにヘラクレスオオカブトの剣とご対面だよ。楽しみ〜〜〜!