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岩豚トンカツと禁断のソース!

「ふおお〜〜〜〜! まさかの岩豚のトンカツ!」

「何これ、めちゃめちゃ美味いんだけど」

「ああ、口の中で弾けるこの脂の美味さ……はあ、ビールが進むよ」

 草原エルフ三兄弟は、さっきから延々とこの台詞を何度も言いながら、トンカツを平らげてはまるで水でも飲むみたいにガバガバとギルドマスターが届けてくれた地ビールを飲み干している。

 まあ、これを見越して岩豚トンカツは大量に仕込んであるし、ギルドマスターお勧めのバイゼン産の地ビールはそれこそカートン単位で大量に届いている。しかも俺の分は事前にしっかりと確保して冷蔵庫に大量に冷やしてあるから全然いいんだけどさ。



「なあ。これに、以前出してくれたあの揚げ物用のビール泥棒なソースがあっただろう。あれを付けたら、冗談抜きでビールの在庫が壊滅するんじゃあないか?」

 分厚いトンカツをザクザクと齧りながら、ふと思い出したみたいにハスフェルが俺を見ながらそんな事を言う。

「揚げ物用のビール泥棒なソース? ああ、これか。まだあるぞ」

 サクラに取り出してもらったのは、以前、ハンプールのキッチンでコロッケを作った時に用意したスパイシーブラックソースだ。

 以前俺がバイトしていたトンカツ屋の定番ソースの一つだったんだけど、これは危険なくらいにビール泥棒なソースなんだよな。でもまあ、いろんなソースと黒胡椒を混ぜ合わせて水で薄めるだけだから、作るの自体は簡単なんだよ。

「そうそう、これこれ。じゃあ遠慮なく!」

 笑ったハスフェルとギイが、それぞれ別のお椀を取り出してスパイシーブラックソースを取り分ける。成る程、考えたな。あのままだと二度漬け禁止だけど、自分用に別にソースを確保すれば食べかけを突っ込んでも大丈夫だもんな。

「ええ、何ですか、そのソースは?」

 俺達の会話が聞こえていたランドルさんが、追加のトンカツを取り分けつつ驚いたみたいにこっちを振り返ってそう尋ねてくる。

「まあ、騙されたと思って、そのトンカツをこれに突っ込んで食ってみろ。ちなみにこっちには、食いかけを突っ込むのは禁止だぞ」

 笑ったハスフェルが、俺が取り出していたたっぷりとスパイシーブラックソースの入ったお椀を差し出す。

「普通のウスターソースに見えますけど、違うんですか?」

 不思議そうにしつつも、小さめのヒレカツをお箸で摘んでソースの中へ沈める。そして大きな口を開けて半分ほどかぶりついた。


 沈黙……。


 もぐもぐと黙って咀嚼し終えたランドルさんは、大きく目を見開いてこれ以上ないくらいに大きく頷いた直後に、収納袋からお椀を取り出した。

「ここへいただきます!」

 にっこり笑っていそいそとスパイシーブラックソースを取り分けるランドルさんを見て、リナさん達やアーケル君達も慌てたようにそれに続いたのだった。



「あはは、ちょっと待った。それなら、もうちょい追加のソースを作ってくるからさ」

 一気に減ったソースを見て笑って立ち上がった俺は、早足でリビングに備え付けられているキッチンへ向かった。

「ええと……サクラ、使いかけのソースを一通りと小鍋を二つ。それから二番出汁をお願い」

 作業台に手早く取り出してくれた材料を見ながら、まずはスパイシーブラックソースを作っていく。

「まずはトンカツソースと中濃ソース、それからウスターソースだな」

 片手鍋にガバガバとそれぞれのソースを目分量で入れていく。

「で、蜂蜜を少々。ここにたっぷりの黒胡椒を投入っと」

 ガリガリとミルを使って黒胡椒をたっぷりと入れて、一度味見をしてから鍋を火にかける。

 水を少しづつ足してちょっと緩めのソースを作り、一度温まったら完成だ。

「で、もう一つは甘めの出汁入りにするよ」

 これもトンカツ屋で作っていたソースだけど、こっちはご飯に合うんだよな。

 別の小鍋にトンカツソースとウスターソースを少々、それからケチャップを入れて混ぜ合わせる。

「こっちの甘味は砂糖を入れて、これを二番出汁で割っていくよ」

 少し多めにお砂糖を入れて、甘味を確認してから二番出汁を少しずつ入れながら温めていく。

「よし、いい感じにあったまったな。ううん、これをトンカツにたっぷりと絡めて刻んだキャベツとご飯でソースカツ丼でもいいなあ。もう、ビールは相当飲んでるから今日はそろそろ打ち止めにして、俺はソースカツ丼にしよう。おおい、誰かキャベツの千切りを作ってくれるか。出来るだけ細かくな」

「はあい、すぐに作りま〜す!」

 ちょうどそばにいたサクラが、一瞬で取り出した大きめのお椀にキャベツの千切りを大量に作ってくれる。

「ありがとうな。じゃあ戻ろう」

 笑ってサクラを撫でてから作ったソースを一旦収納してリビングへ戻った。



「悪いな、食べている最中に」

 皆が申し訳なさそうに謝ってくれるので、にんまりと笑った俺は作ったばかりの二種類のソースを取り出して並べた。

「こっちがさっきのスパイシーブラックソースだよ。それで、こっちはまた別のソースだ。ちょっと甘めで、これはご飯に合うんだよなあ」

 取り出したおひつと自分用の大きめのお椀を見せて、少し軽めにご飯を入れる。一応全員分のお椀も出して置いておく。

「で、ここに千切りのキャベツを並べます」

 そう言って、ご飯の上にキャベツの千切りを並べる俺を見て皆が不思議そうにしている。

「そして切ったトンカツをこのソースに沈めてからここに並べると、少し甘めのソースカツ丼の出来上がりです!」

 小さめのまな板とナイフも取り出して、大きなトンカツを一枚一口サイズに切った俺は、説明しながらお箸でトンカツをソースに潜らせてからキャベツを乗せたご飯の上に並べた。

「では、あとはお好きにどうぞ!」

 ドヤ顔の俺の言葉に、歓声を上げた全員がお椀を手にご飯をよそって、嬉々としてソースカツ丼を作り始めたのだった。

「ふふ、いつもと順序が逆になったけど、こんなふうにダラダラ飲んで食べるのもたまには良いよな。ええと、ちょっと甘めのソースカツ丼です。少しですがどうぞ」

 一応、簡易祭壇に並べて手を合わせた俺は、嬉々として現れた収めの手が俺を撫でてくれてからソースカツ丼を撫でてお椀を持ち上げる振りをしてから消えていくのを笑顔で見送ったのだった。

 それから、またしてもものすごい勢いでお椀を振り回しながらステップを踏んでいたシャムエル様にガッツリ半分入れてやってから、残りの半分をゆっくりと味わって食べたのだった。



 ううん、元が美味しいんだから、何をやってもさらに美味しくなるしかないんだよな。

 はあ、岩豚トンカツで作ったソースカツ丼、最高〜〜〜!

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