岩豚トンカツ爆誕!
「さてと、一番の心配だったニニの産室も無事に設置出来たみたいだし、あとは何をするかねえ」
部屋の隅に設置された巨大犬小屋みたいな木製の小屋の中に、ご機嫌でぎゅうぎゅう詰めになっている猫族軍団を見て笑った俺は、一つ深呼吸をしてから部屋に備え付けのキッチンへ向かった。
一応祭りの間の料理は休憩するって言っていたんだけど、岩豚の話をしていたらもう食べたくて仕方がなくなったんだよ。
って事で、今から作るのは岩豚のトンカツだよ。これは俺が食べたいから作るんだよ。
まずサクラに頼んで取り出したのは、巨大な岩豚のロースとヒレの部位。まあトンカツにするなら、やっぱりこの二つだよね。
手早く次々に材料を取り出して並べるサクラの周りに集まって、当然のように準備を始めるスライム達。
小麦粉担当、溶き卵担当、パン粉担当、そしてその前後に空のバットを持って待ち構える子達もいる。
もう、トンカツなどの揚げ物系はスライム達が完璧に作り方を覚えてくれているから、俺がするのは最初の肉を切ってもらった後の味付け部分と油で揚げる部分だけだよ。
「よし、じゃあこれで準備してくれるか」
バットに綺麗に並べられた肉の裏と表にしっかりと塩胡椒を振った俺は、待ち構えていたスライム達にまとめて渡す。これだって、俺が塩胡椒を振りかけてOKを出すと一瞬で肉の裏と面をひっくり返してくれる至れり尽くせりっぷり。おかげで俺は、塩と胡椒を振りかけているだけで生肉には一切手を触れていない。
嬉々として流れ作業で準備を始めるスライム達を眺めつつ、俺は油の準備に入る。
一番大きなフライパンをコンロに置き、菜種油と胡麻油をたっぷりと入れて火を付ける。
「ご主人、準備出来ましたよ〜〜!」
綺麗にパン粉がまぶされた岩豚のロース肉がどんどん届けられて並べられていく。
「おう、ありがとうな。じゃあ、サクラは揚げて油を切ったら冷めないうちに収納してくれよな」
「はあい、お任せください!」
コンロの反対側にある作業台へ跳ね飛んで移動したサクラが、油切り用のカゴと空の大きめのお皿を取り出してくれる。
「よし、それじゃあ揚げていくぞ」
そう言って、準備してくれたロースカツの最初の一つをゆっくりと油の中へ沈めた。
「ああ、もうこれを食べられないってなんの拷問だよ」
パチパチと素晴らしく良い音を立てて揚がったトンカツを箸で摘んで油切り用のカゴに並べながら、部屋中に香るトンカツの美味しそうな匂いに悶絶する俺だった。
ちなみに作業台の横では、シャムエル様がさっきからずっとものすごい勢いでお皿を振り回しながら高速ステップを踏み続けている。
「分かった分かった。ちょっと味見しよう。俺も食べたい」
笑ってそう言い、ちょうど油が切れたばかりの小さめのトンカツを取り出したナイフで半分に切る。
「はい、熱いから気をつけてな」
「わあい、これが本当の味見だね!」
目を輝かせたシャムエル様は、一瞬でお皿を収納して両手でトンカツを掴んだ。
「では、いっただっきま〜〜〜す!」
嬉々として宣言すると、そのまま豪快に齧り付いた。
「あはは、肉食リス再びだな」
笑った俺も指で摘んだトンカツに齧り付いた。
「熱っ!」
さすがにまだちょっと熱々すぎて、慌てて取り出した白ビールの栓を抜いて瓶ごとグイッといく。
「ぷっは〜〜〜〜! めっちゃ美味〜〜!」
おっさんみたいなため息が出たけど、これは仕方がない。何これ、めっちゃ美味しい。
中ふわふわなのにジューシーで、衣サクサク。そして口に残る濃厚な岩豚の味。
「これは、とんでもないビール泥棒だぞ。何故かもうひと瓶空いたぞ」
気付けば、持っていたビール瓶が空になっている。
そして一口だけ残った岩豚トンカツ。おかしいなあ、誰が食って飲んだんだ?
「まあいっか、じゃあ残りをガンガン揚げていこう」
にんまりと笑った俺は、空になった瓶をサクラに返して自分で収納している黒ビールを取り出した。
「じゃあ次は、黒ビールと合うかどうか確かめてみないとな」
笑ってそう言い、今度はヒレカツを揚げていく。
って事で、俺は休日の昼間っからせっせと大量のトンカツを揚げつつビールを立ち飲みするという、なんとも贅沢で楽しい時間を過ごしたのだった。
途中からはシャムエル様もグラスを取り出してビールを要求して来たので、瓶から直に飲むのはやめて、俺も自分用のグラスを取り出してトンカツを齧りつつ何度も乾杯をしていたのだった。
「おいおい、全然戻って来ないからどうしたのかと思って心配になって見にきてみたら、お前何を一人でそんな楽しそうな事しているんだよ!」
笑いつつも咎めるようなハスフェルの声に驚いて振り返ると、ハスフェルとギイの二人が揃ってキッチンを覗き込んでいたのだ。
どうやら、皆がリビングで飲んでいるのに俺だけ部屋に戻ったのを心配して、代表して様子を見に来てくれたらしい。
「ああ、お前しかもそれはもしかして岩豚のトンカツか!」
「岩豚のトンカツ〜〜〜!」
俺が何を作っているのか気付いたハスフェルとギイの悲鳴のような叫ぶ声に、俺は堪える間も無く吹き出したよ。
「おう、これは今夜の夕食にする分だよ。もう最高に美味いからな!」
胸を張って揚げたばかりのトンカツを摘んで見せてやると、二人は即座に空になったお皿を取り出して俺に向かって差し出してきた。
「ここに入れてください!」
「お願いします!」
「あはは、気持ちはわかるよ。じゃあ味見な」
笑ってそう言い、ヒレとロースのトンカツを一枚づつお皿に並べてやる。
「代わりにどうぞ!」
二人が差し出した冷えた白ビールの瓶を見て、俺も一緒になって拍手して同時に吹き出したのだった。
って事で、二人はそのままここで味見用のカツを片手に赤ワインを飲み始め、笑った俺も既に何本目か分からない冷えた白ビールでシャムエル様まで一緒になって乾杯していたのだった。
そして一通りのトンカツの仕込みを終えた俺は、待ってくれていたハスフェル達と一緒にリビングへ戻り、なんとなくダラダラと飲みながら寛いでいたリナさん一家とランドルさんの目の前にトンカツの山を取り出して拍手喝采を浴びたのだった。