産室設置完了!
「ええと、こんな感じでどうだ?」
「うん、いい感じね。すごく気に入ったわ。ありがとうねご主人」
小屋の中に入ったニニの嬉しそうな声に、安堵した俺は笑って拍手をしたのだった。
ゆっくり朝食を食べたあと、取り出した地図を見ながら今まで行った所やこれから先どこへ行きたいかなんて話をお酒を片手にのんびりと話をしていたんだけど、昼食を食べたところで俺はまた飲み始めた皆を置いて一旦リビングを後にした。
目的地はベリーに教えてもらった倉庫で、スライム達に手伝ってもらって見つけた組み立て式の小屋をひとまず俺の部屋に運ぶ。
まあ、どれくらいの大きさや広さがあるかは組み立ててみないと分からないからな。
しかし、取扱説明書があるわけでもない組み立て式の小屋……大工の経験なんて無い俺には、さすがに未知の作業だったよ。
って事でここは素直にベリーに助けを求め、ベリーの指導の元、俺とスライム達が総出で一度とにかく組み立ててみる事にした。
思ったよりも案外簡単に出来上がったその小屋は、犬小屋をそのまま巨大化したみたいな感じで扉は無く、少し屈んで入るくらいの高さの入り口にはカーテンを取り付けるタイプになっていた。
恐らくだけど、これは倉庫っていうよりも子供の遊び用の小屋って感じだ。だって、よく見ると入り口の木の切り口には全部面取りがしてあって、ぶつけても痛くないようにしてくれてあるし、屋根の端も綺麗に削って丸い細工がなされている。案外手がかかっているみたいで、ところどころに花模様の彫刻まで入っている。ううん、貴族の子供って、こんなもので遊ぶのか。すげえな。
ちなみに中には仕切りも何も無くて、ちょっとした物置なんかよりもはるかに大きくて広いガレージサイズ。なのでニニが横になってもまだ広々としている。
これなら、たとえ子猫が何匹産まれようが大丈夫だろう。よし。
安心しつつ改めて外から眺めて、これを置いてもちっとも狭く感じないこの無駄に広い部屋には、正直言ってちょっと笑っちゃったよ。
「ええと、あとは中に干し草を入れてやればいいんだな。干し草の予備って確か……厩舎の横の倉庫にガッツリ用意してもらっていたよな。じゃあ取って来るか」
ここを買った時に、裏庭にある大きな厩舎には、オンハルトの爺さんのエルクのエラフィと、ギイのブラックラプトルのデネブがいつも寝床にしていた。だけど、オンハルトの爺さんがいなくなって以降、一匹だけでは寂しいらしくデネブも大型犬くらいのサイズになって中に一緒に入って来ている。
なので、今の所厩舎はたまに来るギルドマスター達が乗ってきた馬達専用になっていたので、まだまだ干し草は山ほどあったはずだ。
「ご主人、綺麗な干し草ならアルファ達が全部持ってるよ!」
取りに行こうとしたら、驚きの報告。
「ええ、そうなんだ?」
思わずそう尋ねると、何故かスライム達が得意げに揃って伸び上がった。
「えっとね、大雪が降った時に屋根がちょっと軋むみたいな音がしていたんだって。なのでこのまま倉庫に置いておいたら水が染みて来て干し草が湿気るかもしれないってベリーが教えてくれたの。なので、安全のために全部確保しておきました!」
にょろんと触手が出て、揃って敬礼のポーズになる。
「ええと……そうなの?」
思わず背後にいたベリーを振り返ってそう尋ねる。
「ええ、雪で長期に渡って外出出来ない時には、あの干し草はラパン達の食糧にもなりますからね。スライムちゃん達の中という安全に置いておける場所があるのに、わざわざ湿気る危険のある場所に置いておく必要はありませんでしょう? まあ、一応屋根は確認しましたが、今のところヒビや破損は無いみたいですけれどね」
にっこりと笑ったベリーの答えに納得する。
確かに、草食チームの非常食でもある干し草をスライム達が保管してくれるのなら、これ以上ない安全な場所だよな。
「ええと、それじゃあここに干し草を出してくれるかな。全体に厚めに敷き詰める感じで頼むよ」
一旦ニニには出てもらって、スライム達に干し草を取り出してもらう。
「こんな感じでどうだ?」
すると、ニニはもう一度小屋の中へ入るなりご機嫌で喉を鳴らし始めた。
「うん、ここ最高ね。暖かいし薄暗いし、でもそこを開けておいて貰えばご主人も見えるしね」
どうやら気に入ったらしく、モゾモゾと干し草をかき分けていたかと思ったらその場にゴロンと寝転んで喉を鳴らしつつ干し草の塊をモミモミと前脚で揉み始めた。
これは相当気に入ってくれたみたいだ。
「良かった。それじゃあこれはもうここにこのまま設置しておくから、好きに入っててくれていいぞ」
屈んで中に入り、ご機嫌なニニをそっと撫でてやってから外に出る。
すると、小さくなっている猫族軍団の面々とセーブルが俺と入れ替わるみたいにして小屋の中へ嬉々として突撃して行ったのだ。
そしてそのまま、ニニの周りにくっついてご機嫌でこれまた喉を鳴らしたり干し草を揉み始めたりした。
「おいおい、そこはニニの産室に使うんだからな」
「わかってま〜〜す! でも、まだ良いでしょう?」
こっちを振り返ったご機嫌なティグの言葉に、他の子達も揃ってこっちに向かって声の無いニャーをしてくれる。
「あはは、まあニニが嫌がっていないならなんでもいいか」
苦笑いして小屋の中を覗き込むと、カッツェはちゃっかりとニニの隣の場所を確保していて、ご機嫌でニニを舐めてやっている真っ最中だった。仲が良くて結構だね。
「なあ、雄猫って育児には参加しないって聞くけど、リンクスはどうなんだろうな?」
以前読んだ事のある、猫の飼い方の本の内容を思い出しつつベリーに尋ねる。
「どうでしょうかね? 基本的には確かに雄は育児にはあまり参加しないはずですが、これはかなり個体差があるようですから、なんとも言えませんね」
ベリーも興味津々で仲良く舐め合っているニニとカッツェを覗き込んでいる。
「そっか、まあカッツェなら子猫を攻撃するような事はさすがにしないだろうから、これは様子見かな?」
「そうですね。他の従魔達もいますからしばらくは様子見で良いのでは? いざとなったら私もお手伝いしますよ」
にっこり笑ってそう言ってくれたベリーにお礼を言って、俺は安堵のため息を吐いたのだった。