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のんびりな休日の時間

「成る程なあ。そりゃあ朝から大騒ぎになるはずだ」

「確かに、時間を忘れていても仕方がないなあ」

 腕を組んでうんうんと頷いているハスフェルとギイの隣では、まだリナさんがキャーキャー言いながらリンクスの子供の可愛らしさを力説していたよ。

 ううん、リナさんの意外な一面を見た気がする。いつもは平然と従魔達と接しているけど、リナさんももふもふ大好きだったのか。

「おめでとうな。可愛い子を産んでくれよ」

「おめでとう。俺達からも祝福を贈らせてもらうよ」

 笑ったハスフェルとギイが、交互に手を伸ばして俺にくっついているニニを何度も撫でてくれた。

 ニニは、ご機嫌でずっとゴロゴロと喉を鳴らしていたよ。



「ちなみに、具体的にはどれくらいで産まれるものなんだ?」

 ハスフェルの質問に、思わずニニを見つめる。

「ええと、春には生まれるって聞いていたんだけど……あ! 時期によっては春の早駆け祭りに重なる可能性もあるのか。ちなみに、春の早駆け祭りって時期はいつなんだ?」

「基本的に四月の末頃だよ。ちなみに夏の早駆け祭りが七月の末頃。秋の早駆け祭りが十月の末頃だな。それぞれの月末に近い数日の間で、祭りに適した一番良き日が選ばれるんだよ」

 こっちへ来てから、あまり時間や日にちを気にしなくなっていたけど、確かに言われてみれば時期的にはそれくらいだな。

 多分この世界にも星回りとか風水的な暦の考え方とかがあって、良い日とか忌み日とかがあったりするんだろう。以前の世界のカレンダーに書いてあった、大安とか仏滅とか友引の日みたいにさ。

 そんな事を考えていると、ベリーがこっそりと念話で教えてくれた。

 リンクスの妊娠期間はだいたい三ヶ月ほど。ニニの場合、もうあと二ヶ月弱くらいで生まれるだろうって言われて、もう俺のテンションは上がり過ぎて上限がどこかへ吹っ飛んでいったよ。

 そしてベリーから教えてもらった産室用の木箱なんだけど、使えそうな組み立て式の小さな小屋みたいなのがここの倉庫にあるらしい。

 何故そんなものがあったのかはよく分からないが、使えそうならありがたいよな。ギルドに頼む前に確認しておこう。




「そう言えば思っていたんだけど、早駆け祭りが冬には無いのはどうしてなんだ? 季節毎の祭りなら、冬の祭りもあってもよさそうなものなのになあ」

 ふと思いついた単なる疑問でそう尋ねたんだが、全員から、お前何言ってるんだよ? って顔で見られてしまい考える。

「ああ、そっか。今がまさに冬のお祭りの最中じゃんか。何言ってるんだよな、俺」

 手を打ってそう呟くと、何故か全員から呆れたように笑われたよ。仕方ないじゃんか。俺はまだこの世界に来てからまだ一年にならないんだからさ!

 って、そこまで考えてちょっと本気で気が遠くなったよ。

 今までのサラリーマン生活だと、一年なんて本当にあっという間だったのに、こっちの世界へ来てからまだ一年になっていないんだよな。

 思い出してもあまりにも濃厚すぎる日々の連続に、もう十年くらい過ぎたみたいな気がするよ……。



「まあ、冬にハンプールの早駆け祭りをしないのは、長距離の移動が困難な地域が多いってのもあるんだけどな」

 俺の気配がちょっと変わったのに目敏く気付いてくれたハスフェルが、さりげなく話題を引き継いでくれる。

「確かにそうだな。ここバイゼンなんかは、雪で埋め尽くされているから冬は完全に雪で身動き取れないよな」

 気遣いに感謝しつつ、ありがたく乗っからせてもらう。

「雪に埋もれるのはここだけじゃあないぞ、バイゼンから東へと続く通称北街道。ここは文字通り冬場は雪で通行止めになる事が多いから、冬に街の間を移動するのはほとんどが物流関係者や、街道警備と整備を兼ねている軍関係者くらいだな。それ以外だと、ハンプールの西側に位置するカルーシュ山脈の辺り一帯も相当の雪が降るぞ。冬の間に大量に降り積もったカルーシュ山岳地帯の雪から流れ出る大量の雪解け水が、カデリー平原のあちこちへと流れる大小の川の水源となっていて、一大穀倉地帯であるカデリー平原を支えているんだからな」

「ああ、成る程ね。米を育てるには豊かな水が必要だからなあ。そっか、あの山からの雪解け水があの辺り一帯の水源なんだ」

「ちなみに、もう一つの主食である麦の一大穀倉地帯は、王都インブルグのあるブルグ平原の東側一帯、ルーシティの街の周辺だな。あの北側の山脈地帯も相当の雪が降るが、あのあたりにはほとんど人が住んでいないからまあ、皆気にもしていないよ。ルーシティの街から王都インブルグへと続く街道は、通称麦街道と呼ばれるくらいに、街道から見える辺り一面が見渡す限りの延々と麦畑になっているな」

「へえ、そうなんだ。稲が実っているのは見た事があるけど、麦畑は見た事がないな。収穫前の麦畑は黄金色だって聞くから、きっと綺麗なんだろうな」

 なんとなくそう呟く俺を、ハスフェル達は妙に優しい目で見つめていた。

「ん? 何だよ?」

「それなら、春と夏の早駆け祭りが終わったら、そっちへ行ってみてもいいかもな。あれは確かに一見の価値ありだぞ」

 笑ったハスフェルの言葉に、俺が持っていた地図を取り出す。

「へえ、確かにそっちへはまだ行った事が無いな。じゃあ、次に行きたい地域って事にしておこう」

 そこから、ランドルさんやリナさん達、アーケル君達がそれぞれ行った事がある地域がどこだなんて話で大いに盛り上がり、気がついたら午前中が終わっていたんだよな。

 て事でもう今日はこのままお休みにする事にして、そのまま皆で地図を見ながら、それぞれが行った事のある各地の珍しい話や美味しい料理の話を聞きながら、昼間っからのんびりとお酒とつまみを楽しんだのだった。

 まあ、たまにはこんな日があってもいいよな。

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