教えて賢者の精霊様!
「なあマックス! ニニに、ニニに子供が出来たんだってさ!」
マックスの首に抱きつきながら、じわじわと込み上げて来た嬉しさに笑いが止められない。
首を上げたマックスも、嬉しそうに鼻で鳴いて俺の体に頭突きをしてくる。
「やっと気が付いたんですね。毎晩シャムエル様と一緒に皆で笑っていたんですよ。ご主人は、一体いつになったらニニの変化に気が付くんだろうなって」
笑いながら尻尾扇風機状態でそう言われてしまい、誤魔化すように乾いた笑いをこぼすしかなかった。
確かに改めて見ると、我ながらどうして今まで気がつかなかったんだよと、自分で自分に突っ込みたくなるくらいにニニの体型が違うよ。普段は全然目立たないお腹の下側にあるおっぱいも少し膨らんできているみたいだしさ。
「あはは、やっぱりそうだよな。お前達も気が付いていたのかよ。ええ、教えてくれてもよかったのに」
「だって、ニニがご主人がいつ気付いてくれるかなって言って、すごく楽しみにしていたんですよ。それなのに、横から私達が勝手に教えたりなんて絶対に出来ませんよ」
当然だろうとばかりにそう言われてしまい、全くその通り過ぎてぐうの音も出ない俺だったよ。
「あはは、相変わらずだねえ」
マックスの頭の上にいたシャムエル様にまで笑われてしまい、マックスにしがみついたままで俺も一緒になって笑い転げていたのだった。
「ええと、じゃあ今後はニニはお城でじっとしていたほうが良いんじゃあないのか?」
さすがに猫の出産の知識は無いけれども、なんとなくおとなしくしていてもらった方が良い気がする。
「大丈夫よ。言ったでしょう、生まれるのはまだ少し先だしね」
ようやく起き上がったニニが、当たり前のようにそう言って思いっきり伸びをする。
「本当に大丈夫か? ああそうだ! なあベリー! お願いだから何か知っている事があったら教えてください! ええと、リンクスの出産で気を付ける事とかありますか!」
そうだよ。こんな時こそ賢者の精霊の知識の出番だよな。教えて賢者の精霊様!
目を輝かせて振り返った俺に、起き上がってフランマと話をしていたベリーが笑いながらこっちを振り返った。
「おやおや、ケンが私の知識を必要としてくれるなんて嬉しいですね」
からかうようなその言葉に、苦笑いしつつ頷く。
確かに、出会った時から賢者の精霊だと聞いてはいたけれども、改まって教えを請うのって初めてのような気がする。
「もちろん知っていますよ。ですが基本的には野の生き物ですから過剰な配慮は必要ありませんね。強いて言えば、部屋に安心して産める場所を作ってやるくらいですね」
「成る程。そりゃあ出産するなら安心出来る場所は必要だな。ええと、それって具体的には何をすれば良いんだ?」
「そうですねえ。その畳の部屋の半分くらいの広さがあれば充分ですから、至急ドワーフ達にお願いして産室に出来るような大きな木箱を作ってもらうのが早いと思いますね。屋根も低めにしてもらい、もぐり込めるようにすれば良いですね。明かりは必要ありませんから、ニニちゃんが出産の際にそこに入って落ち着く事の出来るような、やや狭めの薄暗い場所があれば良いですよ。その際に、床には干草を敷き詰めてあげるのが良いでしょう。それから食事についてもしっかりと栄養のあるものを食べさせる必要があります。まあ、これは今の食事量で充分ですから、これ以上ケンが何かする必要はありませんのでご安心を」
教えてくれるそれを、俺は必死になって取り出したメモとペンを使って書き出していった。
「了解だ。じゃあ今日街へ行ったらドワーフギルドに言って大至急ニニが入って寛げるくらいの大きさの木箱を作ってもらうようにお願いするよ。それで部屋の隅に置けば良いんだよな?」
無駄に広いこの部屋なら、巨大な木箱の一つや二つ置いたところで何の問題無い。
よし、じゃあこれはすぐにでも手配してもらおう。
俺が今日やる事をメモしていると、頭の中にハスフェルの笑った声が聞こえた。
『おおい、もしかしてまだ寝ているのか? もう俺達、全員起きてリビングにいるんだけどなあ』
その呼びかけで、まだ顔も洗っていなかった事に気が付いたよ。
『あはは、ごめんごめん。ちょっとバタバタしてたよ。すぐに準備するからもうちょっとだけ待っててください!』
慌ててそう返して、急いで顔を洗いに行く。
跳ね飛んできたサクラに濡れた顔や汗ばんだ体を綺麗にしてもらい、大急ぎで身支度を整える。
準備が出来た俺は、待ち構えていた従魔達を全員引き連れて、この大ニュースを皆に知らせるために早足でリビングへ向かったのだった。