じゃあ戻ろうか!
7月15日、もふむくの二巻がアーススターノベル様より発売となりました!
どうぞ皆様、よろしくお願いします!
「だあ〜〜! 待て待てマックス! ステイ!」
押し倒された挙句に、ものすごい勢いで顔中を舐められて、俺は悲鳴を上げつつマックスの頭を捕まえて必死になって叫んだ。
「ステ〜〜イ! ステイだよ〜〜〜!」
ようやく俺の声が聞こえたらしく、慌てたようにマックスが俺を離して即座に良い子座りの体勢になる。
「うわあ、すっげえ! 一言で落ち着かせたぞ」
「あれって何かの呪文か?」
「いやあ、そんな呪文聞いた事も無いぞ?」
驚いた草原エルフ三兄弟が、そんな事を行って考え込んでいる。まあ、こっちの説明は後でもいいな。
鞄から出て来てくれたサクラが、よだれまみれになっていた俺を一瞬で綺麗にしてくれる。
「はあ、ありがとうな。サクラ。マックス! 全くお前は〜〜〜! いつも言ってるだろうが。その大きな体で無茶するんじゃあないよ!」
笑いながらそう言ってマックスの大きな顔を両手で左右から捕まえて、額を突き合わせながら言い聞かせるみたいに話しかけてやる。
「うう、申し訳ありません。でも、狩りに行けると聞いて嬉しかったんだから、これは仕方がない事なんです!」
謝りながらも言い訳をしつつ、またしてもマックスの尻尾がものすごい速さで動き始めて扇風機状態になっている。
「分かった分かった。分かったから落ち着け。まあ、確かに庭には定期的に遊びに出ているけど、やっぱり郊外へ狩りに行くのとは違うもんな」
「そうですよ。雪の中の狩りは大変ですが、今は一緒に狩りをする仲間が大勢いますからとっても楽しいんです!」
「あはは、確かに犬科の狩りは猫族軍団とは違って集団戦が基本だもんな」
笑って話しかけながら掴んだ左右の頬をムニムニと握って、ふわふわの毛並みになったその素敵な触り心地を心ゆくまで堪能したのだった。
マックスは当然その間中良い子でおすわりしたまま全くの無抵抗だ。
気がすむまで揉んでやってから手を離した。
「はい終了。じゃあ戻ろうか。すっかり遅くなっちゃったよ」
すっかり日が暮れて真っ暗になった外を見ながらそう呟く。
「ううん、お城の敷地内は街灯も無いから真っ暗だぞ。帰れるか?」
思わずマックスを覗き込んでそう尋ねる。
「もちろんですよ。我らはご主人以上に夜目が効きますからね。これくらいなら普通に見えますよ!」
得意げにそう言われて、笑ってもう一回今度は大きな顔に思いっきり抱きついてやった。
「頼りにしてるよ。これからもよろしくな」
「はい、お任せください! 何があろうとも、我らがご主人をお守りしますからね!」
「ああ、よろしくな。さて、それじゃあ戻ろうか!」
振り返ってそう言うと、それぞれの従魔達とスキンシップを楽しんでいた皆も笑って顔を上げた。
取り出した鞍と手綱を手早く装着して、まずは手綱を引いて街の外まで歩いて行く。
夜になったとはいえ、まだまだそれなりに人出はあるので、出来るだけ威圧感を与えないように、一列になって道の端を歩いていく。
「はあ、それにしても早駆け祭りの英雄だってあんなに皆から言われた理由が今更だけど分かったよな。あれって絶対にあの劇団の舞台を見たか、その話題を聞いたからだよなあ」
苦笑いしつつため息を吐き、先ほどのフクシアさん達のあのものすごい喜び具合を思い出していた。
「ううん、考えてみたら、以前の俺ってこっち方面には全く興味がなかったから、多分歌劇の舞台なんて生で観るのは生まれて初めてだと思うなあ。もしかしたら子供の頃に何か観ているかもしれないけど、全然覚えていないもんなあ」
案外面白かった舞台の様子も思い出しつつ次回の演目も思い出してしまい、割と本気で気が遠くなりかけた俺だったよ。
「はあ、俺はもっとなんて言うか、平凡にのんびりと異世界を旅して回るつもりだったんだけどなあ。気がつけば従魔達はこんな大所帯になってるし、仲間達もどんどん増えているんだもんなあ。でもまあ、これも楽しいからアリだよな」
笑ってそう呟いた俺は、ようやく見えてきた貴族達の別荘地の前でマックスの背中に飛び乗った。
「さて、じゃあ帰りも雪中行軍だぞ。頑張ってくれよな」
近寄って来た大型犬サイズのセーブルにそう話しかけてやると、セーブルは俺を見上げて嬉しそうに笑って声のない鳴き真似をしてくれたよ。
時々する、このセーブルの声の無いニャー? 実はめっちゃ可愛いからすごく気に入ってるんだよな。
マックスの背の上にいるので手が届かないから、エアなでなでしておく俺だったよ。