歓喜の姉妹と今後の予定
「あの! 嬉しいのはわかりましたから、ちょっと落ち着いてくださいって!」
歓声を上げた姉妹二人に抱きつかれた挙句、ぶんぶんと揃って振り回されて冗談抜きで首が逝きそうになったので、なんとか腕を叩いて必死になって止めてもらうように叫ぶ俺。
そして、背後で大爆笑しているハスフェル達。覚えてろよお前ら。
「ああ、申し訳ありません。ちょっと嬉し過ぎて我を忘れました!」
「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか!」
焦る二人が手を離してくれたので、若干よろけつつもなんとか笑顔で大丈夫アピールをしておく。
「ええと、ちなみに何時が良いですか?」
俺は別にここで何らかの仕事をしているわけではないんだから、ここは勤め人である彼女達の予定に合わせるべきだろう。
「いえ、そちらの都合の良い時を教えていただけたら、何があろうともお休みをいただきますから!」
二人揃って握り拳を握りながら断言されちゃったよ。
「ええと、俺達はいつでも良いんですけどねえ。前日までに連絡すれば、席を用意してくれるそうですので、希望の日があればお願いしますよ」
聞いた事をそのまま伝えると、何故かまたしても歓喜の絶叫と共に、二人が揃って拍手をしている。
「ではあの、わがままを言わせていただけるなら、週末で、出来れば早い方が嬉しいのですが……」
若干上目遣いなお二人が、これまた綺麗に揃った声でそう言っている。
「了解です。じゃあ予定が決まったら連絡しますね。ええと、観光案内所とヴォルカン工房に連絡すれば良いですかね?」
「はい、いつでもお待ちしています!」
これまた綺麗に揃った声でそう答えた姉妹は、もう一度揃ってお礼を言ってくれたよ。
まあ、これは予定外の頂き物のチケットな訳で、ここまで観たがっているファンの人に観てもらえる方が俳優さん達も嬉しいだろうからな。
「それじゃあ失礼します」
「本当にありがとうございました! 連絡お待ちしています!」
嬉々とした満面の笑みで何度もお礼を言って別の道へ歩いて行った二人を見送ってから、俺は大きなため息を吐いた。
「ううん、なんと言うか……ものすごく疲れた気がするなあ。ってかお前ら! 完全に他人事だったろう!」
「いや、だって他人事だよなあ」
「だよなあ。俺達なんか完全に眼中になかったし」
「ですよねえ。いやあ面白いものを見せていただきましたよ」
「だよなあ。いやあ面白かった」
こちらも完全に野次馬状態だったリナさん一家のアーケル君とランドルさんの言葉に、俺はもう一度大きなため息を吐いた。
「だからさあ……はあ、もういいや。じゃあ早急に予定を決めて劇場に連絡を入れないとな。
苦笑いした俺はそう呟き、とにかくマックス達を迎えに冒険者ギルドへ向かったのだった。
「マックス〜〜〜皆もお待たせ! さあ、戻ろうか」
冒険者ギルドの受付に声を掛けてから、裏手にある大きな厩舎へ向かい良い子でお留守番していた従魔達を順番に撫でたり揉んだり抱きついたりしてやる。だけどこれは俺だけじゃあなくて全員がやっているから良いんだよ。
「そうだ。ねえケンさん」
巨大化したピンクジャンパーのホッパーを抱きしめたアーケル君が、不意に俺に声を掛けてくる。
「ああ、どうかしたか?」
「あの、兄さん二人も足になる従魔が欲しいそうなんですよね。この辺りって、今の時期に騎獣に出来そうなジェムモンスターっていますかねえ?」
「どうだろうなあ。俺はバイゼンへ来るの自体が初めてだからさ。それは俺じゃあなくて、こっちに聞くべきだと思うぞ」
笑ってシリウスに抱きついていたハスフェルを示してやる。
「ああ、確かに言われてみればそうですね。ええと、ハスフェルさん。どうですか?」
アーケル君の言葉に顔を上げたハスフェルが、少し考えてから頷く。
「そうだなあ。北の鉱山の辺りには狼のジェムモンスターが出るな。ただし出現率はそう多くは無い。特に冬場は鉱山警備担当のドワーフ達が定期的な狩りをしているから、今どれくらいいるかは行ってみないと分からないなあ」
「それなら、街道の南側の平原地帯にいるエルクの方が良いんじゃあないか? あれは草食だけど、強いしよく走るぞ」
横で話を聞いていたギイが、ハスフェルの腕を突きながら別の提案をしてくれる。
「エルクって、オンハルトさんが乗っていた子ですか?」
目を輝かせるオリゴー君とカルン君の言葉に、ハスフェル達が笑って頷く。
「うわあ、それは欲しい!」
さっきのフクシアさん達のように見事なシンクロ具合で叫んだ二人。まあ、こっちは本当の双子なんだけどね。
って事で、祭りが終わったらまずはフクシアさん姉妹を誘って舞台を観に行き、それが終わればオリゴー君達の騎獣確保の為狩りに出掛ける予定になったよ。
まあ、食事は俺の従魔達は大量にある弁当という名の獲物があるし、リナさん達やランドルさんも肉食の子達には定期的に巨大な肉の塊を買って与えているらしい。
だけど、せっかくだからたまには郊外へ出て思いっきり走らせたり、好きなように狩りをさせてやったりしたいもんな。
狩りに行けると聞き、尻尾扇風機状態の大興奮状態になったマックスに思い切り飛び掛かられてしまい、俺は堪える間も無く呆気なく厩舎の床に押し倒されてしまったのだった。