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姉妹との再会再び!

「ああ! ケンさん! 皆さんも!」

 冒険者ギルドまでもう少しのところで、聞き覚えのある声が聞こえて驚いて立ち止まる。

 振り返ると、そこにいたのはヴォルカン工房の発明王のフクシアさんと、観光案内所に勤務しているフクシアさんのお姉さんのファータさんだったのだ。

「ああ、また会いましたね。揃ってお出かけですか?」

 嬉しそうなフクシアさんの言葉に、俺は笑って頷く。

「ええ、今日も食事を終えて、今からマックス達を引き取りに冒険者ギルドまで行くところですよ」

 すると俺の言葉に、何故かものすごく残念そうになるフクシアさん。

 あれ、確か前回もこんな感じだったよな?

 不意にそう思った俺は、密かに首を傾げつつ何やら顔を寄せて話を始めた彼女達を眺めていた。

 そして何故か、ニヤニヤと若干不穏な笑みを浮かべつつ、俺を見ているハスフェル達。

「何だよ?」

 そう聞いても、笑っているだけで何も言わないハスフェル達。

 しばし考えて横を見ると、ランドルさんやリナさん達も似たような感じで、何故だか俺の事を揃って妙に優しい眼差しで見つめている。

 ううん、どういう事だ?



「ほら、いつもの傍若無人さは何処へ行ったのよ!」

 その時、ファータさんがいきなり笑いながらフクシアさんの背中を思いっきり叩いたのだ。

 おお、なかなかにいい音がしたぞ。あれは痛い。

 予想通りに悶絶していたフクシアさんだったけど、叩いた方のファータさんは笑って平然としている。

「あの、えっと……その」

 フクシアさんが何やらモゴモゴと言いたそうにしている。

「どうかしましたか?」

 別に急いでいるわけではないし、一応気を使って少し近寄って優しめの声でそう尋ねてみる。

「あ、あの、ケンさんは、夕食は何処で食べたんですか? その、私達は今から食事なんです。それで何処へ行こうかなって話していたところなので……」

「ああ、だけど今から行っても入れないと思いますよ。俺達は今夜は頂き物のチケットで、食事をしながら舞台を観て来たんです」

 すると、目を見開いた二人は同時にものすごい勢いで身を乗り出してきた。

「ちょっ、近い近い!」

 しかも二人から左右の腕を掴まれて顔面ギリギリまで迫ってこられてしまい、咄嗟に仰反る俺。イナバウアー再び……。

「それってそれってもしかして風と大河のヴェナート様の舞台ですよね観に行かれたんですか!」

 ひと息にそう叫んだフクシアさんの言葉に、なんとか体を戻して二歩下がった俺は苦笑いしつつ頷く。

 後ろで吹き出して大笑いしているハスフェル達。お前ら覚えてろよ。

「なかなか面白かったですよ。まあ、知らずに観に行ったので、演目を聞いてびっくりしましたけどね」

 さりげなくそうう言いつつ、掴まれている腕をゆっくりと剥がす。

 どうやら二人とも無意識の行動だったみたいで、慌てて離してくれたよ。

「ええ、あの有名な劇団の舞台をご存じなかったんですか!」

「ご自分の事なのに〜〜〜!」

 これまた綺麗に揃った叫び声に、またしても仰反る俺。そろそろ、背中が痛くなってきたよ。

「いや、そんな舞台をやっていた事自体ついさっき知りましたよ。ちなみに、祭りが終わったら今度は秋の早駆け祭り編があるらしいですね」

 また二歩下がって顔の前を両手でこっそりガードしつつ、誤魔化すようにそう言ってまた一歩下がる。

「ああ、観たかったのに〜〜〜!」

「思い出させないでください!」

 そして何故かまたしてもそう叫んで天を仰ぐお二人。

「ええ、観たかったって、どういう事ですか? まだここでは上演していませんよね?」

 驚いてそう尋ねると、二人は揃って大きなため息を吐いた。

 何このシンクロ率、もしかしてこの二人って実は双子っすか?

「二人揃ってチケット発売初日の早朝から並んで抽選会に参加したんですけど、抽選の結果は散々だったんです。全部で二十も申し込んだのに、一つも当たらなかったんですよ。幾らなんでも酷いと思いませんか!」

 フクシアさんに涙目で訴えられてしまい、ドン引きする俺。

「ええ、あれってそんなに人気のチケットだったんですか?」

 驚く俺に、拳を握った二人が交互に説明してくれた話をまとめると、ここバイゼンでは約半月ほど前からあの劇団の上演が始まっていて、彼女達は最初のチケットの抽選会から毎回参加していて、少し前に一回だけ当たったらしい。

 それで、今回俺達が観た舞台を彼女達も観たらしい。それでその結果……あの主役の俳優さんの大ファンになっちゃったらしい。

「で、今度の舞台もチケット争奪戦に参加したけど、くじ運が無くて一枚もチケットを取れなかった。って事ですか」

「残念だし、悔しいですけど仕方がありません。また次回のチケット発売に頑張って戦います!」

 揃って雄々しく宣言されてしまい、もう笑うしかないよ。



『なあ、彼女達も呼んでやってもいいかな? ギルドマスターには、また岩豚をご馳走するからさ』

 ここまで聞いて、ああそうですかとスルーするほど不人情じゃあないよ。

『いいんじゃあないか? 俺もここまで聞いて無視出来るほど酷い奴じゃあないって』

 笑ったハスフェルの返事に、ギイも笑って頷いている。

『おう、じゃあ言ってみるよ』

 そう念話で返した俺は、一つ深呼吸をしてからお二人にこう話しかけた。

「じゃあ、せっかくだから今度の上演をご一緒しませんか? その、次回上演分の頂き物のチケットがあるんですよね。しかも特別席で」

 収納しておいたあの封筒を見せると、彼女達はポカンと口を開けて呆然としたまま数回瞬きをして、それから揃って歓声を上げて飛び跳ねたのだった。

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「ああ、今夜こっちの道を通って来てよかった! ありがとうございます〜〜〜〜!」

「いや、あの、そこまで、喜んで、もらえるとは……あはは……」

 またしても左右から腕を掴まれそのまま歓声を上げた二人に抱きつかれてしまい、その間完全に無抵抗状態で硬直していた俺だったよ。

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