招待状と新たなる演目
「いやあ、楽しかったねえ。また観に来たいな!」
デザートを平らげ、大満足で店を後にした俺達はマックス達を引き取りに冒険者ギルドへ向かっていた。
ちなみに俺を含めて全員がお腹が一杯だったみたいで、腹ごなしを兼ねてのんびりと歩いているところだよ。
「確かに楽しかったなあ。俺もミュージュカルの舞台なんて観たのは初めてだけど、また来たいと思ったもんな」
「いいねえ、是非お願いします!」
俺の右肩の上で器用に一回転して見せたシャムエル様は、尻尾でバランスをとりつつキメのポーズまでしてから笑ってそう言って手を叩いていた。
「だけどあの舞台って、確か大人気でなかなか予約が取れないって言ってなかったっけ?」
「ああ、そんな事言っていたね。だけどそこは早駆け祭りの英雄殿なんだから頑張ってくれたまえ!」
「シャムエル様、無茶振りが過ぎます!」
笑って胸を張るシャムエル様の言葉に、思わず真顔で突っ込んだ俺だったよ。
「だけどまあ、いざとなったら岩豚をもう一回ご馳走するからって言って、ギルドマスターにチケットの確保をお願いしてもいいかもな」
歩きながら小さな声でそう呟くと、何故か後ろを歩いていたハスフェルとギイが揃って笑っている。
「うん? 今の何処に笑う要素があったんだ?」
面白がるようなその言葉に驚いて振り返ると、ハスフェルが封筒を差し出している。
「さっき店を出る時にスタッフさんが渡してくれた。これはお前さん宛だそうだよ」
驚きつつもその封筒を受け取ると、ギイとランドルさんも同じ封筒を取り出して見せてくれた。そしてハスフェルの手にも、俺に渡した分以外にもう一通の封筒がある。って事はあれはハスフェルの分だな。
「あれ、俺達だけ? ああそっか。前回と今回の早駆け祭りに参加した人限定って事か」
納得してそう呟くと、笑ったハスフェルが自分の封筒を見ながら教えてくれた。
「この祭り期間が終わると、次の新たな演目に変更になるらしいので、それの招待状なんだとさ。日付の指定は無いから、前日までに店に希望の日の連絡を入れれば特別席を用意してくれるそうだ。それぞれ二名まで同行者も一緒に入れるチケットらしいから、リナさん達も全員一緒に入れるな。なんなら今回のお礼にギルドマスター達も招待してやれ。ちなみにこのチケットは、主役のヴェナート本人と劇団風と大河の連名での招待状だよ」
「ええ、そうなんだ。じゃあ是非とも観に行かないとな」
封筒を眺めながらそう呟くと、何故か二人から妙に優しい目で見られている。
「ん? 何だよ?」
意味が分からなくてそう尋ねると、ニンマリと笑ったハスフェルとギイから爆弾発言を頂きました。
「なんでも、今回の演目はここへ来る前には王都を始め、川沿いの街で順番に上演していたらしいんだけど、とにかく何処でも大好評だったらしくて即座に続編が作られたらしい」
「って事で劇団風と大河の最新作は、秋の早駆け祭りの英雄達編! だそうだぞ」
その言葉に、二人揃って同時に思いっきり吹き出した俺とランドルさん。そしてその隣では俺達の会話を聞いて、自分達も一緒に観られると知って、大喜びで手を叩いて大爆笑しているリナさん一家だったよ。
ちなみに、俺の右肩ではシャムエル様も新作の上演があると知って大はしゃぎで飛び跳ねて大喜びしていた。
うん、嬉しいのは分かったからさ。落っこちたら大変だから、出来たら俺の肩の上で飛び跳ねるのはやめてもらえるかなあ。
そんな事を考えつつ、まさかの第二弾の上演があると聞いて、もうこれ以上ないくらいの遠い目になる俺だったよ。
成る程、ハンプールからこんなに遠い街にまで早駆け祭りの英雄の名前が聞こえていたのは、これが理由だったわけか。
俺だけ実名って辺りも、絶対ギルドマスター達の仕込みが入っていそうだよな。