歓喜のシャムエル様
「はい、でっきあっがり〜〜〜!」
妙な節回しでそう言ったおっさんは満面の笑みで、お金と引き換えに、おっさんにも俺にも似つかわしくないくらいに可愛らしくラッピングされたチョコバナナを渡してくれた。
まあ、お値段は屋台の品物にしてはかなりお高めだったけど、別にそこはいい。しかし、この周囲の生ぬるい視線をどうにかしてくれ!
これは俺のじゃあ無いんだ! 頼まれものなんだよ!
内心で必死になってそう叫びつつ、割と本気で遠い目になった俺は、とりあえず渡されたそれをそのまま一瞬で収納してから早々にチョコバナナの屋台を後にした。
まあ俺の後に女性五人組がこれまたものすごいのを頼んでいたから、周囲のお客の視線はすぐにそっちへ向いたんだけどね。
はあ、助かった……。
とりあえず自分用に作ってもらった方を齧りながら、また皆でのんびりと屋台を冷やかしながら歩いた。
この通りは、食べ物だけでなく、くじ引きや的当て、金魚っぽい小さな魚を葉っぱですくっている屋台まであってちょっと笑ったよ。
それ以外にも、いかにも手作りのアクセサリーっぽいのや、古着屋まであってなかなか面白かったよ。
それ以外にも研ぎ屋さんとか金物屋さんみたいなのまであって見ていて飽きなかったよ。
「ああ、普通の屋台じゃないパン屋さん発見。でも今日はチョコバナナがあればタマゴサンドは……」
『もちろんタマゴサンドもお願いします!』
まあ予想はしていたけど、慌てたように即座に頭の中に響くシャムエル様の叫び声にちょっと笑ったよ。本当にどれだけタマゴサンドが好きなんだよって。
『はいはい、そんな慌てなくてもちゃんと持って行くよ』
苦笑いして念話でそう返した俺は、食べかけのチョコバナナを一旦収納してから見つけたパン屋さんに入って、タマゴサンドをガッツリ購入した。
当然差し入れ用は別に包んでもらったよ。
「お待たせ。じゃあ行こうか」
店の外で待っていてくれた皆にお礼を言って、またチョコバナナを食べながら神殿目指して歩く。
時折漏れ聞こえる周囲の声を聞いていると、どうやら雪像の人気投票にかなり変動があったらしく大番狂わせが起こっているらしい。
「へえ、そんなのがいるのなら、頑張って自分のに投票しないとな」
笑ってそんな話をしつつ、神殿に到着したので皆には外で待っていてもらって俺だけ中へ入る。
「お待たせしました。今日の差し入れです」
一応蝋燭だけ買って祭壇の前にある燭台に火をつけて立ててから、祭壇に軽く手を合わせてお参りしておく。
それから祭壇横のお供物が大量に積み上がっている場所へ行き、できるだけすみっこの方に持ってきたタマゴサンドの包みと超可愛くラッピングされた激甘超ゴージャスデラックスバージョンのチョコバナナを置く。
「ふおお〜〜〜! 待っていたんだよ! まずはタマゴサンド〜〜〜!」
唐突に目の前に現れたシャムエル様は、果物の入った大きなカゴの後ろでタマゴサンドの包みを引っ掴んで開けると、一つ取り出して早速かじり始めた。尻尾はいつもの三倍サイズになって振り回しているからカゴに当たってバタンバタン音がしている。大丈夫か、おい。
だけど周りにいる参拝客達は全然気づいていない。本当にどうなっているんだろうな、これ。
「まあいいや。お勤めお疲れ様。それじゃあ頑張ってな」
笑いながらそう言って、手を伸ばしてこっそり尻尾を突っついておく。ううん、相変わらず素敵な尻尾ですねえ。
「はあい、差し入れありがとうね! また何かいいの見つけたら確保してください! よろしくで〜〜す!」
ご機嫌で小さな手を振るシャムエル様に、俺もこっそりと手を振り返してから祭壇を見上げた。
ここからだと、巨大な竜の彫像をほぼ横から見る形になる。
その竜の頭の上に小人のシュレムが座っていて、俺の視線に気付いたのか、こっちを振り返ってにっこり笑って手を振ったんだよ。
成る程、シャムエル様が祭壇にいない時は、彼が留守番役をしているわけか。
「お疲れ様、シュレムに差し入れは……ああ、食べないって言ってたな。残念」
『お気遣いいただき感謝するよ。その気持ちだけで充分さ』
シュレムの念話が届いて俺も笑顔になる。
『そっか。じゃあシャムエル様のお守りをよろしくな』
そう返してやると、竜の頭の上で手を叩きながら大爆笑していたよ。
「お待たせ、それじゃあ行こうか」
神殿を出たところで待ってくれていたハスフェル達と合流して、そのまま雪像が展示してある広場へ向かった。
さて、いよいよ溜まりに溜まった投票券を使うぞ!
全部自分の雪像にガッツリ投票するんだからな!
ちょっとワクワクしながら、俺達は揃ってのんびりと歩いていたのだった。