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街へ到着〜!

「おお、今日も相変わらず寒いけど人の出は多いな」

 貴族の別荘地を抜けて街の中へ入った途端、一気に人が増えて道一杯に広がっている。街の中も道は綺麗に雪かきされているので、特に問題なく歩く事が出来るよ。

 まあ時々、俺達の従魔を見て逃げ出す人や逆に目を輝かせて駆け寄ってくる人、それからハンプールの英雄だって声まで聞こえて来てもう笑うしかない俺だったよ。

 距離的にはめっちゃ離れているこんな街にまでハンプールの早駆け祭りの話題が聞こえて来るって、冷静に考えたら凄い事だよな。ネットも電話も無いこの世界だと、情報源は実際に行って見た人が話した口コミくらいしか無いはずなんだけどなあ。



「ええと、まずは冒険者ギルドへ顔を出すか。祭りの期間中ってまだ寄付の受付もやっているんだろ? せっかくだからもうちょい投票券を貰っていこうぜ」

 広い大通りを歩きながら何となくそう呟くと、すぐ後ろを歩いていたハスフェルが頷きながら答えてくれた。

「ああ、人様の役に立つわけだし良いんじゃあないか。それじゃあそれが終わったらそのまま神殿へ行って、それから雪像を見に行くか」

「え、神殿?」

 意外な言葉に思わずそう聞くと、ハスフェルの後ろにいたランドルさんからものすごく驚いた顔で見られた。

「え? 行かないんですか?」

「だって、お祭り期間中は行くっておっしゃっていましたよね?」

 ランドルさんだけでなくアーケル君達にまで驚いてそう言われてしまい、苦笑いした俺は慌てて頷く。

「も、もちろん、構わないなら行かせてもらうよ。ええと、じゃあ皆はまた何処かで待っててもらえるかな」

 まさか、もう今日のシャムエル様へのお供えは終わってるから行かなくてもいいとは言えず、誤魔化すように笑って結局行く事にした。

『わあい、それならタマゴサンドをお願いしま〜〜〜す!』

 突然頭の中に聞こえたシャムエル様の嬉々とした叫び声に、俺は堪える間も無く吹き出してしまい、もう一回誤魔化すみたいに咳き込んでみせた。

「だっ、大丈夫ですか?」

 突然咳き込んだ俺に驚いたランドルさんとアーケル君が慌てたようにそう叫んで俺の背中をさすってくれる。

 まあ、胸当てをしているからあんまり意味はないんだけどさ。

「あはは、ごめんごめん。ちょっと何かむせたみたい。ちょっと失礼」

 誤魔化すように笑いながらそう言って、鞄に入ったサクラから水筒を取り出して水を飲んでおいた。

『もう、びっくりさせないでくれよな。朝昼兼用になったけど、たまご粥と具沢山雑炊をしっかり食っていたんじゃあないのか?』

 落ち着いてから、改めて念話でシャムエル様に話しかける。当然だけどトークルーム全開状態だからハスフェルとギイには聞こえているよ。

『だって、せっかく来てくれるんだからやっぱりお供えして欲しいかなって思ったんだけど……駄目?』

 すごく残念そうにそう言われてしまったら、断れないよな。一応、これって神様の思し召しな訳だし。

『了解。じゃあ神殿へ行く途中のパン屋で探してみるよ』

『期待してお待ちしてま〜〜す!』

 俺の言葉にシャムエル様は大喜びでそう言うと、唐突にその気配が切れてしまった。

 何となくハスフェル達と顔を見合わせて苦笑いした俺達だったよ。相変わらずマイペースなお方だねえ。



「じゃあ、順番にお供えを探しがてらのんびり行くとするか。それなら従魔達はまた、ギルドの厩舎でお留守番だな」

 何となく勢いで全員揃って出かけたけれど、よく考えたら従魔達はお城で留守番していて貰っても良かったんだよな。特に寒いところが苦手な鱗チームには悪い事をした気がする。

 鞄の中だって絶対寒いよな。

 さすがに凍死する事はないだろうけれども、絶対寒さに震えていそうだ。

 慌てて鞄の中を覗き込むと、なんとスライム達がイグアナ達とセルパンをその体で包み込んでいたんだよ。顔だけは外に出ているから窒息する心配もなさそうだ。

「へえ、もしかしてそれって暖かいのか?」

 思わず鞄の中に向かってそう話しかける。

「そうですね。炬燵の中ほど暖かくはないですが、充分に暖かいですよ」

 いつものサイズよりもさらに一回り小さくなったセルパンが、顔をこっちへ向けて嬉しそうにそう教えてくれる。

 確かにスライムの中なら、外にいるよりは暖かいだろう。

 元々セルパンはニニの首輪に巻き付いている事が多かったので、多少の寒さは大丈夫みたいだ。まあその辺りは、俺の知る普通の蛇とは違うみたいだからな。

「そっか、それなら良かったよ」

 笑って鞄の中へ手を入れて、順番に小さくなっている頭を撫でてやった。



 それから改めて鞄を背負い直して時々良さそうな屋台があれば買い食いなどしつつ、まずは冒険者ギルドへ立ち寄って従魔達を預けてから、寄付金を受け付けている窓口へ並んだ。

 額に応じて投票券がもらえると聞いて、俺とハスフェルとギイの三人がそれぞれに金貨の入った袋を取り出して渡したら、受付をしていたスタッフさんにマジで驚かれた後にめちゃくちゃ感謝された。

 これだけあれば、雪の重みで一部が倒壊してしまった孤児院の屋根の補修工事が出来ると涙ぐみながら言われてしまい、思わずもう一袋取り出したよ。

 こ、これは断じて投票券欲しさの為じゃあないぞ。孤児院の子供達の為なんだからさ!

 ちなみにもう一列あった隣の寄付の受付を見ると、リナさん一家も揃って大量の金貨の入った袋とジェムを取り出していたから、笑っちゃったね。

 だけど俺の収納に、塩漬けしている資金がどれだけあるか知ってる? 実を言うと、全額だとどれくらいになるのか、俺も正確には知らなかったりするんだけどさ。

 それに、結局手付かずのままになっている、シルヴァ達からもらった金貨だけでもどれだけあるか……。

 うん、世間様のお役に立つんだから、ここはもう一袋出しておこう。当然、それを見たハスフェルとギイも金貨の袋を取り出す。

 その結果、リナさん達までが追加の金貨の袋を取り出したもんだから、ギルドマスターまで出てきて総出で感謝されたよ。

 そして、それぞれものすごい量の投票券の束をもらい、冒険者ギルドを後にしたのだった。

 何だろう、良い事をしたはずなのに、この後ろめたい思いは……?

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