ブラッシングの前に色々と準備だ!
「おお、広い広い。よし、ここでなら各自の従魔達のブラッシングをまとめてしても大丈夫なくらいの場所はありそうだな」
がらんとした何も置かれていない広い部屋を見渡して、俺は満足そうにそう言って笑った。
食事の後、皆で相談して早速従魔達のブラッシングをしてみようって事になった。だけど、リビングは確かに広いんだが正直幾らなのか考えたくないくらいに高そうな分厚い絨毯が敷いてあるし、幾つか邪魔になりそうなくらいの大きな家具もある。なので、ブラッシングは別の部屋でやる事にした。
まあ、有り難い事にこのお城には広い部屋がもういくつあるのか数える気も失せるくらいにある。現状、使っている部屋の方が遥かに少ないんだからな。
って事で相談の結果、ハスフェル達が見つけたダンスホールと勝手に呼んでいる天井も高くて家具の置かれていない板の間のだだっ広い部屋を使う事にしたのだ。
頭上に垂れ下がった巨大なシャンデリアを見るに、ここがダンスホールだったというのはあながち間違っていないのかもしれない。
ちなみにここにも扉で繋がった広い部屋があり、そこには相当大きなキッチンと、当然だがこちらもかなり大きな水場が併設されていた。
多分、ダンスホールを主人とお客達が使う時にスタッフ達が飲食を提供する為の部屋なのだろう。
リナさん達は、この広い部屋には大抵あるキッチン付きの小部屋の事をメイド部屋と呼んでるみたいだ。なるほど、確かにそれっぽい。
まあ、うちにはメイドさんはいませんけどね。
ううん、メイドさんってどこかに頼めば雇ったりできるのかなあ……?
などと馬鹿な事を考えつつ、とりあえず広いダンスホールの真ん中へ集まる。従魔達は、揃って期待に満ち満ちた目で俺達を見つめている。
「じゃあ、皆待ち構えているみたいだから、早速始めるか。ええと、体を拭くタオルがいるなあ」
タオルと言っても、以前の俺の世界にあったみたいなふわふわしたタオルではなく、手拭いみたいな綿や麻っぽいただの布だ。
メイド部屋へ行って戸棚を片っ端から開けていくと、予想通りに綺麗に畳まれた布の束が大量に押し込められていた。
一応、ここのリフォーム工事をした際に、俺があまり持っていない、だけど生活する上で必要であろう最低限のものを一通り揃えておいてもらうように頼んでおいたんだよ。そのおかげで、布のたぐいは不自由しないくらいにあちこちにあるんだよな。
遠慮なく布の束を取り出し、できるだけ大きいのを持っていく。
全員に順番に半分渡して、残りは水槽にぶっ込んで濡らしておき、スライム達に絞ってから配ってもらった。
「よし、それじゃあまずは大きい子達からだな!」
濡れた布を手にした俺は、まずはマックスの側へ行った。
良い子座りしていたマックスが、尻尾を扇風機にしつつ立ち上がる。
「よし、一番はマックスだ! まずは軽く全身を拭きますよ〜〜!」
濡れた布を広げてマックスの横っ腹の辺りをゴシゴシと拭いてやる。
マックスは、普段よりも両足を広めに構えて必死で踏ん張ってくれている。
「うわあ、やっぱり汚れてるなあ。サクラ、綺麗にしてくださ〜〜い!」
笑って汚れた布を渡すと、サクラはぺろっとそれを飲み込んですぐに吐き出してくれた。
付いていた毛も汚れも全く残っていない完璧な状態だ。
まあ、水分まで全部取られちゃったのはご愛嬌だな。
苦笑いして、メイド部屋へ向かおうとしたら、アクアがポーンと跳ねて俺の手から布を引ったくった。
「さっきみたいに濡らしてくればいいんだよね!」
そう言って、開けっぱなしだったメイド部屋へ飛び込み、すぐに戻ってきた。
「はい、どうぞ!」
差し出されたのは、しっかりと絞られた、だけど拭く程度には水気を残した布だった。
「あはは、最高だな。じゃあ汚れたら交代で綺麗にして濡らして来てくれるか?」
「はあい! じゃあ他の子達にも教えま〜〜す!」
そう言って次々に他の子達にくっついてモゴモゴし始める。
「おお、うちのスライム達は相変わらず優秀だねえ」
感心して見ていると、俺のスライム達が全員雑巾搾りを習得したところで、メタルスライム達が部屋にいる他の皆のスライム達ともくっついてモゴモゴし始めた。
まあ、あれくらいならリナさん一家やランドルさんが連れているスライム達に教えても問題ないと判断したのだろう。
彼らのスライム達には洗浄や浄化の能力は無いから、あまり無茶なことはさせられない。
あいつらなりに色々考えながら教えているみたいだ。
まあ、料理をするのは俺だけみたいだから、下拵えは教えてないみたいだけどさ。
笑ってモゴモゴしているスライム達を皆で眺めて和みつつ、今度はマックスの腹側もしっかり拭いてやる。
それが終われば、巨大デッキブラシを取り出して伏せをしてもらったマックスの背中側からブラシを始めた。
「うわあ、めっちゃ抜ける! まだ寒いのにこんなに毛が抜けて大丈夫なのか?」
デッキブラシでまずは毛並みを整えた俺は、手持ちの大きな家畜用のブラシで立ち上がったマックスの横っ腹をブラシし始めた。
しかしこれがとんでもない事になったよ。軽く擦っているだけなのにめっちゃ抜ける。そりゃあもう笑えるくらいに抜ける。大量に出た抜け毛で布団が作れるんじゃね? ってくらいに、マジで抜ける。
だけど当のマックスは気持ちが良いらしく、ご機嫌で鼻で鳴きつつ尻尾扇風機状態だ。
腹側も手を突っ込んでブラシしてやり、当然こちらも大量に抜けたよ。
もう、マックス一匹をブラシしただけで笑いが出るくらいに大量に抜けたよ。
まあ抜け毛はスライム達がせっせと食べて処理してくれるので、途中からは集めるのもやめて地面にどんどん落としていったよ。
そしてマックス一匹が終わった時点で、俺の腕は既に疲れ始めている……。
しかし、次は自分だとばかりに目を輝かせて待ち構えているニニとカッツェ。
うん、ゆっくりやろう。そして駄目なら明日も引き続きブラッシングデーだな。
自分の従魔達の数を思い出して、ちょっと気が遠くなった俺だったよ。
でもまあ、ニニとカッツェが終われば、あとの子達は皆ジェムモンスターなんだから、ブラシの時には小さくなって貰えばかなり楽だろうからな……多分。
サクラが渡してくれた濡らした布を受け取り、それを広げて歓声を上げてニニに飛びかかっていった俺だったよ。
まあ、これはスキンシップも兼ねているんだから、焦らず順番にブラシしてやればいいよな?