昼食は新メニュー!
「お待たせ!」
無事にシャムエル様に今日の差し入れのタマゴサンドを届けた俺は、従魔達と一緒に待ってくれていた皆のところへ大急ぎで戻って行った。
「おかえりなさい。それじゃあ行きましょうか」
笑顔のアーケル君達の案内で、そのまま広場から別の道へ入って行く。
マックスの手綱を持って、俺はのんびりとまだまだ多い人並みをぼんやりと眺めながらアーケル君達のあとをついていった。
「なあ、ちょっと思ったんだけど……こんな従魔達を引き連れて店へ行ったら迷惑じゃあないか?」
まあ、店によっては従魔達を預かってくれる広い厩舎のある店もあるけど、それにしてもこの従魔達の数は多すぎる気がする。そもそも、そんな店はごく少数だ。
普通の店の厩舎は、お客が乗ってきた馬を一時的に置いておく程度だもんな。
「ああ、大丈夫ですよ。今日は買ってそのまま持って帰りますから。だって、早く帰って、従魔達にブラシをしてやりたいじゃあないですか」
にっこり笑ったアーケル君の言葉に納得した。
テイクアウトか。それなら何とかなるだろう。それに、せっかく買ったブラシだから確かに早くやってあげたい気もある。
どうやら皆同じ事を考えていたみたいなので昼食はテイクアウトになったらしい。成る程。
しばらく歩いて、一軒の妙に可愛らしい店に到着した。
「ここは、母さんのお気に入りの店なんですよ。でも、きっとケンさんも気に入ると思うな」
何やら得意げな様子でそう言われて、俺はマックスから少し離れてその店を覗きに行った。
「おお、クレープ屋さんじゃないか!」
そこは確かにリナさんにピッタリそうな、甘い香りが漂うクレープ屋さんだった。
ええ、だけどここは肉大好きハスフェル達には絶対物足りないメニューだと思うんだけどなあ……。
などと考えつつ、店先に置かれた大きな手書きのメニューボードらしきものを覗き込んだ。
「あはは、これなら確かにハスフェル達でも大丈夫だな。しかも俺も嬉しい!」
書かれたそれを見て、思わずそう言って吹き出したよ。
小さな文字でぎっしりと書かれたメニューは三列に分かれていて、右から甘いクレープバージョン、野菜と鶏肉メインのヘルシーサラダクレープバージョン、そして他よりは若干少ない品数だが左の列に書かれていたのは、燻製肉や焼いた豚肉や牛肉などを豪快に挟んだ、食事用のガッツリ肉入りクレープバージョンだったのだ。
「ご希望のものがあれば言ってくださいね。なんでも良ければ、俺達が責任を持って注文しますからお任せください! ちなみに、今回はハスフェルさんとギイさん、それからランドルさんの三人の奢りです!」
「ええ、ありがとうございます! じゃあ俺は、サラダメニューを中心に、色々食べたいです!」
あのガッツリ肉入りクレープは、多分ひとつ食べたらお腹いっぱいになりそうだ。だけどせっかくだから色々食べてみたいから、ヘルシーメニューなら大丈夫だろう……多分。
「ケンさんはそう言うと思ってました。じゃあちょっと待っててくださいね!」
そう言って、アーケル君達三人が嬉々としてクレープ屋さんへ突撃していった。
ううん、この人数分の注文だと、一気にかなりの数の注文になるんじゃあないかな。
ごめんよスタッフさん、頑張って作ってください。
パン屋さんなどと違って、クレープは作り置きが出来ない。クレープそのものは焼いて置く事は出来なくはないが、具を入れて巻くのはその場でやらないと駄目だもんな。
一気に大量の注文が来て大混乱する店の厨房を思って、俺は密かに謝って手を合わせておいたのだった。
だけど、俺の予想よりもかなり早くアーケル君達が戻って来た。
「お待たせしました! じゃあ戻りましょう」
こんなに早く戻って来たけど、大丈夫なのか?
彼らは大容量の収納袋持ちだから、どれくらい買ったのかは分からないけど、まあ、普段のハスフェル達の食べる量を知っている彼らが、昼食とはいえ少量で済ませるなんて事は無かろう。ってか、そもそもアーケル君達もめっちゃ食べるもんな。このメンバーだと、俺が一番の少食扱いなんだからさ。
若干遠い目になりつつ、いざとなったら手持ちの買い置きを出すつもりでそのままのんびりとお城へ戻った。
もちろん、途中からはマックスに乗って帰ったよ。
明るいうちに走れるのが嬉しかったみたいで、アッカー城壁を通り抜けたあとは、全員揃って全力疾走の駆けっこ状態になり、あっという間にお城へ到着したのだった。
「いくらなんでも、これは買いすぎじゃね?」
リビングに集まり、さあ食べようとなってアーケル君達が買ってきてくれた大量のクレープを取り出しているのを見て、俺は思わずそう呟いた。
間違いなく店の全メニュー制覇している。しかも数十個単位で。
これだけの量をあの短時間で作ったあの店のスタッフさん達、何人いるのか知らないけど、めっちゃ優秀だと思うぞ……。
俺が出した大量の大皿には、三列書かれていたスイーツ、サラダ、ガッツリ肉! の、それぞれのバージョンのクレープが豪快に積み上がっていた。
ガッツリ肉メニューは、どうやら具材を四角に包んであるみたいだ。
ヘルシーサラダタイプとスイーツは、主によくある三角の形にたたまれているけど、いくつかは四角く包んであるのもあった。
「一応、スイーツは後にしますね」
笑ったアーケル君が、スイーツバージョンのクレープが乗ったお皿を下げて収納する。だけど聞いてみたら今出した以外にも全種類がまだまだ大量にあるらしい。
ううん、あれって間違いなくシャムエル様が食べたがりそうだから、こっそりいくつか収納しておこう。
って言うか、場所は分かったから今度行っていろいろ買い込んでおこう。買い置きのバリエーションが増えていいもんな。
などと考えていると、スイーツが下げられた場所に、またガッツリ肉バージョンとヘルシーサラダバージョンが大量に投下された。
「ああ、しまった! 飲み物が無い!」
慌てたアーケル君の叫ぶ声を聞いた俺は、笑って作り置きのコーヒーや買い置きのジュースを大量に取り出してやったのだった。
って事で、にっこりと笑いあった俺達は、それぞれ自分のお皿に好きなだけクレープを取っていったのだった。