夕食と探し物の相談
「よし、こんなもんかな」
ぐつぐつと煮えたぎっている土鍋をミトンで掴んで収納した俺は、残りの野菜と肉のお皿もまとめて収納してからリビングへ戻った。
「出来たよ。よしよし、全員起きてるな」
若干寝ぼけ眼のアーケル君達が席について手を振っているのを見て、笑いながらそう言ってコンロを取り出す。
「今夜は鍋にしてみたよ。出汁に味がついているから、そのままでどうぞ。味を変えるならポン酢もあるから好きに使ってくれ」
師匠特製のポン酢も一応出しておき、大きな土鍋をコンロの上に取り出すと、何故か拍手が起こった。
「追加の肉と野菜はこれ。あとは好きに食え。以上!」
笑った俺の言葉の後、お椀を手にした全員が鍋の周りに集まる。
俺ももちろん、大きめのお椀を手に突撃して争奪戦に参加したよ。
「間に合った〜〜〜!」
ちょうど俺が山盛りに確保したお椀を手に席へ戻ってきたタイミングで、唐突に机の上にシャムエル様がそう叫びながら現れた。
まるでヘッドスライディングみたいに、ズサー! って感じで現れたシャムエル様は、慌てて立ち上がると一瞬でお椀を取り出してその場でステップを踏み始めた。
「あ、じ、み! あ、じ、み! あ〜〜〜〜〜〜〜っじみ! 今夜のメニューは、お、な、べ!」
若干いつもと違う味見ダンスだけど、当然のようにカリディアがすっ飛んで来て迷いなく一緒に踊り始める。
嬉々として、お椀を二人がかりで持って見事な左右対称のシンクロダンスを披露している。
最後は、シャムエル様がお椀を手にまるでスケーターみたいにクルクルと見事な大回転を披露してポーズを決め、それが終わってから今度はカリディアがこれまた見事な大回転を披露した。
「お見事。よくそんなに回転して目が回らないもんだな」
笑った俺は、そう言いながらお椀を受け取り自分のところから一通り入れてやる。
カリディアには、茹でる前のにんじんを一切れ大きめのを渡しておく。
「わあい、美味しそう! では、いっただっきま〜〜〜〜す!」
嬉々としてそう言ったシャムエル様は、やっぱり頭からお椀に突っ込んでいった。
あれ、毎回思うけど、熱くないのかねえ……。
「熱っ! でも美味しい! でも熱い!」
汁まみれになって叫びながらも食べるのをやめない。やっぱり熱かったみたいだ。
「ああそうだ。お供えしておかないとな」
笑ってそのまま食べそうになって、慌てて敷布を取り出してお皿を乗せた。
「遅くなりました。今夜の夕食は鶏鍋だよ。一応ポン酢もつけておくけど、味が付いているのでそのままでも大丈夫です。少しですがどうぞ」
手を合わせて小さな声でそう言うと、いつもの収めの手が頭を撫でてから、嬉しそうにお椀とお鍋も撫でてから消えていった。
「よし、それじゃあ俺も食べよう」
もうすっかり二日酔いからは復活しているみたいなので、俺もガッツリ争奪戦に参加しながら食べたよ。ちなみに締めの雑炊まで皆の食欲は止まらず、綺麗さっぱり、用意していた具はほぼ全て無くなったね。
いやあ、相変わらず皆よく食べるね。
食後は、さすがにお酒は飲む気になれなかったので、緑茶を取り出して全員分たっぷり用意したよ。
「はあ、ご馳走様でした。いやあ、美味しかったです」
両手で持ったカップから緑茶を啜りながら、アーケル君が満足そうにそう言って笑っている。
「はい、お粗末様。まあ鍋は材料はスライム達が用意してくれるから、俺はほぼ何にもしていないんだけどね」
「いやいや、何にもしていないの基準がおかしいですって!」
ランドルさんの言葉にほぼ全員が揃って吹き出し、大爆笑になった。
「ああ、そうだ。なあ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
俺も緑茶を飲んでいて、不意にさっき考えていた事を思い出した。
「ええ、どうかしましたか?」
驚いたみたいに、アーケル君が緑茶を飲むのをやめて俺を振り返る。
「暖かくなってきたら、毛のある子達は換毛期に入るから抜け毛がすごくなるんだよ。まあ日常的にはスライム達に頼んでおけば大丈夫だとは思うんだけど、スキンシップを兼ねてブラッシングをしてやりたいんだ。だから従魔達用に大きなブラシなんかが欲しいんだけど、そういうのってどこで売っているかな?」
「従魔用の、ブラシ?」
そう呟いたアーケル君は、腕を組んで考え始める。
「そっか、確かに抜け毛対策は必要だなあ。ってか、それってケンさんだけじゃなくて、俺達全員必要ですよね?」
思わず全員揃って部屋の隅、と言うかほぼリビングの半分近くを埋め尽くして寛いでいる全員の従魔達を見る。もふ率かなり高めです。
「確かにそうだな」
「うん、ブラシは必要そうだ」
ハスフェルとギイも、俺の言葉に納得したみたいでうんうんと頷いている。
「私は、以前は人間用のブラシを一つ、従魔達用にしていましたね。でも、小さくて大変だったですよ。そっか、大きなのを頼んで作って貰えばよかったんですね」
リナさんは、何故か今更気がついたみたいでなんだか嬉しそうだ。
「それなら、ブラシ職人かな。ううん、ブラシを売っている店ならいくらでも思いつくけど、さすがにブラシを作る職人に伝手は無いですね。それなら明日、一応店を一通り見てから、希望の物が無ければ商人ギルドヘ行って相談してみましょう。良さそうな職人さんを紹介してくれると思いますね」
「だな、いざとなったら商人ギルドに相談だな」
予想通りの答えに、俺も笑ってそう言い残りの緑茶を飲み干したのだった。
はあ、緑茶美味〜〜!