夕食準備と欲しいもの
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
こしょこしょこしょこしょ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん、起きる……」
半ば無意識で返事をした俺はぼんやりと目を開き、すっかり暗くなっている部屋に驚いて慌てて起き上がった。
すぐそばにいた、ソレイユとフォールが驚いたように跳んで離れる。
「ええと……なんで夜なんだ? ああそっか。今日は一日お休みにしたんだっけ。ええと……腹が減ったな」
納得して立ち上がろうとした時、大きくお腹が鳴って思わず吹き出す。
「あんなに酷かった頭痛も消えてるし、二日酔いからはもうすっかり回復したみたいだな。ええと、それで皆はどうしてるんだ?」
立ち上がって軽く肩を回しながらそう呟く。
マックスやニニ達も起き上がってそれぞれ大きな伸びをしている。
『おおい、起きてるか?』
とりあえず、念話でハスフェルとギイを呼んでみる。
『ああ、起きたのか。部屋でゴロゴロしているよ』
笑ったハスフェルの声は、ちょっとまだ眠そうだ。
『俺はリビングで同じく寛ぎ中。リナさん達は部屋に戻って音沙汰なし。多分まだ寝ているんじゃないか? ランドルは部屋には戻らず、そこのソファーで熟睡してるぞ』
こっちはいつも通りのギイの声だ。
『あはは、了解。じゃあリナさん達の部屋に声だけかけてからリビングへ行くよ。そろそろ腹が減ってきた』
『おう、それなら俺もそろそろ起きてリビングへ行くよ。実を言うと腹が減って目が覚めたんだ』
『確かに。俺もそろそろ腹が減ってきたよ。じゃあ待ってるからよろしくな』
笑ったハスフェルとギイの気配が消える。
「ええと、それじゃあリビングへ行くけどお前らはどうする?」
一応部屋の暖房はつけっぱなしにしてあるから、寒くはないと思ってそう言ったんだけど、今度は全員ついて来るみたいで一斉に起き上がった。
「はいはい、それじゃあ行こうか」
飛んできて定位置に止まったファルコを撫でてやる。ふわふわの羽毛の手触りもまた良きかな……。
それにしても、お空部隊の子達の手触りとファルコの手触りはまたちょっと違うんだよな。それぞれに羽根の柔らかさや大きさが違っていてかなり個性がある。
そんな感じで、例えば同じリンクスでもニニとカッツェは全然手触りが違うし、ソレイユやフォールをはじめとした猫族軍団達だってそう。小さくなっていても、それぞれに毛の感じが全く違うので、たとえ寝ぼけて撫でたとしても誰なのかがすぐに分かるんだよな。
だけどテンペストとファインの狼コンビ。それから、プリクルとウィップのイグアナコンビ。これは大きさも手触りもほぼ同じなので、見ないと分からないよ。
擦り寄ってくる従魔達を交互に撫でてやりながら、リナさん達の部屋をノックして回る。
「おおい、起きてくださ〜い。そろそろ夕食の時間だぞ〜〜」
ノックしながらそう話しかけると、リナさんとアルデアさんはもう起きていたみたいで、すぐに返事が返ってきた。
だけど三兄弟の方は全く反応なし。
リナさん達に起こしてもらうように頼んでおいてから、俺はリビングへ向かった。
ちなみにまだ、ランドルさんは熟睡中だったよ。
「さて、何を作るかねえ」
従魔達にはリビングで寛いでてもらい、スライム達を連れてキッチンへ移動した俺は、少し考えてからサクラを振り返った。
「よし、今夜は鍋にしよう。ええと、一番大きな土鍋を出してくれるか。それからハイランドチキンとグラスランドチキンのもも肉、あとは白菜とにんじんと白ネギ、それから木綿豆腐Bとねりものも色々、きのこも色々出してくれるか」
「はあい、ちょっと待ってね!」
嬉しそうにそう言ったサクラが、一番大きな土鍋を取り出し、つぎつぎに材料を出してくれる。
下拵えは一通りの説明をしてスライム達に頼んでおき、俺は出汁の準備をする。
と言っても、土鍋に二番出汁をたっぷり入れて、お酒とみりんと醤油と塩で味付けをするだけだけどね。
「ああ、しまった! あのお店で乾燥湯葉が売ってないか聞けばよかった。今度行ったら聞いてみよう。絶対あれもお土産であったはずだ。鍋に入れたら、ちょっとレベルが上がった気になるもんな」
他に何を入れようか考えていて、ふと思い出して悔しくなってそう呟く。
西京漬にテンションが上がりすぎて、湯葉も売っていないか聞こうと思っていたのに、すっかり忘れてたよ。
沸いてきた大きな土鍋に、スライム達が切ってくれたぶつ切り肉を大量に鍋に投入しながら、美味しかった昨夜の懐石料理の数々を思い出して一人笑み崩れていた俺だったよ。
あれ、頼んだら持ち帰り仕様で作ってくれないかな。松花堂弁当みたいな感じで。もしお願い出来るなら絶対大量に頼むんだけどなあ……。