お粥とタマゴサンド
「うう、腹減ったよ……」
四度寝から自主的に目覚めた俺は、スライムベッドの微かな揺れを楽しみつつ大きな欠伸をした。
「ご主人起きた〜〜〜!」
「もうお昼を過ぎてますよ〜〜!」
「おはようの時間じゃないですよ〜〜!」
羽ばたく音がしてお空部隊の面々が俺のそばへ嬉々として飛んでくる。
「待て待て、もう起きたからこれ以上起こさなくていいって!」
慌てて腹筋だけで起き上がり、顔の前にいたローザをとりあえずおにぎりにしてやった。
それから集まってきた従魔達を順番におにぎりにしたり、撫でたり揉んだりしてスキンシップを楽しんでからスライムベッドから起き上がった。
「はあ、朝から大騒ぎだったなあ。それにしても、あの吟醸酒は危険だよ」
大きな欠伸をしつつ、立ち上がって水場に顔を洗いに行く。スライム達が跳ね飛んできて俺が顔を洗い終わったら水遊びを始めた。
冬の間は、俺はスライム達を水槽に放り込んでやるだけで、水遊びに付き合うのは遠慮しているよ。
心得ている従魔達が、マックスを先頭に集まって来たので場所を交代してやり、ひとまず和室へ戻った。
『おおい、起きてるか〜〜〜?』
念話で話しかけてやると、ハスフェルとギイの寝ぼけた返事が返ってきた。
『おう、おはようさん。目は空いてるけどベッドでゴロゴロしているよ』
『おはよう。俺も起きてるけど、まだベッドで寝転がってるぞ』
『だけど腹が減った!』
最後は綺麗に二人揃ってそう言われて、俺は思わず吹き出したよ。
『俺も腹減ったよ。それじゃあリビングに集合〜〜お腹に優しいお粥を温めてやろう』
『わあい、お粥だ〜〜』
気の抜けた返事が返って来て、また吹き出しつつ念話を閉じる。
「リビングへ行ってるからな」
まだ水遊びをしているマックス達に声を掛けてから、身支度を整えた俺はリビングへ向かった。
「ああ、おはようございま〜〜す!」
リビングには、リナさん一家とランドルさんが既に起きていて密かに慌てた。
「ああ、おはようございます。ええと、申し訳ない! もしかして朝飯抜きだったりします?」
先に起きていたのなら、申し訳ない事をした。内心で大いに焦りつつそう言って謝ると、皆そろって笑いながら顔の前で手を振っている。
「いやいや、俺達も今起きたところですって。それで、二日酔い自慢をしていたんですよ。ケンさんは大丈夫でしたか?」
笑ったランドルさんの言葉に、俺はもう笑いが止まらない。
「いたた、笑うと頭に響くって」
最初に起きた時ほど酷くはないが、まだ頭痛も喉の乾きも残っているからかなり重症だと思う。
「俺もひどい二日酔いですよ。従魔達が張り切って起こしてくれたんですけど、全然起きられませんでしたね。とりあえず水を飲んで、また寝てました」
「あはは、やっぱりそうなりましたか。じゃあ今日はもうお休みにしますか?」
一応毎日神殿へお参りに行くと宣言している俺を気遣ってくれているみたいだ。
「ううん、どうしようかねえ。一応毎日行くつもりだったんですけど……まあちょっと考えます」
苦笑いしつつ、リビングの横にあるキッチンへ向かう。
「お粥は何があったかなあ?」
買い置きのお粥の入った大鍋を取り出し、シンプル和風のお粥を見つけた。
「これに塩昆布と梅干し、鰹節、それから……だし巻き卵とか、漬物くらいは出しておくか。一応牛肉そぼろがあるから、これも出しておいてやろう」
在庫を確認しつつ、付け合わせを色々取り出しトレーに並べておく。
「何か運ぶものとかありますか?」
アーケル君が来てくれたので、付け合わせのトレーや食器を運んでおいてもらう。
お粥の入った鍋をかき回しながら、俺はため息を吐いた。
「いつも飲んだ翌朝には、もうこんなに酒は飲まないぞ! って思うんだけどなあ。毎回やらかすんだよなあ」
そう呟いてまだ少し痛む頭を軽く叩いた。
「ねえ! 差し入れは?」
その時、不意にシャムエル様の声が聞こえて、欠伸をしていた俺は慌てて振り返った。
右肩に、いつものシャムエル様が座っていて若干ご機嫌斜めだ。
「待ってるのに、全然来てくれないから、シュレムに留守番を頼んで貰いに来たんだよね! お腹空きました!」
そう言って、机の上に一瞬で移動したシャムエル様はその場でステップを踏み始めた。
「タ、マ、ゴ! タ、マ、ゴ! 美味しい美味しいタマゴサンドをくださいな!」
新曲タマゴサンドの歌を歌いつつ、軽快なステップを踏み始める。
次の瞬間、何処からともなくカリディアが現れてシャムエル様の隣に並び、全く同じステップを踏み始めた。
「あはは、久々のそろってのダンスだな」
笑って拍手してから、俺は手持ちのタマゴサンドを一通り出してやった。
「大変お待たせいたしました。今日のところはこれでお許しください!」
「ふおお〜〜待ってました〜〜!」
唐突にステップを踏むのをやめたシャムエル様は、そう叫んで俺が差し出したお皿に頭から突っ込んでいった。
置いてけぼりのカリディアは、苦笑いしてクルッと一回転してから優雅に一礼して消えてしまった。
小さな揺らぎが部屋を駆け出していくのを見送りかけて、慌てて呼び止める。
「ああ待って。ダンスのご褒美だよ。はいどうぞ」
サクラに取り出してもらったあの飛び地のリンゴと葡萄の盛り合わせたお皿を出す。
「嬉しいです。ありがとうございます。ですがこんなには食べられませんから、これだけいただきますね」
そう言って、小さなりんごを一つと、葡萄を数粒だけ取ったカリディアは、もう一度嬉しそうに笑ってから一礼して消えてしまった。
それから、すっかり温まったお粥の入った大鍋を一旦収納して、シャムエル様ごとタマゴサンドを盛り合わせたお皿を持った俺は、リビングへ戻って行ったのだった。
「お待たせ、それじゃあ食べよう。それでもう今日は休憩日にしよう。一日くらい参らなくても創造神様はお許し下さるだろうからね」
さりげなくシャムエル様ごとタマゴサンドの乗ったお皿を自分の前に置き、お粥の大鍋を取り出して簡易コンロの上に乗せた。
「やっぱり飲んだ翌朝はこれだろう? 付け合わせを色々出しておくから、あとは好きにどうぞ」
拍手している皆に笑ってそう言うと、まずは全員にお粥をたっぷりとお椀にすくっていれてやったのだった。