二日酔いの朝
ぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺし……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
ふみふみふみ……。
カリカリカリ……。
カリカリカリ……。
つんつんつん……。
チクチクチク……。
ショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「うん……おき、る……」
痛む頭を抑えながらそう言いながら、逃げるようにしてニニの腹毛に潜り込む。
そしてそのまま当然のごとく二度寝の海へ墜落。
いやあ、あの吟醸酒相当美味しかったんだけど、かなりの危険物かも……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ぺしぺしぺしぺし……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
ふみふみふみふみ……。
カリカリカリカリ……。
カリカリカリカリ……。
つんつんつんつん……。
チクチクチクチク……。
ショリショリショリショリ……。
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
ふんふんふんふん!
「ご主人〜〜〜!」
「起〜〜き〜〜て〜〜」
「起きないと〜〜〜〜〜」
「大変な事に〜〜〜〜」
「な、る、わ、よ〜〜〜〜!」
俺の耳元で嬉しそうに囀っているお空部隊の恐ろしい言葉に、しかし俺は目を開けられない。
「起きてる。マジで、起きてるってば……」
「あはは、寝てるのに起きてるとか寝言言ってる〜〜〜」
笑ったシャムエル様の声に、頭は起きている俺はもう冷や汗ダラダラだ。
だけど寝汚い俺の体は、残念ながら危険を察知しつつも全く起きる気配なし。いいのかこれで。俺の本能よ……。
脳内で自分で自分にツッコミを入れていると、突然、俺の額の生え際と耳たぶ、それから上唇をちょびっとだけペンチで抓るがごとくに齧られたよ。
「痛いってば〜〜〜!」
悲鳴を上げた俺だったけど、残念ながら目は開きませんでした。ついでに言うと、悲鳴がダイレクトに頭に響いてしまい強烈な頭痛に襲われ、そのまま気絶するみたいに意識を手放した俺だったよ。
やっぱりあの吟醸酒、危険物に認定だよ!
次に俺が目を覚ました時、部屋はすっかり明るくなっていて、お空部隊の面々だけでなく、ベッド役のニニとマックス以外の全員が揃って俺を取り囲んで覗き込んでいる状態だった。
「うおお、びっくりした。ええと、おはよう……どうかした?」
何やら神妙な様子の従魔達を見て、ちょっと心配になってそう尋ねる。
「ご主人生きてた〜〜〜!」
「よかった〜〜〜〜〜〜!」
「ご主人〜〜〜〜」
ローザとブランとメイプルの三羽だけでなく、従魔達全員が口々にそう言って俺に飛び掛かってきた。
「どわあ〜〜〜! ちょっ、一体、何だって、言うんだよ〜〜〜」
もみくちゃにされてニニの腹から転がり落ちた俺は、畳に顔から激突して情けない悲鳴をあげる。
「だからちょっと待てって、俺を殺す気か〜〜〜!」
次から次へと飛び掛かってくる毛玉達を押し返したり抱き止めたりしながら、とにかく必死になって落ち着けと叫ぶ。
「あいたた、だから大声は駄目なんだって……」
また強烈な頭痛に襲われてしまい、畳に突っ伏してそう呟くと蓋を開けた水筒が差し出された。
「ご主人、美味しい水だよ。飲んでください!」
アクアの声がして、俺は何とか上向に転がって顔を上げて水筒を受け取る。
モゾモゾと背中にスライム達が集まり、リクライニングベッドよろしく体が起こされる。
「あはは、ありがとうな。そのままちょっと支えててくれよな」
笑ってそう言い、水筒の水を一気に飲んだ。
「ぷっは〜〜めっちゃ美味しい!」
ため息と共にそう叫んで、残りも一気に飲み干す。だけど、いつもみたいに直ぐには元気にならない。
「だめだこれ……ってか、他の皆は……?」
スライム背もたれに思いっきり体を預けつつ、もう一回水を飲む。
「無くなった……」
仕方がないので、アクアに返して大きなため息を吐く。
「皆、まだ寝てま〜〜す! ハスフェルとギイはさっき起きたけど、また寝たよ。他はまだ誰も起きてもいません!」
顔の横に来たシャムエル様がドヤ顔で教えてくれる。
「あはは、全員揃って討死ってか。いやあ、吟醸酒怖い……」
笑ってまだ痛む頭を押さえつつ、天井を見上げてもう一度ため息を吐いた俺は、そのまま自然に目を閉じてしまった。
当然そのまま、三度寝ならぬ四度寝に突入……。
「ちょっと? なに寝てるんだよ。せっかくわざわざ神殿から起こしに来てあげているのに、いい加減起きなさいってば!」
額を叩きながらシャムエル様に文句を言われてしまったが、残念ながら反応なんて出来ない、絶賛四度寝に突入した俺です。
「あぁあ、また寝たし。本当に駄目な大人だねえ」
「でも、ご主人が無事でよかったです!」
「本当だよねえ。急に静かになったから、冗談抜きで死んだかと思って本気で心配したのにねえ」
聞こえてくる、従魔達とシャムエル様の会話を聞きつつ、さっきの従魔達のパニックとも言える心配ぶりを思い出して申し訳ないやらおかしいやら、寝ながら笑いそうになった俺だったよ。