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ご馳走様でした〜〜〜!

「へえ、案外腹いっぱいになってきたなあ」

 俺よりかなり早いペースで吟醸酒をぐいぐい飲んでいたハスフェルが、感心したようにそう言って笑っている。

 大食漢の彼らでも、ゆっくりと料理が出てくる懐石料理だと、案外お腹もいっぱいになってくれたみたいだ。

「でしょう、一つ一つの量は決して多くはないんですけれども、こんなふうに一品ずつゆっくりと出されると案外お腹いっぱいになるんですよね。不思議な事に」

 同じく、吟醸酒をぐいぐいやってるアーケル君が、楽しそうに笑いながらそう言って頷いている。

「俺はもうそろそろ限界だよ。お腹も心もね」

 俺も吟醸酒を飲みながらそう言って笑う。ランドルさんもご機嫌で飲んでいるみたいだ。

「でもまだ料理は全部終わってませんから、もうちょい頑張ってくださいね〜〜!」

 笑って飲んでいた盃を掲げるので、俺も飲みかけの杯でもう何度目か覚えていない乾杯をしたよ。

 ああ、それにしてもこれは冗談抜きでマジで危ないお酒だ。美味しすぎる。

 だけど、うっかり酔い潰れて道端で寝たりしたらこの時期なら凍死確定だもんな。それはいくらなんでも勘弁願いたいから絶対に気をつけよう。

 などと考えつつ、もう一杯頂く。はあ美味しい……。



 その時、またスタッフさんたちが静々と入って来て、それぞれの席の前にミニコンロを置いて行った。火がついている五徳の上に、今度はミトンをしたスタッフさん達が小さな一人用のお釜を持って入って来たのだ。

「うおお、あんなものまであるんだ。へえ、すげえ」

 感心して見ていると、小さな蓋付きの木製のお椀と小皿が出てきた。

 って事は、これがご飯と留め碗と香の物か!

 そっとお釜の蓋が開けられると、予想通りに真っ白なご飯が炊き上がっていた。おお、お米が立ってるよ。

 そして蓋付きのお椀の中身はわかめのお味噌汁! 添えられているのはどう見ても白菜の浅漬けと大根の漬物。

 もう泣いていい。俺、マジでここに住みたい……。

 ふっくら炊き立てのご飯を、出汁がしっかり効いたワカメのお味噌汁とお新香と一緒に頂く。

 はあ、幸せすぎる……。

 そこまでして、ダンダンと足踏みの音が聞こえて我に返る。

「あはは、失礼しました。はいどうぞ!」

 お茶碗片手に自己主張していたシャムエル様にも、お釜からご飯をよそってあげる。

 それから改めて、敷布の上にご飯と味噌汁と齧り掛けのお新香を置いて手を合わせた。

「失礼しました。嬉しさのあまりちょっと理性がどっかへ行ってました。炊き立てのご飯とわかめのお味噌汁、それから漬物をどうぞ。俺が作るのとは全然違うからさ」

 また収めの手が、何度も俺を優しく撫でてからそれぞれのお皿をそっと撫でて、最後にお釜ごと持ち上げる振りをする。

「では改めて、いただきます!」

 改めて自分の前へ持ってきて、ご飯と大根の漬物をいただく。それから味噌汁をいただき、和食を食べられる幸せを噛み締める俺だったよ。

 それからもう一つ嬉しかったのが、二杯分は余裕であったご飯なんだけど、ごく小さな火がついていたおかげで最後はなんとお焦げがあったんだよ。もう嬉しくて、置いてくれてあった小さなしゃもじで全部剥がしていただいたよ。俺、ご飯のおこげも大好きなんだよな。



「いやあ、どれも最高だったね。もう俺、ここに住みたい」

 最後のご飯を平らげた俺の言葉に、ここを薦めたアーケル君がドヤ顔になっていたよ。アーケル君、グッジョブだったよ!

 サムズアップを机越しに交わしたところで、食器が全部下げられて新しいお茶を用意してくれた。

 これまためっちゃ美味しい緑茶で、ちょっと感動したよ。

 ってか、感動のあまり酔いが全部どこかへ吹っ飛んでいったよ。今の俺、めっちゃ普通だ。



 そして、最後に運ばれて来たのは、なんと和菓子!

 どこからどう見ても酒饅頭! マジか!

 一人感動していると、酒饅頭を見たハスフェル達が首を傾げている。

「へえ、これは初めて見るな。このまま食べるみたいだが……」

 小さな木のさじが付いているが、二人は気にせず手で摘んで少し考えて半分だけ齧った。

「甘いな」

「なんとも不思議な食感だが……中の、この黒いのは何だ?」

 真剣に悩んでいる二人を見て、俺とランドルさんが小さく吹き出す。

「そっか、餡子のお菓子って言われてみれば初めて見たかも」

「そうですね。俺の故郷の辺りでは普通に食べられていましたけど、確かに言われてみれば久し振りに見ましたね」

 ランドルさんも嬉しそうにそう言うと、酒饅頭を一口で食べてしまった。

 俺は小さく笑って敷布の上に一旦お茶と一緒に酒饅頭を並べる。

「これが最後のデザートだよ。俺の故郷では酒饅頭って呼んでいました。中身は餡子、ええと、小豆っていう小さな豆とお砂糖を煮込んで作ったものです。きっと好きだと思うので、どうぞ」

 手を合わせてそう言い、嬉しそうな収めの手が酒饅頭を皿ごと持ち上げ、湯呑みも持ち上げてから消えていくのを見送った。

 そして、シャムエル様と半分こして酒饅頭を美味しくいただきました!

 久しぶりに食べた餡子は、ちょっと涙が出るくらいに美味しかったよ。



 そしてこの後、帰る際に聞いてみたところ、ドワーフ殺しの吟醸酒だけでなく、メインで出た西京漬はお土産として販売してるらしい事が分かった。これはもう買うしかないよね。

 って事で、こっちは自腹で大量に購入させていただきました。

 まあ、ご迷惑にならない範囲でお願いしたから、普段の俺の買い物からしたらそれほどの量じゃあなかったけどね。

 だけどこれは絶対にもっと欲しい。なのでまた後日改めて買いに来るので、西京漬を一番大きいサイズだという樽で作ってもらえるようにお願いしたよ。

 よしよし、これで俺の好物がまた一つ確保されたぞ。

 お腹も心も一杯になって、俺達は帰路に着いたのだった。

 いやあ、美味しかった。ご馳走様でした〜〜〜!

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回くらいはケン一人で食べさせてあげてほしかったなあ、シャムエル様
[一言] 大人買い、否、チート買いが羨ましい
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