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まさかの懐石料理の登場〜!

「いらっしゃいませ」

 開いた扉には、何と暖簾が掛けてあって俺のテンションはもうこの時点で限界近くまで爆上がり状態です。

 ここはもしかして、まさかの和テイストの店なのか?



「では、ご案内致します」

 そう言って進み出てきた小柄な女性を見て、思わず目を見開く。

 若干違うが、何とその女性は着物のような服を着ていたのだ。

「ああ、懐かしいですねえ。あの服は子供の頃にばあちゃんが着ていた記憶があるよ」

 ランドルさんが、嬉しそうに目を細めながら前を歩く女性を見てそんな事を言っている。

「へえ、ちょっと変わった服みたいだけど、じゃああれはカデリー平原辺りの地域で着られていた、いわば民族衣装みたいなものか?」

 出来るだけ平静を装いながら、さりげなくそう聞いてみる。

「どうなんですかね。俺は大人になった頃にはほぼ見なくなりましたよ。祭りの時なんかに、ごくたまに着ているお年寄りがいたくらいかなあ。俺は着た記憶は無いですねえ」

「おや、カデリーのご出身ですか?」

 前を歩いていた女性が、ランドルさんの声に笑顔で振り返る。

「ええ、と言っても、カデリーの街からはかなり離れた小さな辺境農家の出身ですよ。最初の頃は、稲の収穫時期には毎年手伝いに帰ってたんですけどねえ。でも最近は、人手も増えて大丈夫だからって言われて全然帰ってないのでとても懐かしいですね」

「まあまあ、そうなんですね。この服は、確かに最近では日常で着ている方は珍しくなりましたねえ。着心地の良い服なんですけれど、残念です」

 胸元を軽く引っ張りながら、そう言って笑ったその女性は、俺達を広い個室へ案内してくれた。

「こちらのお席をどうぞ。畳のお席がよろしけば、そちらのお部屋もございますが?」

 通された部屋は、確かにちょっと和テイストな感じだけど、置いてあるのはテーブルと椅子だ。

 思わず顔を見合わせた俺とランドルさんは、揃ってハスフェル達を振り返った。

「ええと、お前らは椅子の方がいいよな?」

「そうだなあ。出来ればそっちの方がありがたい」

「畳の部屋に通されたら、俺達は寝転がって飯を食う羽目に陥りそうだ」

 苦笑いした二人の言葉に店員の女性は笑ってそのまま俺達をその部屋へと通してくれた。

 そしてやっぱり、いつもの席順で座ってるし。



「それじゃあ、松のコースプラスでお願いします」

 メニューは何処なんだろう。不思議に思って何も置かれていない机の上を見ていると、笑顔のアーケル君がそう言って俺達を振り返った。

「今夜は俺達三兄弟の奢りです。ここは米の酒が美味いんですよね。ケンさんには是非とも大吟醸を飲んでいただきたい」

「大吟醸はめっちゃ嬉しいけど、そんなに奢ってもらってばかりで良いのか?」

「何言ってるんですか。俺達がどれだけケンさんにご馳走になってると思ってるんですか」

「そうですよ。これくらいじゃあとても返せてませんって!」

 そう言って揃って笑ったアーケル君とカルン君の横では、オリゴー君だけじゃなくてリナさんとアルデアさんまでが、全員揃ってものすごい勢いでうんうんと頷いている。

「って事なんで、ここは気持ちよく奢られてください!」

 満面の笑みでそう言われたら、これは断れないよな。

「了解。じゃあ今日も遠慮なく奢っていただきます!」

「はい、どうぞ遠慮なく食べてください! ああ、初めの品が来たみたいですね」

 先ほど案内してくれた女性だけじゃなくて、何人も人達が静々と大きなお皿を持って入って来た。

「まずはこちらと食前酒をどうぞ」

 目の前に置かれたそれは、ほぼ間違いなく懐石料理、あれ、会席料理……どっちだ?



 まあいい。とにかくめっちゃ和食のフルコースだって事は分かった。

 もしかして、お刺身とか出て来たらちょっと感動して泣いちゃうかも。

 ワクワクしつつ、小さな盃に入った梅酒をいただく。

「うおお、めっちゃ良い香り。これは美味しい」

 思わずそう言うくらいに食前酒に出された梅酒は美味しかったよ。これ、何処で売ってるか教えてくれないかなあ……。

 それから、置かれてた先が細くてめっちゃ食べやすそうなお箸を手にする。

 もちろんフォークやスプーンも置いてくれてあるんだけど、ここはやっぱりお箸でいただかないとな。

 目の前に置かれた三つ並んだ小皿の一品目をいただく。

「うおお。お出汁の味が染みててめっちゃ美味しい」

 一品目はまさかの卯の花。そう、おから料理。実は定食屋で残った時にいつも残りを貰って帰っていたくらいに俺の好きな料理だ。

 ちょっと懐かしい、しっかりとお出汁の染みたそれにマジで涙が出そうになって慌てて飲み込んだのはナイショだ。

 それから、大根とにんじんのなますっぽいのや、味の濃い甘めの煮豆もめっちゃ美味しかった。これは俺には作れない、いわゆる本物のプロの料理だよ。素人の俺の、適当煮物とはレベルが違うって!



「なあ、これはどれもとても美味しそうなんだが……どうして、こんなに少量なんだ?」

 絶対足りないであろう悲しげなハスフェルの呟きが横で聞こえて、俺は思わず吹き出したよ。

「これは俺の故郷のカデリーの辺りで祝い事の時などに食べられるコース料理だよ。ちなみに最初に出てくるこれは、つき出しとか前菜と言ってこんな感じでごく少量なんだ。だけど次からは順番にたくさん出てくるから、心配しなくていいって」

 俺が何か言う前に、笑って教えてくれてランドルさんの言葉に、アーケル君達も笑顔で大きく頷いている。

「ランドルさんの言う通りで大丈夫ですよ。ここの松のコースは質も量もかなりありますから、少食な人は食べ切れないくらいなんですよ。それに今回は追加でメインに肉と魚の両方をお願いしましたからね!」

 ドヤ顔のアーケル君の言葉に拍手が起こる。

「そうか、この店は話に聞いた事はあったけど今まで入った事が無かったんだ。それでは、何が出るのか楽しみに待たせてもらうとしよう」

 ハスフェルとギイも笑ってそう言い、お箸じゃなくてスプーンを使って卯の花をすくって食べていたよ。

 まあ、これをお箸で食べるのは初心者には至難の業だろうからな。

 もちろん俺は、豆であろうがこんにゃくであろうがしっかりお箸で摘めるよ。

 こればっかりは、子供の頃にしっかり躾てくれた両親に感謝だな。

 次に出てきた野菜と鶏肉のつくねっぽいのが入った汁物を味わって頂きつつ、俺は幸せのため息を吐いたのだった。

 ああ、食べ物が美味しいって幸せだよなあ……。

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