それぞれの武器や防具とその扱いについて
「いやあ、なかなか見応えのある戦いでしたね。ちょっと俺もその武器を使ってみたくなりました!」
アーケル君を筆頭に、草原エルフ三兄弟が目を輝かせながらそう言って積み上がった硬鞭の入った木箱を見ている。
「やめておきなさい。お前達ではリーチが短すぎてこの武器は扱えないよ」
しかし、困ったようなヴィッテンさんが何か言うよりも先に、苦笑いしたアルデアさんがそう言ってアーケル君の肩を叩く。
「ええ、確かにちょっと癖がありそうだけど、別に俺達なら扱えると思うけどなあ」
アーケル君の言葉に、オリゴー君とカルン君も揃って頷いてる。
「だから扱えるかどうかではなく、実際の戦いでは我々草原エルフでは殆ど使えないからやめておけと言ってるんだよ。俺達のような小柄な体では、接近戦に特化したその武器を生かすのは至難の業なんだよ。そんな事をしなくても、我々には強力な術があるんだから、無理して扱いにくい接近戦に特化した武器を使う意味は無かろう? まあコレクションとして持ちたいと言うなら別に止めはしないけどな」
言い聞かせるようなアルデアさんの言葉にヴィッテンさんが大きく頷く。
「さすがに、よくお分かりだ。そちらの旦那の言う通りだよ。申し訳ないが、これはあまり小柄な人には向かない武器だな。まあ、体術が凄くて実は接近戦に特化しているんだとでも言うのなら話は別だけどな」
肩を竦めるヴィッテンさんの言葉に、俺はランドルさんと顔を見合わせて納得したように頷いた。
確かに、小柄な草原エルフの体と俺達人間の体だと、ほぼ大人と子供くらいに体格に差がある。
となると当然、彼らは人間よりもリーチもはるかに短いわけで、しかも聞く限り腕力はそれなりはあるみたいだけど、実は人間を軽々と投げ飛ばせるくらいのものすごい怪力の持ち主! ってわけでもない。
万一接近戦で捕まってしまったら、あの小柄な体では逃れるのは至難の業だろう。
となると、そうなる前にあの強烈な竜巻攻撃や過剰重力の魔法で攻撃した方が圧倒的に有利だし効果的だろう。
言われたアーケル君も納得したみたいで、苦笑いして引き下がった。
「じゃあ俺は、こっちの石付きの短剣を見せてもらいます」
「俺も見たい!」
「俺も俺も!」
笑顔で頷いたヴィッテンさんが、嬉々として三人の話を聞き始めるのを見て、俺とランドルさんは笑ってそれぞれ他の武器を見るために一緒にのんびりと店を見て回った。
「で、ハスフェルとギイは何を見ているんだ?」
俺は一通り店内を見て回ってから、短剣と両手剣のおすすめを教えてもらおうと思って、また防具のコーナーへ戻って顔を寄せて何やら話を始めたハスフェル達のところへ行ってみた。
「おう、ほら見てみろよ。ここにお前さんがオーダーしたのと同じ、カメレオンセンティピートの胸当てがあるぞ」
「それからこっちにはカメレオンビートルの盾と兜もあるぞ。いやあ、どれも素晴らしい出来栄えだよ」
「しかし、これだけの貴重な素材を注文品じゃなくて、先に出来合いで作るってのはなかなか勇気がいる行為だと思うぞ」
「確かにそうだな。いつ頃作られたものなんだろうなあ。もしかしたら、地脈が弱る前のかなり昔の作品なのかもな。その頃なら、これらの素材を使って、自由に出来合いのものを作っている職人もまだいたからなあ」
腕を組んだハスフェルとギイは、うんうんと頷き合ってそんな事を話しながら壁面に飾られた防具を眺めている。
「しかしこのカメレオンビートルの盾なら、今すぐに買っても良いと思うくらいの良い出来だ。ふむ、誰の作なんだろうな?」
嬉しそうなハスフェルの言葉に、俺はふと考える。ハスフェルやギイが盾を使っているのは見た事がないけど、まあ当然扱う事は出来るのだろう。今度扱い方を教えてもらおう。
のんびりとそんな話をしながら嬉々として展示品を見ている彼らは本当に楽しそうだ。
「へえ、これがカブトムシの頭で作った兜か。案外普通なんだなあ」
横から言われた防具を見てみる。なんというか、もっと素材の虫感が出ているのかと思ったけど、案外普通の兜だ。
横に並べられた盾は、やや縦長の形の大きめの物と円形の小型の二種類がある。
ハスフェルが見ていたのは、意外な事に小さい方の丸盾だった。
「へえ、ハスフェルならこれくらい余裕で持てると思うけど、こっちの小さい方なんだ?」
意外に思ってそう尋ねると、苦笑いしたハスフェルは俺が見ている大きい方の盾を指差した。
「別にこっちでも余裕で扱えるが、これだけの大盾を扱うほどの相手はそうはいないからなあ。まあ正直言ってこれを買ってもほとんどの場合、壁面の飾りにするのが関の山だな。だがこっちの丸盾なら、普段使いも出来るから、槍や片手剣を使うなら実用性のある良い防具だよ」
そっか、当然だけど両手剣を持っていたら盾なんて持つ余裕は無いけど、片手剣なら左手は基本的に空くから盾を装備出来るわけか。
なんとなく最初にもらったのがやや細身の両手剣だったから、なんとなくその流れで二本目も同じような両手で扱う剣を使ってる。
ヘラクレスオオカブトの剣もおそらく両手剣の形になるだろうから、ここは逆に片手剣を探して見るべきか? 防具も一式作ってもらってるんだから、せっかくだから色々と使ってみたい。
「なあ、それならこういった小さめの丸盾を装備した時に使う武器を教えてくれるか」
「おう、それなら片手剣か槍だな。槍は良いのを持っているから、片手剣ならこの辺りを見てみろ」
笑ったハスフェルに教えてもらい、そこからはギイとランドルさんまで加わって、俺は様々な武器を見せてもらって扱い方や注意事項を大先輩達から教わっていたのだった。
気がつけば店の外はすっかり日が暮れて真っ暗になっていたんだけど、途中からはヴィッテンさんやリナさん一家も加わりいつまでも武器談義に花が咲いたのだった。