武器選びと試し打ち?
「お待たせ。ほら、これだけあるな」
しばらく待っていると、ヴィッテンさんが嬉しそうに大きな横長の木箱を台車に幾つも積み上げて出てきた。
「ああ、その前にさっきの硬鞭の預かり票を書くからちょっと待ってくれるか。そっちの兄さんはギルドカードの提示を頼むよ。口座はあるんだろう?」
机の上に置いてあったランドルさんの硬鞭を見たヴィッテンさんは、そう言って台帳を取り出して記入し始めた。
ランドルさんが駆け寄り、手元を覗き込みながら自分のギルドカードを取り出して見せて話をしているから、どうやらギルドカードがあれば口座からの支払いも出来るみたいだ。
ううん、どういう仕組みか知らないけど、これって考えたらすごい技術だよな。
密かに感心して見ていると、記入が終わった預かり票をランドルさんが受け取ったところで彼の硬鞭は奥へ下げられて、カウンターの上が手早く片付けられる。
「それじゃ順番に出すから、気になるのがあればどうぞ遠慮なく手に取って振ってみてくれ。ただし、もしも思い切り試し振りがしてみたいなら、奥に広い場所があるからそっちで頼むよ。さすがにここで暴れられると色々と困るから、それは勘弁してくれ」
笑顔で頷く俺達を見て、ヴィッテンさんは嬉々として木箱の蓋を開け始めた。
「おお、もしやこの色はミスリルですか? これは素晴らしい」
最初にカウンターに取り出されたそれは、見慣れたミスリルの色をしていた。全体に少し色が薄いみたいだから、もしかしたらミスリルだけじゃなくて何かとの合金なのかもしれないけど。
目を輝かせたランドルさんが、それを手に取ってから慌てたように俺を振り返る。
「構わないから、気に入ったのがあればどうぞ言ってください。俺も気に入ったのがあれば遠慮なく言いますから」
まあ最初の一本だし、まずは俺より硬鞭に詳しいランドルさんの意見を聞きたい。
彼は二本のそれを両手に持つとごく軽くその場で振って見せた。
「バランスも良いですね。これは素晴らしい。ですが個人的には少々軽い気がします。ケンさんはどう思いますか?」
渡されたそれを持って軽く振ってみたが、確かに以前ランドルさんが持っていた硬鞭よりもちょっと軽い気がする。
「ううん、確かにバランスは良いんだけどちょっと俺も軽い気がする。武器として振るんだから、もうちょっと重い方が威力は増すもんなあ」
俺達の意見を聞いたヴィッテンさんは、なぜか満面の笑みになった。
「おお、さすがだなあ。いやあ嬉しいねえ」
何故かうんうんと頷くと、また別の木箱の蓋を開けた。
「さっきのは、あまり力がない人向けの、いわば初心者用なんだよ。だが軽い方が取り回しが良いって言う奴も多いからな。だが二人とも充分腕力はあるみたいだ。となるとこの辺りかな?」
そう言って取り出されたそれも、さっきと同じくミスリル製みたいだ。だけどやや黒っぽい色をしている。
「あれ、これってもしかして……ミスリルに重鉄が混ざってる?」
思わずそう呟いてそれを手に取る。
「何これ、重っ!」
予想以上の重さに、思わず取り落としそうになって慌てて掴む。
「これはちょっと、さすがに重すぎるよ。持てないわけじゃあないけど、これで戦ったら疲れが倍増しそうだ。ランドルさんはどう?」
軽く何度か振ってみたが、扱えないわけじゃあないけど振った反動で身体ごと持っていかれそうになる。実際に使うとなると、これは無理。
俺から硬鞭を受け取ったランドルさんは、それを持って同じく軽く振った後に得意げに胸を張った。
「別に、俺はこれくらいでも別に大丈夫ですよ。ですが、確かにもう少し軽い方が取り回しが早くなると思いますね」
「俺はさっきのとこれの中間ぐらいの重さが良いです」
振り返った俺は、ヴィッテンさんに希望の重さを伝える。
「じゃあ、ケンさんのよりも少し重めくらいのを俺にお願いします」
俺とランドルさんの言葉に満足気に頷いたヴィッテンさんは、また別の木箱を二つ取り出して蓋を開けた。
今度は長さが違う。明らかに長めと、明らかに短め。
なるほど、色んな種類を順番に出して、まずは俺達の好みを調べているわけか。
顔を見合わせて頷き合った俺達は、順番に両方の硬鞭を手にして振ってみて、それぞれ好みのサイズをヴィッテンさんに伝えた。
ちなみに俺はやや長め、ランドルさんは俺よりもちょい短めくらいが好みみたいだ。
「うんうん、本当に扱える人が来てくれて俺は嬉しいよ」
何やら小さな声で嬉しそうに呟きつつ、また別の木箱を俺達の前にそれぞれ置いた。
「今までの意見を聞いた上での、俺のお二方への提案するそれぞれの一品だよ。まあ、まずは手にして振って見てみてくれ」
目の前に置かれたそれはミスリルの輝きをしたやや長めの硬鞭で、手に取った瞬間に思った。
これは良いって。
どうやらランドルさんも同じ事を思ったみたいで、目を輝かせて手にしたそれを見つめている。
「ええと、じゃあせっかくだから思いっきり振ってみたいんですけど、その奥の場所をお借りしても良いですか?」
これはちょっと冗談抜きで本気で振ってみたい。
目を輝かせた俺の言葉にランドルさんも大きく頷き、俺達は揃ってそれぞれの武器を手にしたままカウンターの奥へ行こうとした。
「おいおい、それならせっかくだから俺達にも見せてくれよ」
笑ったハスフェル達の声が聞こえた直後、リナさん一家も揃って振り返り、結局全員揃って奥の場所へ向かった。
案内されたそこは綺麗な砂場になっていて、確かに素振りするには良さそうだ。
そして、何故かハスフェルとギイがヴィッテンさんから大きな木剣を受け取ってるんだけど……。
「なあ、もしかして単に素振りするだけじゃなくて、受けてくれるって事か?」
嬉々とした二人が頷いて木剣を構えて見せる。それを見た俺達も、慌てて硬鞭をそれぞれ構えたのだった。
ええ、まさかのハスフェルとの久々の手合わせかよ。
そんなの絶対張り切っちゃうじゃないか!