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新たな仲間と鞍と手綱

「あはは……あ、はは……」

 イグアノドンの頭にしがみついたまま、ブルブル震えながら奇妙な乾いたような笑いをこぼすクーヘン。

 うん、ショックのあまり、ちょっとどこかのネジが外れたみたいだ。


「大丈夫か? クーヘン」

 取り敢えず近くまで行って話しかけたが、彼もこれ以上どうしたらいいのか分かっていないみたいだ。だけどしがみつかれた当のイグアノドンは、先ほどとは違いすっかりおとなしくなっている。

「なあ、もしかして、これってもうテイム出来るんじゃないのか?」

 武器の類は一切使っていないが、一応これも抵抗を封じたと言って良いんじゃないだろうか?

 いつの間にか、いつもの定位置の右肩に戻っていたシャムエル様にそう聞くと、笑って頷いている。

「クーヘン、言ってみろよ。自分の仲間にって、あれをさ」

 もう一度声を掛けてやると、しがみついたまま何度も頷き顔を上げた。締めていた手を少し緩めてイグアノドンの顔を覗き込む。


「お前、私の仲間になるか?」


 しばらくの沈黙の後、イグアノドンは小さく頷いた。

「はい、貴方に従います」

 案外若い男の声で答えた次の瞬間、光ったイグアノドンは少し全体に身体が小さくなったのだ。

「おお、上手くいったみたいだな」

 手を離して地面にそのまま飛び降りる。思わず拍手をすると、ずっと見ていただけだったハスフェルとシャムエル様も嬉しそうに笑って手を叩いてくれた。

「勇者の健闘を称えるよ。無事三匹目のモンスターをテイムしたな」

 おお、こいつらもやっぱりジェムモンスターだったんだ。周りを見回すと、俺達の周りを避けるように、百枚皿にまたイグアノドン達が散らばっていた。


「ほら、名前を付けてやれよ」

 嬉しそうに少し小さくなったイグアノドンを撫でているクーヘンに言ってやると、また彼は困ったように俺を見上げている。

「だから、お前の従魔なんだから、名前くらい自分で考えろよ!」

「無理です! そんなの急に思い付かないです!」

「じゃあ今考えろよ。ドロップの名前は自分で考えたんだろう?」

「あ、はい。あいつを見た時、不意にそう思ったんです。雨の雫みたいだなって」

 確か以前にもそんな事を言っていたな。確かに、透明のスライム達は水の雫みたいだ。

「だったらこいつも同じだって。何が見える? こいつにさ」

 大人しくこっちを見ているイグアノドンを指差してやると、クーヘンは真剣な顔で、イグアノドンの身体の横側に駆け寄った。

「じゃあ、チョコって如何でしょう? ほら、こいつの身体の色は、綺麗なチョコレート色でしょう?」

 目を輝かせる彼の言葉に、俺は笑って親指を立ててやった。

「じゃあお前の名前はチョコレートだ。チョコって呼ばせてもらうよ」

 鼻先を撫でながら、嬉しそうに話しかける。

「有難うございます!」

 チョコも嬉しそうにそう言うと、クーヘンの体に頬ずりをした。また一瞬光って元通りになった。

 命名完了だ。


「あ……良いなあ。俺も恐竜欲しい」

 仲良く従魔と戯れる一人と一匹を見て、思わず呟いて慌てて首を振る。

 いやいや、何考えてるんだよ俺。これ以上デカい従魔を増やしてどうするんだ。今でも街へ行く度に怖がられて切ない思いをしてるのにさ。

 脳内で一人突っ込みをしていると、ハスフェルが笑って俺の背中を叩いた。

「それなら場所を変えよう。テイムしたいのなら、もう少し小さいのがいるぞ」

「ええ! そうなのか? 行く行く! 俺も恐竜テイムしたい!」

 目を輝かせて叫んだ俺の言葉に、クーヘンも顔を上げた。

「今ならもうちょっと上手くやれそうな気がします! ケンが行くなら、私も行きます!」

「じゃあ、クーヘンはチョコに乗ってみろよ。鞍が必要そうなら、街へ行って相談してみれば良いだろう?」

「そうですね、多分、鞍よりも手綱が必要そうです。私は鞍無しの馬に乗るのは平気なんですが、さすがに手綱無しでは困りますよ」

 苦笑いするクーヘンに、ハスフェルが小さく吹き出した。

「それなら心配はいらないだろうが。従魔なんだから、お前とは話が出来るだろう?」

「あ、確かにそうですね。そうか、止まって欲しければそう言えば良いのか」

 同時に吹き出して、それから俺達は移動することにした。



「えっと、ちょっとしゃがんでくれるか」

 小さくなったとは言っても、その背中に160センチに足りないクーヘンが乗るには、ちょっと高かったみたいだ。

「分かりました。これで良いですか?」

 チョコが笑いを含んだ声で前足を折りたたんでそっと屈んだ。

「ああ、これならなんとかなりそうだ」

 笑って前足に乗ってそのまま背中に飛び乗った。

 丁度首の付け根部分の辺りが、少し窪んでいるのでそこに上手く収まったみたいだ。

「チョコ、ここで良いか?」

「ええ、大丈夫ですよ。ご主人は軽いから全然負担は無いです。しっかりつかまっていて下さいね」

「ああ、頼むよ。それじゃあ行きましょう」

 嬉しそうなクーヘンの声に、俺達も笑った。



 しかし、動くとやっぱり乗り心地はあまり良く無いみたいだ。何度も落ちかけて慌ててバランスを取って首にしがみつくのを見ていて、俺は考えた。

「なあ、首輪だけでもした方が良く無いか? そうしたら、そこを持てるだろう? それとも、俺たちが作ってもらった予備の手綱を使えないかな?」

「手綱は首輪に取り付ける仕様になっているから無理だろう。あ、他のベルトで代用出来るかな?」

 頷き合った俺達は、それぞれの従魔から一旦降りて、ハスフェルが取り出した予備のベルト一式を見て頷いた。

「クーヘン。ちょっと、チョコを連れてここへ来てくれるか」

 手招きしたハスフェルに頷いて、一旦背から降りたクーヘンがチョコと一緒に側に来る。

「チョコ、首にベルトを巻いても大丈夫か?」

「ええ、でもあんまり締め付けないで下さい」

 何度も頷くチョコを見て、ハスフェルは持っていた太いベルトをチョコの首に緩めに巻いた。しかし、首の部分はややゴツゴツとした細かく硬い鱗が生えている為、滑らずに引っ掛かって止まった。

「これでどうだ? 長さを調整するから一度乗ってみてくれ」

 頷いたクーヘンがしゃがんだチョコによじ登って、さっきと同じ首の根元に座った。

 目の前にある緩んだベルトを掴む。

「歩いてみてくれるか」

 真剣なクーヘンの言葉に、ゆっくりと立ち上がったチョコは歩き出した。

「おお、これがあるだけで全く違いますな。ハスフェル様、しばらくこのベルトお貸しください。街へ戻ったら、考えます」

「ああ、それじゃあ街へ戻るまでそれをしていると良い」

 残りのベルトを一瞬で片付けたハスフェルの言葉に、クーヘンは苦笑いしている。



 そのままハスフェルの案内でしばらく岩の裂け目のような通路を進み、突然出た先は巨大な空間だった。

 先程の百枚皿のあった場所も天井が高くて広かった、言って見れば大きな体育館くらいだった。しかしここは違った。あれだ、ドーム球場。あれくらいは確実にある。

 そして、地面はコレまた凄い事になっていた。

 石筍と呼ばれる鍾乳石が地面からニョキニョキと生えているんだが、その一つ一つがとんでもなくデカい! まるで、冬のスキー場の雪に埋もれた木みたいだ。そうスノーモンスター。あんな感じで地面は埋め尽くされてた。

「あれ、地面にコレだけ石筍が生えてるって事は、雫が落ちて来てるんだから……。」

 そして、ふとそれに気づいた俺は無言で頭上を振り仰いだ。


 そして、目に飛び込んできたその光景に絶句した。


 そう、ドーム球場の天井ばりにやや丸みを帯びた巨大なその天井には、全面にびっしりと先が尖ったつらら状の鍾乳石がぶら下がっていたのだった。


 無言で隣にいるチョコから降りたクーヘンの背中を叩く。

「どうしたんですか?」

 平然と答えて俺を見上げる。

「なあ、あれって……あれって、怖くねえ?」

「うわあ、見なきゃ良かったかも」

 見上げた体勢のままクーヘンはそろそろと後ろに下がり、無言で俺も彼に続いた。

「この広場を抜けた先に……お前ら、何してるんだ?」

 狭い岩の裂け目の通路に逃げ込んだ俺達を見て、振り返ったハスフェルは呆れた声を上げる。

「いやだって、あれ……」

 頭上を指差す俺達を、ハスフェルは鼻で笑った。

「心配するな。あれはそう簡単には落ちて来ないよ。何してる、行くぞ」

 平然とシリウスに乗ったまその石筍の隙間を通っていく彼を見て、大きなため息を揃って吐いた俺達も、無言でそれぞれの従魔に飛び乗り後を追った。


 さて、今度は一体何が出るんだろうね。

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