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今日の予定

「はあ、もう駄目! 勘弁してくれ!」

 息を切らせてその場に座り込んだ俺の悲鳴に、見物人達が一斉に笑う。

 立ち止まったハスフェル達やリナさん達、それからランドルさんも揃って息を切らせながらそれぞれの従魔に寄りかかるみたいにして笑い崩れている。

 周りはもう大爆笑で拍手してくれているし、俺達は息が切れてる上に笑ってるもんだから、もう息も絶え絶えだ。

「待って……マジで、息、止まる……って……」

 マックスの太い首に縋り付いて切れ切れにそう呟きながら、俺は笑い過ぎて出た涙を指先で拭った。

 だけどオンハルトの爺さんを見送った時の、別れの寂しさや喪失感みたいな、何とも言えないしんみりしてた気分が、おかげで全部跡形もなく吹っ飛んじゃったよ。



「はあ、朝からいい歳した大人が揃いも揃って何をやってるんだよ。めっちゃ疲れた……マジで笑い死ぬかと思ったよ」

 ようやく笑いが収まり見物人達も笑いながら手を振っていなくなった頃、俺は大きなため息を吐いてマックスのむくむくの毛に顔を突っ込みながらもう一度そう呟いて小さく笑った。

 嬉しそうに鼻で鳴いたマックスが、俺の体に大きな頭を擦り付けて手を舐めてくれる。

「でも、とっても楽しそうでしたよご主人。それでもう帰るんですか?」

 面白そうな声でそう言われて、笑いながらマックスを抱きしめてやる。

「あはは、まあ楽しかったことは否定しないよ。さてと、この後はどうするかねえ」

 皆で屋台巡りをする予定だったんだけど、オンハルトの爺さんに大量に渡しちゃったから作り置きの在庫が一気に減ったので、ちょっと戻って作りたい気もする。今ならお城の厨房を使い放題だから、オーブンをフル稼働させれば焼き菓子も一気に焼けるし、大量仕込みをするにしても、あそこでやれば広くて楽ちんだもんな。

『ええと、この後ってどうする? 俺はシャムエル様への差し入れがあるから、まずは神殿へ行きたいんだけどなあ』

 こっそりハスフェルとギイに、トークルームを全開にして話しかける。

 あ、しまった。これにしたらシャムエル様にも会話が筒抜けじゃん。

『また差し入れくれるの〜〜〜! だったらまたタマゴサンド盛り合わせをお願い! あとは焼き菓子の詰め合わせもお願いしま〜〜〜〜〜っす!』

 嬉々とした声で今にもステップを踏みそうな勢いでそう叫ばれて、俺達三人は咄嗟に吹き出しそうになるのを堪えて、揃って咳き込んでリナさん達に心配されたよ。

「ああ、すみません。大丈夫です……ゲホンゲホン」

 何度か咳払いをして誤魔化し、あらためてハスフェル達のところへ行って相談している風を見せる。

「ええと、このあとどうする? 予定外にオンハルトの爺さんに料理を大量に渡しちゃったから、ちょっと追加を作っておきたい気もするんだけどさあ」

 振り返って俺がそう言うと、草原エルフ三兄弟が、揃って一斉にこっちを見た

「ええ、せっかくだから当初の予定通りに屋台巡りにしましょうよ。料理が足りないなら、頼めばまとめ買いも出来ると思いますよ」

「それに、屋台だけじゃなくてご希望があれば、バイゼンの街の中ならどこでも案内しますよ」

「夕食の店までバッチリお任せあれ!」

 満面の笑みで胸を張る三人にそう言われて、笑った俺はハスフェルとギイと顔を見合わせて頷いた。

「あはは、まあ、作り置きはまだあるし、確かにこれだけの屋台が出るのって今だけだもんな。それじゃあ、お祭り期間中は、言ってたみたいに俺は何にもしない事にするから、三人に案内を頼んじゃおうかな」

「お任せください! 裏通りなんかにはちょっと変わった創作料理を出す屋台や、遠い地方の珍しい郷土料理を出す屋台なんかもあるんですよ。じゃあ、従魔達にはまた申し訳ないけどギルドの厩舎で待っててもらって、それから行くとしましょう」

「そうだな。確かにマックス達を連れていたら入れるお店は少なそうだしな」

 もう一度マックスの顔を抱きしめてやり、鼻先を思いっきり撫で回してやる。

「仕方がありませんね。では私達はまたお留守番していますから、ご主人達は屋台巡りを楽しんで来てくださいね」

「おう、そうさせてもらうよ。まあお前らはギルドの厩舎でゆっくり休んでてくれよな」

「はあい、あそこはとても綺麗だし、お水も美味しいんですよ」

 そこまで言われて、俺は思わず無言になって考える。それからマックスを見上げた。

「そういえばお前、腹は減ってないのか?」

「大丈夫ですよ。昨夜ご主人がお風呂に入ってる間に、皆で交代してお弁当を食べましたから」

 嬉しそうなその言葉にちょっと遠い目になる。

 まあ、最近では肉食の従魔達の食事はベリーにお願いして、定期的に結界を張ってそこで食べてもらっているんだよな。

 アクアが持っている従魔達のお弁当と言う名の狩りの獲物は、一冬籠城しても余裕なくらいのとんでもない量が備蓄されているらしい。聞くのも怖いので、どれくらいあるのかはあえて聞いていない。スプラッタ怖い……。

 まあ、そんなわけで雪で街の外へ出るのが大変なのもあって、つい甘えてお願いしているんだよ。

「そっか。でもせっかくだから、お祭りが終われば天気の良さそうな日に一度郊外へ出てみてもいいかもな。お前も思いっきり走りたいだろう?」

「ああ、それは良いですね。でもニニ達は嫌がるかもしれませんから、それなら庭にある鉱山跡の扉を開けてもらってもいいですね」

「ああ、まあそれでもいいかもな」

 笑ったマックスの言葉に、あの鉱山跡地であった、とんでもないあれやこれやの事件の数々を思い出してまた遠い目になる俺だったよ。

「はあ、じゃあまずはシャムエル様への差し入れを探さないとな」

 気分を変えるようにそう呟くと、まずは全員の従魔達を預けるために冒険者ギルドへ向かったのだった。

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