朝食とお土産
『おおい、もう起きてるか?』
従魔達とのスキンシップを終えて、急いで身支度を整えて顔を洗ったところでハスフェルからの念話が届いた。
ちなみに今朝の水遊びはかなり控えめだったよ。俺が寒いって言ったのを聞いて、気を遣ってくれたみたいだ。
『おう、おはようさん。今身支度を整えたところだよ。ええと、どうする?朝から屋台へ突撃するのか?』
作り置きは色々あるから、ここで食べても構わないと思ってそう言ったんだけど、ハスフェルは笑って屋台へ行こうと言ってくれた。
「じゃあ、また皆留守番だな。ゆっくりしていてくれて構わないからな」
大きく喉を鳴らすニニとカッツェを交互に抱きしめてやり、もう一度全員を順番に撫でたり揉んだりしてからマックスと一緒に部屋を後にした。もちろんスライム達は小さくなって鞄の中へ入ってもらっている。
「おはよう。それじゃあ行くとしようか」
オンハルトの爺さんだけが、従魔達を全員連れているのを見て寂しくなったけど、帰って来てくれるって言ってくれたから信じて待つ事にするんだと、必死になって自分に言い聞かせていた。
「そんな顔をするな。大丈夫だよ、春までなんてすぐさ」
苦笑いしたオンハルトの爺さんに背中を叩かれて、俺はなんとか笑って返事をしたのだった。
全員出て来たところで、それぞれの従魔に乗って街へ向かった。
バイゼンをよく知るアーケル君達の案内で昨日とはまた違う広場へ行き、今朝は焼きおにぎりとハムステーキを串に刺したのを買ってみた。
「焼きおにぎりにコーヒーは合わないよな。じゃあ手持ちのお茶でいいか」
屋台で売っている飲み物はコーヒーとジュースしかなかったので、ここは諦めて手持ちの麦茶を出しておく。
アクアに出てきてもらってマックスの背中の上で即席テーブルになってもらい、のんびりと焼きおにぎりを齧りながら豪快にハムステーキに齧り付いた。
朝はいつものようにモーニングコールに来てくれたシャムエル様だったけど、俺が顔を洗っている間にいなくなってしまったので、今日も祭壇で参拝客の皆様のお相手をしているみたいなので、今朝の食事は俺の独り占めだ。
ご苦労様、これは神様の務めだもんな。しっかり頑張ってくれたまえ。
心の中でシャムエル様にエールを送り、今日も差し入れはタマゴサンドでいいかな? なんて事をのんびりと考えていて、唐突にある事を思いついた。
『なあなあ、爺さん。ちょっと聞いて良いか?』
周りを見回し、オンハルトの爺さんを見つけたが、ちょっと遠かったので念話で話しかける。
『おう、どうかしたか?』
『一応確認だけど、本当はシルヴァ達のところへ戻るんだよな?』
『まあな、古くからの友人がウォルスの街にいるのは本当だよ。まずは彼の所へ行って、テイムしてもらった従魔達を自慢してこようと思ってな。それが済んだら、シルヴァ達のいる場所へ戻るよ。まあちょいと仕事が溜まっておるんでな』
苦笑いするオンハルトの爺さんの言葉にやっぱりそうかと納得した俺は小さく頷いた。
『それならさあ、お土産、っていうか差し入れをシルヴァ達に直接届けてもらう事って出来る? それとも、やっぱり実物は届けられないのかな?』
確か、神様としての彼女達は、俺達のような血肉を備えた身体は持っていないと言ってた。だけど、ここへ来る時のあの身体は残してあるとも言ってたもんな。
それに、シルヴァ達にテイムしてあげたスライム達が普段住んでいる場所があるって言ってた。
だから、もしかして実物を届けられる貴重な機会なんじゃあないかって思ったんだよな。
『お土産や差し入れだと? もしかして、お前さんが作った料理か?』
『そうそう、料理とかお菓子とか。パフェやプリン、ケーキもまだ少しならあるし、彼女達が直接食べてない料理とかもあるからさ』
単なる思いつきでそう言ったんだけど、オンハルトの爺さんからの答えが返ってくる前に、唐突に目の前にいつもの収めの手が現れた。
そして、ものすごい勢いで上下に動き、力一杯拍手をして、両手でダブルのOKマークをしてから消えていった。
突然の出来事に、食べかけていたおにぎりを喉に詰まらせて本気で咽せたよ。
「全く。マジで喉に詰まったらどうしてくれるんだよって、だから、収めの手ってもっと神聖なもんじゃあないのかよ。そんな気軽に寄越して良いのかって」
なんとか口の中のものを飲み込み、麦茶をグイッと飲み干してから小さく笑いつつそう呟いた俺だったよ。
見ると、オンハルトの爺さんだけじゃなくてハスフェル達まで揃って咽せてたから、彼らも収めの手が突然出てきて吹き出したみたいだ。
なんとなく遠くからだけど顔を見合わせて、揃ってサムズアップした俺達だったよ。