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姉妹との再会

「もう色々と無理すぎる……もう見てるだけでお腹いっぱいっす」

 一口サイズのりんごを口に入れた俺は、小さくそう呟いて背もたれに思い切りもたれかかって天井を見上げた。

 空中に現れた収めの手が、俺に手を振ってから消えていくのを見送り小さく吹き出す。

「シルヴァ達は楽しんでくれたみたいだな。でもまあ、たまにはこういうのもいっか」

 笑ってそう呟くと、なんとか体を起こして周りを見る。

 ハスフェル達は、もう食べ終えたみたいで残っていたビールを飲み干しているところだ。

 あの甘いチョコレートフォンデュを食った後にまだ飲めるのか。それはそれで怖いぞ。

 リナさん達は、割とマイペースでずっとチョコレートフォンデュを楽しんでいるし、ランドルさんもゆっくりだけど、まだちまちまと食べてるみたいだ。

 そしてシャムエル様は、おかわり4回目のチョコレートフォンデュに夢中だ。ちなみに、毎回具材は全部制覇している。本気でシャムエル様の胃袋がブラックホールになってるんじゃあないかと心配になってきたよ。

「おいおい、大事な尻尾がチョコレートまみれだぞ」

 尻尾の先を指先で摘んで引っ張ってやりながら、呆れたようにそう言ってやる。

 シャムエル様は、もう鼻の先から尻尾の真ん中辺りまで、とにかく全身チョコレートまみれだ。

 それなのに机の上にはチョコレートが一切こぼれていないのが不思議なくらいだけど、もしかして何かしてるのかね?

「ああ、ちょっと持っててね」

 そんなことを言いながら、チョコまみれのパンを嬉々として齧っている。

「まあ、お誕生日だもんな。どうぞ好きなだけ食ってください」

 やや少なくなったチョコレートフォンデュタワーを見ながら、小さくため息を吐いた俺だったよ。



「ご馳走様でした!」

「いやあ、本当に美味しかったよ。ご馳走様!」

 ようやく食べ終えてお開きになったところで、全員の声が揃い今回のスポンサーのアーケル君に口々にお礼を言う。

「いやいや、いつもケンさんには美味しい食事をいただいてるんだから、たまにはこれくらいさせてくださいって。まだ他にも美味しい店が色々ありますから、冬の間に行きましょうね」

 さすがはバイゼンをよく知ってるアーケル君達は、おすすめの店を他にも何軒も知ってるみたいだ。

「うん、是非またお願いするよ」

 ここは遠慮せずに、奢られるべきだよな。そう思って笑顔でそう言うと、満面の笑みのアーケル君が拳を突き出して来たのでそのまま俺も拳を出して付き合わせる。それから顔を見合わせて頷き合ったよ

 そのまま店を後にして、腹ごなしを兼ねてのんびりと遠回りをして街を歩き冒険者ギルドへ向かう。

「なんて言うか、平和だなあ……」

 まだそれほど遅い時間ではないので、あちこちの店から楽しそうな笑い声や乾杯の声が聞こえる。時には怒鳴りあってる声も聞こえてるけど、周りの人達は笑っているから大丈夫なんだろう。

 程よく酔っ払い、お腹も一杯になった俺は周りを見回しては和みつつそんな事を考えていたのだった。



「あ! ケンさん! 皆さんも!」

 その時、聞き覚えのある声が聞こえて立ち止まる。

 振り返ってみると、そこにはフクシアさんとお姉さんのファータさんが二人揃って笑顔で手を振っていたのだ。

「ああ、こんばんは!」

 笑顔で手を振り替えすと、フクシアさんが何やら奇声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねてる。

「ほら、何してるの! 失礼しました。皆様お揃いでお食事ですか?」

 ファータさんがフクシアさんの頭を豪快に一発叩いて大人しくさせると、振り返って笑いながら一礼する。

 フクシアさんの扱いが、なんだか思いっきり雑。でもまあ、彼女も笑っているのできっとこれがいつもの彼女達の光景なんだろう。

「ええ、空樽亭で頂いて来ました。もうお腹一杯でね。腹ごなしを兼ねてマックス達を預けている冒険者ギルドまでゆっくり散歩中です」

 笑った俺の言葉に、何故だかフクシアさんが残念そうにしている。

「そうだったんですね。それじゃあ私達は今から夕食ですので失礼しますね」

「はあい、行ってらっしゃい」

 笑顔で手を振ったファータさんが、何やら俯いてぶつぶつ言ってるフクシアさんを引っ張って俺達と反対方向へ歩いて行った。

 なんとなく無言でその後ろ姿を見送り、顔を見合わせて俺は首を傾げた。

「フクシアさん、何か言いたげだったなあ」

 軽くため息を吐いて俺がそう呟くと、何故だか全員から呆れたような顔をされた。

 俺の右肩に座ってすっかり綺麗になっていつものふかふかに戻っているシャムエル様までが、呆れたように俺を見ているのに気付いて俺はもう一度首を傾げる。

「ええと、どうかした?」

 すると、ハスフェル達は顔を見合わせてうんうんと頷き合った。

「まあ、ケンだもんなあ」

「だなあ、まあケンだからなあ」

「だよなあ」

「ええと、一体何を言ってるんでしょうか?」

 思わず下手に出ながらそう尋ねると、振り返ったハスフェルとギイの二人に、にっこり笑って背中を叩かれた。

「まあ、気にするな。それじゃあ、ギルドでシリウス達を引き取って城へ戻るとしようか」

 そう言って、もう一度背中を叩かれて、そのままハスフェル達はギルドのある通りへ歩いて行ってしまった。

「ううん、なんだか誤魔化された気がするんだけど、一体何だったんだ?」

 首を傾げつつ彼らの後ろをついて行く俺の右肩では、これまた何故かシャムエル様が呆れたみたいに大きなため息を吐いていたのだった。

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