まさかの特別料金のデザート登場!
「うああもう無理! もう食べられません!」
既に何杯目か数えていない白ビールを飲みながら、俺はそう叫んで机に突っ伏した。
「ああ、腹がはち切れそうだよ……」
「相変わらず少食だねえ。皆、まだまだ食べてるのにさあ」
呆れたようなシャムエル様に頬を叩かれたけど、入らないものはいくら言っても入りませんって。
目の前の机の上には、大鍋に並々と入った蕩けるチーズフォンデュがぐつぐつと煮えたぎっている。ちなみに、既に三回目の追いチーズが加えられていて、追加の具材は……もう何回目だっけ?
とにかく出て来た料理の量がおかしいくらいにすごい量だったよ。いやあ、前回も大概だと思ったけど、今回はさらに凄かったよ。マジで。
しかも、お祭り限定メニューだとか言って、握り拳ぐらいあるボール型のチーズ入りメンチカツが出て来たもんだから、皆のテンション爆上がりだったよ。
俺はそのまま祭壇にお供えしてから丸ごと全部シャムエル様に進呈したよ。既にその時点で、俺の胃袋は限界に近かったもんなあ。
やっぱりこの世界の人達は全員食う量がおかしいと思う。
リナさん達なんて、あの細い体のどこに入ってるのか本気で問い詰めたい気分だぞ。
「何だ何だ。もう食わないのか?」
またしても追いチーズと追加の具材の並んだお皿が届いたところで、俺の飲んでいるジョッキの倍くらいありそうな大ジョッキを手にしたハスフェルがそう言って笑いながら俺の隣に座った。
「お前らの底なしの胃袋と俺の繊細な胃袋を一緒にするなって。もう限界、これ以上食ったら腹がはち切れるよ」
顔の前で手を振る俺を見て、笑ったハスフェルが俺の背中をバンバンと叩く。
「いや待て、中身が出たらどうしてくれる。今それ禁止!」
「お、おう。悪い悪い」
割と本気で止めたら、俺の本気具合が通じたみたいで、若干逃げ腰になりつつ謝ってすぐにやめてくれたよ。
危なかった。今の衝撃は、食ったものが割とマジでオートリバースの危機だったよ。
「ねえ、チーズフォンデュをもう少しください!」
一息入れていると、空になった皿を手にシャムエル様がまたしてもステップを踏み始める。
「おう、何が良いんだ?」
「えっとね、そのブロッコリーと丸パンの切ったやつ、それから茹でたエビと燻製肉もお願いします!」
マジでシャムエル様も、食った分が一体あの小さな身体のどこに入ってるんだよ。どう考えても物理の法則ガン無視だもんなあ。
そんな事を考えつつ、シャムエル様リクエストの具材を取ってたっぷりのチーズに絡めてやる。
まあ、確かにここのチーズフォンデュは絶品だよ。チーズフォンデュ自体は俺でも作れるけど、絶対ここの方がマジで美味いと思う。
休憩してちょっと復活して来たので、茹で野菜に少しだけチーズを絡めて自分のお皿にも乗せておく。もうちょい白ビールが残っているからこれくらいは食べられるだろう。
嬉々としてチーズまみれになりつつブロッコリーを齧るシャムエル様の尻尾をこっそりともふりつつ、俺もゆっくりと白ビールを片手に茹で野菜を口に放り込んだのだった。
「この後はデザートになります。追加料金をいただければ限定の特別デザートに変更も出来ますが、いかがいたしますか?」
空になったお皿を下げつつ、満面の笑みのスタッフさんがそう言ってメニューをアーケル君に見せている。
「もちろんそれでお願いします!」
こちらも満面の笑みのアーケル君がそう答えてオリゴー君達と何やら大喜びして手を叩き合っている。
「ああ、これはもう丸ごとシャムエル様に進呈だな」
それを見て遠い目になりつつ、小さくそう呟いた俺だったよ。
そして、運ばれて来た追加料金の限定特別デザートに、俺以外の全員が拍手喝采になったのだった。
ええ、何が出て来たかって?
……はい、ここでまさかのチョコレートフォンデュタワーの登場だったよ。
ギルドマスター達、しっかり仕事していたみたいだ。
まあ、フォンデュを売りにしているこの店が、これを見逃すわけはないよな。
絶対デザートメニューで大々的に売り出す計画してると思うぞ。まあ頑張ってくれ。
今回出て来たのは、一応やや小さめの三段になってるやつだから、チョコレートソースの量も大した量じゃあないと思う。まあ追いチョコソースを頼んだら別だろうけどね。
一応、一緒に持って来た具材も果物が多めで、パンやカステラみたいなボリュームのあるのはそれほどはない。まあ、あの量の食事の後だから当然だけど。俺には絶対に無理だな。
嬉々として、全員揃ってチョコレートフォンデュタワーに群がる後ろ姿を見つつ、俺は果物をそのまま自分のお皿に少しだけ取ったよ。
「で、もちろん……」
「全種類お願いします! チョコはたっぷりね!」
これまた目を輝かせたシャムエル様にリクエストをいただき、収めの手が嬉々として撫でさすって持ち上げているチョコレートフォンデュタワーに、黙ってフォークに突き刺した具材を突っ込んだのだった。
ああ、もう駄目だ。この大量のチョコソースを見てるだけでお腹一杯だって。
苦笑いしつつ、諦めのため息を吐いた俺だったよ。