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のんびり街歩き

「あはは、そうきたか」

「まあ、公私混同甚だしいと言われればそれまでかもしれんが、本人がする事なんだから別に構わんだろうさ」

「だな、持ってきたお供えをあれだけ喜んでいるんだから、まあ祝福程度は貰って当然だろうさ」

 はてなマークを連発している俺を尻目に、ハスフェル達は楽しそうに笑いながらそんな事を言ってうんうんと頷き合っている。

「な、なあ、今の……祝福って、何?」

 タマゴサンド程度でそんな大層なものをいただいてしまったのだとしたら、真面目に参拝している他の人に申し訳ない!

 割と本気で戸惑いつつ小さな声でそう尋ねると、振り返ったハスフェルは、何故だかにっこりと笑って俺の背中を叩いた。

「まあ、気にするな。祝福と言ったって、そんな大層なものじゃあないって。あくまでも今日の運勢がちょっと良くなる程度だよ。例えばくじ引きが当たるとか、買った肉がちょっと大きめのを貰えるとか、な」

「マジ?」

「マジマジ。普段より、ちょっといいことがある程度だよ」

 俺の呟きに笑ったハスフェルが頷きながらマジだと言ってくれる。

「ま、まあその程度ならありがたく頂いておいても良心は咎めないかなあ。ええと、ありがとうございます。せっかくだから後で屋台で串焼き肉でも買ってみる事にします」

 二個目のタマゴサンドを食べ終えて早くも三個目の燻製タマゴサンドに突入しているシャムエル様に、こっそりと手を合わせておいたよ。

「それじゃ行きましょうか」

「次は、ケンさん念願の屋台回りですよ」

 その声に振り返ると、お参りを終えたリナさん一家とランドルさん達が俺達に手を振っている。

「ああ、それじゃあ行きましょうか」

 俺も笑顔でそう答えて、タマゴサンドを爆食中のシャムエル様を置いてゆっくりと人の流れに沿って神殿を出て行ったのだった。

 一応、出て行く時にあの弁当箱を持って帰るように俺に言った神官様を見たんだけど、次々にやってくるお供えをする人の受付に忙しくしていて、俺が弁当箱を置いていった事には全く気づいてなかったみたいだ。よしよし。



 それから俺達は、雪まつりの会場へ向かう間に、道の両端にぎっしりと並んだ屋台を見ながらゆっくりと歩いて行ったよ。

 出ている屋台も色々で、料理やお菓子を売ってる屋台だけじゃなくて、弓で的を狙って当たったら景品がもらえる、いわゆる射的や、小さな丸い金属をお箸で摘んでお皿まで持っていく、いわゆるヨーヨーすくいみたいなのもあっった。

 もう、あちこちから楽しそうな笑い声や歓声、時には悲鳴が聞こえたりしてなかなかに賑やかだよ。

 俺は気になった屋台で買った大きな串焼き肉を齧りながらのんびりと歩いてる。

 うん、これは美味い。それに確かに他の人より肉が大きい気がする。

 なんだかちょっと嬉しい、小さな幸せ。

 その次に買った大学芋みたいなのも、何故だか俺のところだけオマケが乗っかってた。これまたちょっと嬉しい小さな幸せ。

 そして、普段ならどれも半分はシャムエル様に取られるのに、全部食べられて嬉しい反面ちょっと寂しかったのは内緒だ。この辺りも色々買っておいて、今晩にでもシャムエル様にあげよう。

 そう考えて、色々買っては時折自分で収納したりもしていた。



「なあ、料理もいいけど何かやってみたい! どれが良いかねえ」

 小さめのじゃがバターを食べ終えた俺は、そう言いながら周りを見回す。

 なんでも、祝福のおかげで今日の運勢がよくなってるらしいから、クジ的なのがあればやってみたい。

 そんな事を考えながら料理以外の屋台を見ていると、何やら文句を言う声が聞こえてそっちを振り返った。

 射的をやりたいと言ってる冒険者風の若者達に、店主が首を振って断っている。どうやらそこの射的で出来るのは子供だけみたいだ。

「あはは、そりゃあそうだな。冒険者には弓を生業にしてるやつだっているだろうから、そんなのにやられたら、景品全部持って行かれるよなあ」

 苦笑いしながら思わずそう呟くと、側にいたアーケル君がいきなり笑い出した。

「ケンさん。それがそうでもないんですよね」

「へ? 何が?」

 驚いて振り返ると、アーケル君は子供達が歓声を上げている射的の屋台を指差した。

「まあ、あの店は大人はお断りの店みたいですけど、実はあんな場所で使われている弓ってわざとバランスを崩して作られていたりするんですよね。そもそも矢が真っ直ぐじゃあなかったり、弓のしなりも上下で大きく歪んでいたり、弦がゆるゆるだったりね」

「ええ、だけどそれだとそもそも真っ直ぐに飛ばねえんじゃね?」

「そうですよ。わざとそうしてあるんです。だけど子供達って殆どの場合弓を持つのが初めてだったり、腕の力も弱いし、筋肉なんてほとんど無いでしょう?」

「まあ、そりゃあそうだろうな。あんな歳で冒険者してたら、そっちの方がびっくりだよ」

 俺の言葉にリナさん達が笑って頷いている。

「でも、だからこそバランスの悪い弓矢でも抵抗なく引けるんですよね。だから案外真っ直ぐに飛んで的に当たったりもするんですよ」

「へえ、そうなんだ」

「逆に弓が上手な冒険者がそういったあまりにもバランスの悪いしかも子供サイズの小さな弓を使うと、どうしても上手く射る事が出来なかったりするんですよ。そりゃあどんな弓であっても真っ直ぐに引く、とんでもなく弓が上手な冒険者もいない訳じゃあないだろうけど、そもそもそんな人は子供相手の射的に無闇にしゃしゃり出たりしませんって」

 顔の前で手を振るアーケル君の説明に納得して俺も頷く。

「なるほどねえ。だけどそれを知ってるって事は、アーケル君はやった事がある?」

 思わずそう尋ねると、何故だかリナさんとアルデアさんが同時に吹き出した。

「バイゼンじゃあ無いんですけど、王都で私達が子供達を育てていた時に、同じようにお祭りで、今みたいに皆で屋台巡りをした事があるんですよね」

 リナさんの言葉に、アーケル君だけでなくオリゴー君達も笑って頷いている。

「それで俺がとある屋台で弓と矢を借りてやったんですよ。飾ってあった景品の、木彫りの鳥の置き物がすごく綺麗でそれがどうしても欲しかったんですよ。その時の俺って、ちょうど親父から弓を習い始めてかなり上手くなっていたから、絶対出来ると思って自信満々だったんですよね」

「へえ、それで貰えたの?」

「だから、一回目を射た時にあまりにも弓のバランスが悪い事に気が付いてしまって、もう散々だったんですよ。それで半泣きになって、店主の許可を貰って最後の一本だけは親父に頼んで代わりに射てもらったんです。いきなりその鳥の置物の前に置かれた的のど真ん中に的中させた親父が、もうどれだけ格好良く見えたか」

「一応その時の服装は、全くの普段着だったからそもそも冒険者だとは思われてなかったからなあ」

 そう言って肩を竦めて苦笑いするアルデアさんに、俺達は笑って拍手を送ったのだった。

 まあ、見かけはちょっと耳が長いだけの美少年だからなあ。きっとその屋台の店主も驚いただろうさ。

 そんな話をしながら、俺達はのんびりと街歩きを楽しんでいたのだった。

 さて、次は何を食おうかなあ。

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