神殿への参拝は大行列!
「うわあ、めちゃめちゃすっげえ人だなあ」
「ほお、これはすごい」
綺麗に雪かきされた道路をムービングログで移動した俺達は、到着した神殿前の道路で呆気に取られて立ち尽くしていた。
創造神様を祀った巨大な神殿前には、もはや最後尾が何処なのかすら定かではない大行列が出来上がっていて、広い道をぎっしりと埋め尽くしていたのだ。
その人ごみの間には何人もの神官らしき人達が立っていて、必死になって大声で時折叫ぶみたいに呼びかけながら行列の整理に追われていた。
なんとなく神殿前の辺りはきっちりと並んで列になっているんだけど、神殿前から少し離れるともはやカオス状態。もうどこを向いても人だらけ。大きなマックス達を連れ来なくてよかったと割と本気で思った俺だったよ。
とにかく邪魔なムービングログを大急ぎで全員が収納して、まずは身軽になる。
「ええと、これ……どうする?」
「ふむ、これは驚いたな。街中の人が集まって来ているのではないかと思えるくらいの人の出だのう。いやあ、有り難い事だ」
あまりの人出に戸惑う俺の呟きに、オンハルトの爺さんは妙に嬉しそうにそう言って笑っている。そりゃあまあ、これが全部シャムエル様のお誕生日祝いに来てくれてる人だって思ったら嬉しいよな。
「まあ、仕方がない。せっかく来たんだからとにかく並ぶとするか」
苦笑いして諦めのため息を吐いた俺は、そう言って列に沿って後ろへ向かって歩き始める。
自称最後尾がいればそこに並べばいいし、無理なら何となく人の流れに沿って進めば、そのうち適当なところで列になるだろう。
などと予想したんだけど甘かったです。
もうとにかくぐちゃぐちゃ。そしてある意味実力社会。割り込みや横入りは当然だし、そもそもどこに並べばいいのかすら分からないんだもんな。
顔を見合わせた俺達は揃って苦笑いして、とにかく小柄な草原エルフファミリーを真ん中にして安全を確保すると、ハスフェルとギイを先頭に俺とランドルさんが左右に、そして最後尾にオンハルトの爺さんが並んでひと塊になって移動していった。
そして適当なところで、なんとなく神殿側へ向かう流れに乗る事が出来た。
そしてそのままはぐれない様に団体のままで進み続け、おそらく一時間以上は余裕で並んでなんとか神殿の前の道路にまで辿り着く事が出来たよ。
その時に気がついたんだけど、いつの間にかハスフェルの肩にあの小人のシュレムが座っていたのだ。
「お久し振りですなあ、ケン殿」
俺の視線に気付いたのか、シュレムが笑顔で俺に向かって手を振ってくれる。
「お、お久し振りです」
小さな声でそう言って、リナさんやランドルさん達を見る。だけどまあ、予想通りに全くの無反応。
「お気になさらず。祭り見物に来ているだけですからな。ああ、言っていませんでしたね。早駆け祭り二連覇おめでとうございます」
器用にハスフェルの肩の上から立ち上がった小人のシュレムは、にっこりと笑って優雅にお辞儀をして見せた。
「ありがとうございます。二回目は本当にギリギリだったんですけどね」
すると、シュレムは笑って顔の真ん中をゆっくりと水平に横切るみたいに指で線を描いた。
「あはは、もしかして見ました?」
「もちろん、シルヴァ達も大笑いしていましたぞ」
楽しそうに笑いながらそう言われて、あの時の大騒ぎを色々と思い出してしまってちょっと遠い目になった俺だったよ。
そんな感じで、のんびりとシュレムと話をしていたら、無事に神殿内へ入る事が出来た。
「では、また会いましょう」
笑顔でそう言うと、シュレムは一瞬で消えていなくなってしまった。
『あいつは今回、シャムエルに付き合って神々を代表して祭壇に座ってくれているんだよ。だけどさすがに退屈になって逃げて来たらしいよ。あいつの暇つぶしに付き合ってくれてありがとうな』
笑ったハスフェルからの念話が届き、なぜ急にシュレムがここにいたのか納得した俺は笑って首を振った。
『久しぶりに会えて嬉しかったし、暇つぶしに付き合ってもらったのは俺の方だよ。おかげで後半は並んでても退屈しなかったもん』
『そうか。そう言ってもらえるなら良かったよ』
笑ったハスフェルの念話の言葉に、俺も笑って頷いたのだった。
しかし、シャムエル様にしろシュレムにしろ、どうやって他の人には見えないようにしてるんだろうね。俺にはさっぱりだよ。
って事で、考えても答えの出ない疑問は全部まとめて明後日の方向へぶん投げておく。
「おお、やっと順番が来たよ」
見上げんばかりに巨大な神殿の鉄製の扉は、今は全開になった状態で留められていて、扉の前に数段ある階段は真ん中の手すりを中心に左右に出ていく人と入る人とに分けられている。俺達は右側の入る側に並んでいて、行列中は塊のままで並んでいたんだけど、神殿前で整列させられて今は綺麗に三人ずつになって並んで進んでいる。
なので、先頭がハスフェルとギイとランドルさん、二列目に俺とリナさんとアルデアさん。三列目に三兄弟が並び、その後ろにオンハルトの爺さんが、その後ろに並んでいた赤ちゃん連れの若夫婦と一緒に並んでいる。
「蝋燭はこちらでご購入いただけます!」
「お供物は、こちらで受け付けておりますのでどうぞ!」
階段前の列の横では、蝋燭の入った箱を持った何人もの神官様や、台帳のようなものを持ったお供えの受付をしている神官様の声が聞こえる。
「ああ、そっか。いくら何でもお供えをこっそりあげるのはルール違反だよな」
用意して来たお供えは、果たして受け付けてもらえるだろうか?
かなり不安になりつつ、俺の分の蝋燭の購入もハスフェル達にお願いした俺は、お供えの受付担当の神官様に見せるために、用意していたそれを鞄から取り出したのだった。
……うん、もしも駄目だって言われたら、後でご本人に直接あげよう。