朝食とまとめ買いとお供え準備
「おお、あったかいスープやお粥が色々あるなあ。どれにしようか迷うぞ」
少し遠目にのんびりと屋台を見て回っていた俺は、少し考えてから目星をつけた一軒の屋台へ向かった。
「おやっさん、一杯もらえるか」
そこはお粥を出している店で、中華粥っぽいのにカリカリに揚げた餃子の皮っぽいのや、白髪ネギや何かの木の実が山盛りにトッピングされていて、めっちゃ美味しそうだ。
「はいよ、食ってくか?」
「ああ、ここで頂くよ」
「おう、それじゃあこれでどうぞ。食ったらお椀はここへ返してくれよな」
屋台の横に水を入れた大きな桶が置いてあるのを見て、俺は笑って頷きやや大きめのお椀を受け取って金を払った。
「へえ、レンゲが付いてるよ」
差し出されたお椀には、いわゆる中華式のスプーンである陶器製のレンゲが差し込まれていたのだ。
バイトしていた定食屋のレンゲを思い出してしまい、懐かしさにちょっと涙腺を緩ませつつ、ほんのりと生姜の効いたその中華粥をせっせと混ぜながら美味しくいただいた。
「うう、薄味で美味しいし体があったまるよ。いいなこれ。これはまとめて買っても許されるかな?」
屋台の後ろの荷車にはぎっしりと大鍋が並んでいるが、この人出を見て少し考える。
「ううん、普段ならまとめ買いって何処も喜んで応じてくれるけど、このお祭り期間って絶対買い占めたら迷惑かかりそうだ。でもこれは欲しいなあ」
しばし考えて、まずは残りを冷めないうちに平らげる。
「ご馳走様でした!」
笑顔でご馳走様を言ってから、店主の手が空いた隙に話しかけてお願いしてみる事にした。断られたら諦めるよ。
「あの、すごく美味しかったんですけど、まとめて鍋に入れてもらう事って出来ますか?」
「おう、嬉しい事言ってくれるな。もちろん構わねえぞ。たっぷり用意してあるからな」
おやじさんは、ニンマリと笑って後ろの荷車にぎっしり並んだ大鍋を指差した。
「えっと、お粥の味は一種類ですか?」
「朝はこの生姜味。生姜味が無くなれば海老団子と川海苔のお粥になるよ。それが無くなれば鶏団子と生姜のお粥になる。全部無くなれば閉店だ。まあ、どれくらいで無くなるかは俺にも分からんよ」
豪快に笑う店主に俺も満面の笑みになり、以前中華粥を入れていた中サイズの寸胴鍋を取り出した。
「味ごとに貰っても構いませんか?」
そう言って寸胴鍋を三つ取り出した俺を見て、店主が遠慮なく吹き出す。
「あはは、そこまで言われちゃあ断れねえな。おおい、母ちゃん。この兄ちゃんに粥を鍋ごとにまとめて入れてやってくれるか!」
大きな声でそう言うと、屋台に来ていたお客さんの相手をし始める。
すぐに年配のおばさんが一人、荷車の向こうから出てきてくれた。
どうやら具の準備をしていたみたいだ。
「おやおや。鍋で買ってくれるのかい、そりゃあ嬉しいね。ちょっと待っとくれよ」
お椀を手にしたそのおばさんは、俺が渡した寸胴鍋にお椀で何杯入るか計りながらそれぞれの大鍋から取り分けてくれた。
「ほら、これも持って行っとくれ。カリカリと白髪ネギ、それからクコの実と松の実のごま油漬けだよ」
大きなお椀に用意されたトッピングの具も出してくれたので、慌てて大皿を取り出してそこに入れてもらう。
「沢山ありがとうね。普段は東側の城壁横の広場に屋台を出してるから、また良かったら買いにきておくれ」
「ああ、そうなんですね。じゃあまた押しかけます」
お金を払いながら納得した。
東側って、ギルドの宿泊所があった側からも遠いし、今のお城があるのとも反対側だ。だから知らなかったのか。
納得した俺は、この際だから冬の間にいろんな場所の屋台を見て回ろうと密かに考えていたのだった。
「さて、まず無くなってたお粥をゲットしたけど、あとは何があるのかねえ?」
お粥を食べて体は温まったけど、まだもうちょいくらいは食べられそうだ。
隣のパン屋の屋台を見て、俺はニンマリと笑って店主にあるお願いをした。もちろん、それだけじゃなくて売ってるパンも色々買わせてもらったよ。
それから、川魚の串焼きの店を見つけて焼き立てを一つもらう。
「ううん、焼き魚も久し振りだ。これも買いだな」
なんとなく鮎っぽいけど、もうちょっと身がガッツリある丸々と太った脂が乗ったその魚は、塩が効いててとても美味しい。あっという間に平らげた俺は、綺麗に骨だけになった串ごと側にあったゴミ入れに放り込み、ここでも焼けているのをまとめて買わせてもらった。
まあ、これは基本俺用の買い置きだよ。焼き魚は俺的にはやっぱり欲しいもんな。
それから、おそらく鮭じゃなくてマスだろうと思われる赤身の魚の切り身を焼いて売ってる店も発見した。ここは他にも白身の魚もあったので、ここでも主に俺用に色々まとめ買いさせてもらった。
「よしよし。思わぬところで焼き魚ゲットだ。いいねえ、これでまた和食が楽しめるよ」
自分用の食料をまとめて買えた俺はご機嫌で他の屋台も見て回る。
ハスフェル達は大きな肉の串焼きをまとめて買ってガッツリ朝から食ってるし、リナさん一家もサンドイッチを色々大量に買って広場の隅で食べている。そしてランドルさんは大きなおにぎりを両手で持って丸齧りしていた。
「うわあ、めっちゃ美味しそう。ランドルさん。それってどこで買ったんですか?」
思わず駆け寄って店の場所を聞き、そこでもお願いして具入りの巨大おにぎりを色々と買わせてもらった。
よしよし、おにぎりの在庫の種類がまた増えたぞ。これはやっぱり主食だもんな。
そのあと、少し休憩してからコーヒーの屋台でマイカップにコーヒーを入れてもらってのんびりと味わっていただいた。これはややアメリカンだったけど、なかなか美味しいコーヒーだったよ。
それから、食事を終えた全員集合したところでまたムービングログを取り出して、今日のもう一つの目的地。創造神様を祀った神殿へ向かったのだった。
さて、シャムエル様は真面目にお仕事してるのかね?
さっきのパン屋の屋台でお願いしてわざわざ作ってもらったあれをお供えしたら、果たして祭壇にいるであろうシャムエル様がどんな反応をするのか、密かに楽しみにしている俺だったよ。