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試作開始!

「ご主人、そろそろ砂が一回落ちるよ!」

 俺がシャムエル様のもふもふ尻尾を堪能していると、砂時計を担当してくれていたゼータが大張り切りでそう教えてくれた。

「おお、ありがとうな。どれどれ」

 シャムエル様を捕まえたまま、オーブンの様子を見に行く。

 シャムエル様も逃げもせずに俺の手の中に収まったまま、興味津々で一緒になってオーブンを覗き込んでいたよ。

「ううん、もうちょいってとこだな」

「ううん、もうちょいってとこだね」

 俺の言葉に続き、シャムエル様が得意げにそんな事を言ってる。

「焼け具合、分かってるのか?」

「そんなの分かる訳無いじゃん!」

 なぜか胸を張ってそう断言される。

「あはは、そこ断言するのかよ」

 苦笑いしつつ呆れたようにそう言って、もう一度もふもふの尻尾を突っついてやった。

「もう駄目です!」

 しかし尻尾を奪い返したシャムエル様は、一瞬で机の上に戻ってせっせと尻尾のお手入れを始めてしまった。ああなってしまっては、もう尻尾は当分の間触らせてもらえないからな。残念。

 小さく笑った俺は、その後は5分ほど膨れて来たオーブンの中の生地を見ながら過ごしたのだった。



「よし、いい感じに焼けたぞ。じゃあこれ、冷ましてくれるか」

 側にいたアルファにお願いして、天板ごと冷ましてもらう。

 しばらくモゴモゴと動き回っていたアルファが、すぐにすっかり冷めた天板を吐き出してくれた。

「ありがとうな。じゃあこれをひっくり返して天板から外して、薄紙を剥がしますよっと」

 手順を口に出して確認しながら、大きめのまな板の上に天板をそっとひっくり返して中身を取り出し、敷いていた薄紙をそっと剥がす。

「よし、いい感じに焼けたぞ。じゃあ、これを量産するぞ」

 一度作っているので、後はもう俺は計量するだけだ。スライム達に準備を任せた俺は、オーブンをフル稼働させてこの薄いスポンジ生地をせっせと焼き続けた。

「パウンドケーキだと一時間くらい焼かないと駄目だけど、これは15分くらいで綺麗に焼けるから作業が早いよな。ううん、生クリームの絞り方とかも、時間のある時にちょっとくらい練習してみてもいいかもな」

 道具は一通りあるんだし、失敗しても実害はないんだからチャレンジしてみてもいいかもしれない。

 お菓子作りも楽しいので、食べてくれる人が大勢いる間にチャレンジしてもいいかもな。



「それで、こんなにたくさん薄べったいケーキを焼いて何をするの?」

 どんどん焼き上がる薄いスポンジ生地を見て、尻尾のお手入れが終わったらしいシャムエル様が目をキラキラに輝かせながら聞いてくる。

「ふふふ。まあ楽しみにしててくれよな。せっかくだから、新しい事にチャレンジしてみようと思ってさ」

「期待してます!」

 器用にその場でとんぼ返りを決めたシャムエル様が満面の笑みでサムズアップを決めてくれた。

「あはは、ご期待に添えるように頑張るとしますか」

 笑った俺は、空いた机の上に厚紙を取り出した。それからハサミ。

「紙とハサミで何をするの?」

 これまた興味津々の様子で、俺の手元を見ながら聞いてくるシャムエル様。

「型紙を作るんだよ。全員分作ろうと思ったら同じ大きさに切らないと駄目だからさ」

 厚紙と言っても、段ボール紙ほど分厚いわけじゃなくて、ノートの表紙くらいの分厚さだ。

「ええと、大体こんなもんかな」

 その厚紙を折って、5センチ角ほどの正方形や長方形の形をいくつか作っていく。

「こんなもんかな。ええと、一枚の生地から全部取れるかなあ」

 厚紙を冷ましたスポンジ生地に当てて、効率良く取れる方法を探す。

「よし、これでいこう」

 なんとか必要枚数を一枚の生地で取れるように紙を当てた俺は、ナイフを片手に生地を小さく切り分けていった。

 スライム達が、これまた興味津々で集まって俺の手元をガン見している。

「ええと、切り分け方はこれな」

 ノートを取り出して正方形を書いた俺は、そこに線を引いて型紙を見せながら切る位置の説明をする。

「分かったと思うから、やってみるね!」

 サクラが一枚の生地を飲み込み、モゴモゴした後に教えた通りに綺麗にカットしたのを吐き出してくれた。

「おお、完璧! じゃあ、あと十枚分の生地を切って分けておいてくれるか。俺は今から試作を作るからな」

「はあい、残りはどうしますか?」

 焼き上がったスポンジ生地は十枚以上ある。

「おう、また何かで使うからそれはそのまま保存しておいてくれるか」

「了解です!」

 サクラとくっついてモゴモゴしたスライム達が、先を争うようにしてスポンジ生地に群がり一瞬止まった結果、喧嘩しないようにゴールドスライムになって作業していたみたいだ。

「仲良くな」

「はあい!」

 ご機嫌なスライム達の返事に小さく笑って、俺は取り出した平たいお皿にまずは長方形にカットした生地を取り出した。

「ええと、ここに生クリームを塗って、カットしたイチゴを散らす。それでもう一枚乗せてそこにはバナナだな」

 手にしているのは、泡だてた生クリームの入った大きなボウルとパレットナイフと呼ばれる道具だ。

 ナイフと違って刃は無くて、平らな金属のヘラみたいなのだ。

 これを使って生クリームを綺麗に伸ばすらしい。



「お、案外出来るじゃんか」

 スポンジ生地に生クリームを取りパレットナイフで平らになるように綺麗にならす。

「いい感じじゃんか。よしよし、これならなんとかなりそうだ」

 スポンジ生地を三段に重ねて周りにもたっぷりと生クリームを塗る。

「ここは素人だから、適当でいいよな」

 市販のデコレーションケーキみたいな綺麗さは無くて、あちこち凸凹だけどこれも手作りの良さ!

 開き直って生クリームのボウルを置き、その隣には正方形のスポンジ生地も同じように積み上げて生クリームを塗っていく。

「ふわあ、それってもしかして!」

「おう、これは雪のバイゼンの街並みだ。そして、ここに城壁とお城だ!」

 栗クリームの入ったしぼり袋を取り出し、作った街並み代わりのスポンジ生地の横に道を絞り出していく。

 それから取り出したのは先に焼いてあった、シャムエル様リクエストのガトーショコラとブラウニー、それからベイクドチーズケーキ。一人前サイズにカットして綺麗に並べていく。

「ここに果物を飾って、それからまたここにも栗クリームをトッピングっと」

 どんどん飾り付けて、最後に粉砂糖をたっぷりと全体にふりかける。



「これで出来上がりだ〜! 題して、雪のバイゼンと雪のお城と城壁だ!」

「ふおお〜〜〜〜〜〜〜!」

 シャムエル様の歓喜の雄叫びを聞きながら、ちょっとドヤ顔になった俺だったよ。

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