お菓子作り開始!
「ええと、確かこの前作ったパウンドケーキを、そういえばまだ食べてなかったなあ」
オリゴー君とカルン君が来て初めて一緒に夕食を食べた時、栗クリームを大量に絞ったモンブラン風マロンタルトを出したら全員のテンションが爆上がりになっちゃって、そのまますっかり忘れてたんだよな。じゃあこれはそのまま出せるな。それで、リクエストのケーキは何だっけ?
何を作るか腕を組んで考えていた俺は、すっかり綺麗になった作業用の大理石の天板の机の上に座ったシャムエル様を振り返る。
「ええとね、ガトーショコラとブラウニー、それからベイクドチーズケーキとパウンドケーキ。それからクッキー色々! 後は栗とか栗クリームを使ったケーキが食べたいです!」
「あはは、了解。じゃあパウンドケーキ以外は順番に作るか」
リクエストしてくれたお菓子なら、どれも混ぜて焼くだけだから材料さえ計れば後はスライム達に任せられる。
サクラに順番に材料を取り出してもらいながら、新しく作るなら何にすべきか考えていた。
「ううん、このバイゼンをイメージしてデコレーションするなら、どうしても雪景色になっちゃうよな。だけどそれだとリクエストのケーキと合わないんだよなあ。どうすべきかねえ」
師匠のレシピ帳を取り出し、そんな事を呟きつつそれぞれの材料をせっせと計っては、スライム達に渡して順番に混ぜて準備をしてもらう。
そして作り付けの大きなオーブンに火を入れて、種類ごとにまとめて金型があるだけ作っていく事にした。
しかもオーブンも一箇所だけじゃなかったもんだから、シャムエル様リクエストの焼き菓子は、ほぼ全部を同時進行で焼く事が出来たよ。ううん、大きな厨房って素晴らしい。
「さて、後は何を作るかなあ」
タイマーを担当してもらってる子達以外は手持ち無沙汰みたいなので、果物を色々出して飾り切りをたくさん作っておいてもらう。それから生クリームも大量に泡立てておいてもらった。
俺は師匠のレシピを流し見しながら、この後何を作るか考えていた。
「せっかくだから、新しいケーキも作りたいんだけど、俺でも出来そうなのって、他に何かあるかなあ……」
お菓子の欄を順番に見ながら考えていて、あるページで手が止まる。
「へえ、これくらいなら俺でも出来そう。しかも、飾りのやり方も色々あるんだ。へえ、じゃあこれにするか」
ちょうど近くにいたイプシロンに、レシピ帳を開いた状態でホールドしてもらい、まずは材料を大量に取り出して並べてあった中から取り分けていく。
「何々、材料は卵と砂糖と小麦粉とコーンスターチ、ん? コーンスターチって何だ?」
初めて見る材料の名前に、俺は無言でサクラを振り返った。
「はい、これだねご主人。ええと、お店の人によるとコーンから作った粉なんだって言ってたよ」
「おお、ちゃんとあったよ。まあ、コーンスターチってくらいだから、そりゃあとうもろこしが原料なんだろうさ」
苦笑いして渡された白い粉の入った包みを受け取る。
それから、レシピ通りに材料を計っていった。
「ええ、何々、まずは小麦粉とコーンスターチを合わせてふるいにかけておく。おおい、誰かこれ混ぜてふるっておいてくれるか」
「はあい、やりま〜す!」
すぐ近くにいたクロッシェが小麦粉の入ったボウルごと飲み込み、コーンスターチを計ったお皿も飲み込む。
「はいどうぞ!」
綺麗にサラサラになった粉が入ったボウルを吐き出してくれた。
「おう、ありがとうな」
人目があって普段は滅多に出てこられないクロッシェを手を伸ばして撫でてやる。
「ええと、これは一旦置いておいて、卵と砂糖をまずは湯煎で温めながらしっかり泡立てればいいんだな。じゃあ誰かやってくれるか」
泡立ての加減は俺が見ないと分からないので、まずは湯煎用のお湯を沸かしてから来てくれたゲルプとバーミリオンにその場で泡立て器を使ってせっせと泡立ててもらった。
「よし、これくらいしっかり泡立てればもういいだろう。それでここにさっきの粉を入れてしっかり混ぜる、っと。それでこれをここに流し入れて焼けばいいんだな」
平らな天板と呼ばれるオーブンで焼く際のトレーに、製菓用の薄紙を敷いたところに作ったたねを流し入れる。平らにならしてからオーブンに入れて蓋をする。
「じゃあ砂時計一回半だから、一応一回分が落ちたら様子を見るから教えてくれるか」
「はあい、お任せください!」
砂時計担当のゼータが得意げにそう言って、触手で敬礼して砂時計をひっくり返す。
「おう、よろしくな。ええと、あとはこれを刻んでおいてくれるか」
取り出してあったイチゴとメロンを、手の空いてる子達にサイコロ状に小さく刻んでおいてもらう。
「生クリームはたっぷりあるし、じゃあ頑張ってこれが焼き上がったらデコレーションして試作を作ってみるとしますか」
にんまりと笑った俺は、キラッキラに目を輝かせて俺を見ているシャムエル様に向かってサムズアップしたよ。
当然、シャムエル様もちっこい手でサムズアップを返した後、いきなりお皿を持って踊り始めた。それを見て、当然のようにカリディアが即座に隣にすっ飛んできて一緒にステップを踏み始める。
「食、べ、たい! 食、べ、たい! 食べたいよったら食べたいよ〜〜〜〜〜〜〜!」
最後は歓喜の雄叫びと共に、ものすごい勢いでその場で回転してぴたりと止める。もちろんカリディアも一緒の大回転だ。すげえ。
「おお、オリンピックのスケーターみたいだったぞ。って、どわあ〜〜〜! 危ねえ!」
笑った俺が拍手すると、胸を張ってドヤ顔になるシャムエル様。しかし、どうやらものすごい高速回転に対応しきれず目が回っていたみたいで、そのまま後ろ向きにすっ転んだ挙句、机の上から落ち掛けて慌てて俺が空中キャッチしたのだった。
「てへ、ちょっと失敗。助けてくれてありがとうね」
誤魔化すように俺の手の中で笑うシャムエル様に、大きなため息を吐いた俺は思いっきり顔を埋めてもふもふな尻尾を堪能させてもらったのだった。
危ないところを助けたんだから、これくらいは当然だよな。